3日目はドーバーへ行くことにしました。一番始めの計画では、この日はロンドン市内の観光に専念するつもりだったのですが、レイルパスがあるのでやはり少し使わないと勿体ないかと思いました。1、2日目は個別に切符を買って行き来するという選択肢もありましたが、パスの利点はやはり行動の自由度が違う(現地で臨機応変に乗る列車やルートを変えられる)のと、切符を買うのに並ばずに済むというところでしょうか。
まずは昨日と同じSt.Pancras駅に出ます。この駅は方面というか運行会社ごとにホームが違っている。今回はSoutheastなのでそちらへ。Victoria駅でなくこちらからは、おそらく途中までユーロスターと線路を共有している高速線の列車が利用できます(ユーロスターもここSt.Pancras発)。トーマスクックの時刻表では海沿いの一部区間が不通でバス代行ということになっていましたが、ナショナルレールのルート検索によれば今は復活しているようでした。しかし、ドイツでもそうですが、こうして簡単にネットでルートを調べられるとは便利な世の中になったものです。
ただ、残念ながら2等車のみでの運行です。この「Javelin」という車両、日本の日立製作所で作った車両だそうです。何となく車体の流線型が新幹線やJR九州あたりの車両に似ているような気もします。
1時間少しでDover Priory駅に着き、城に向かって歩き始めます。城は高台にあるので町中からでもよく見えるのですが、当然、坂を登っていかねばならずこれがなかなかきついところです。
目的のドーバー城に着いたらチケットとパンフレットを買って中に入ります。
見所はいろいろありますが、基本的には順路は特になく敷地内を自由に見て回る形のようです。
まずはメインの建物であるGreat Towerのある中心部を目指します。
坂を登って城門を抜け、城壁に囲まれた一帯の中心にありますが、その城壁も展示室やカフェなどとして使われており、先にその展示を見ることにします。
最初の展示はこの城が最初に作られた12世紀の話です。ヘンリー2世が建てたのですが、その息子が有名なリチャード1世獅子心王、そしてその次が別の意味で有名なジョン失地王で、ヘンリーがフランスに領地を広げ、リチャードが戦いに明け暮れ、ジョンがフランスの領地をほとんど失った(この時にドーバー城もフランスに攻められている)という経緯が映像で紹介されています。肖像が画面の地図上をあちこち行き来し、死亡するとパタっと倒れるのがなんともユーモラスですがとてもわかりやすいですね。
次の展示はこの城との関わりも含めてのイギリスの歴史で、特に近世以降は中東、インド、アフガン、中国、アフリカ、そして二度の大戦ととにかく戦争をしてばかりの国というイメージが強くなります。第二次大戦では日本ともビルマ戦線で戦ったことが説明されその時に捕獲したのだろうか、日本兵の拳銃や日の丸の旗などを展示してありました。
そして次にGreat Towerへ入る。中世の城の天守閣、いわゆる「キープ」で、ここも特に順路は設けられていないのですが、作りがややこしくて迷いそうな構造になっています。中は各部屋を当時の生活様式のように再現してあり、なかなか臨場感があります。例えば一階は調理場、二階三階には王の生活空間や謁見室があります。暖炉では薪も炊いてあってなかなか本格的な演出です。中世なので昨日カントリーハウスで見たみたような華麗なものではなく、家具も質素なものですが、吹き抜けになった広間でかなりの高さのある玉座では、座って写真を撮ったり出来るので楽しい工夫が施されています。
礼拝堂や騎士の控え室なども見つつ、最後は屋上へ。イギリスの城は尖塔になっていないので展望台のように解放された空間になっています。もちろん、ここからは町や港、ドーバー海峡の景色がよく見えます。
次にはもう一つの中世エリアで、城壁の下に張り巡らされた地下トンネルMEDIEVAL TUNNELSへ向かいます。「中世の」とはいえ、奥の方は改築されて砲がおいてあったりするのですが。ドーバー城は12世紀に建てられた後も増築や改築がされて規模が大きくなっている。ある意味、銃や砲、果てには航空機までもが登場するたびに防衛施設もアップグレードされていく様子が分かります。古い建物は無骨な石造りだが、その後のものは意匠が違ったり煉瓦づくりになっていたりして見比べるのもおもしろいです。縄張りもおそらく基本は最初のものだろうが、近世の大砲が置かれるようになったり、さらには二度の大戦時の対空砲陣地まで作られたりしてとにかくよく使われている印象です。
そして少し離れた場所にあるSt. Mary-in-Castro教会とその隣にあるローマ時代の灯台を見ます。灯台はさすがに登ることは出来ず、外観だけの見学。教会は城中だからかシンプルな造りでした。ここも修復中のようで、周りが足場で囲まれているのが残念なところです。
これらを一通り見た後、ガイドツアーで見学する、第二次大戦時の地下施設を見に行くことにします。
まずは第二次大戦の、特にダンケルク撤退戦の時に使われた地下指揮所の見学をします。20分おきに出発する所要60分ほどのガイドツアーによるもので、途中の部屋でダンケルク戦に至るまでの経緯を映像付きでいくつかの部屋で見るのがメインです。ニュース映画風、戦闘指揮所風、壁にワイド映像映写など飽きがこないように工夫されているます。当時の音源(会話や爆音など)がBGM代わりに流されていて臨場感もあります。撮影禁止なので内部を紹介出来ないのが残念なので、公式サイト(http://www.english-heritage.org.uk/visit/places/dover-castle/things-to -see-and-do/operation-dynamo/)をご覧ください。最後にミュージアムショップに出るのが作りの上手いところです。
続いて隣の地下病院を見学します。こちらも第二次大戦時に使われた施設で、医療器具や手術台、病室や食堂などがそれらしい形で展示されています。所要20分ほどで、パネル展示と違ってガイドツアーは英語がほとんど聞き取れないと理解が難しいと痛感します。
その後は近くにある第一次大戦時の見張り塔を見ます。増築が繰り返されたようで構造がなかなか興味深いものとなっています。これも単独であればなかなかの戦争遺跡であるはずですが、ここまで来る人はほとんどいないのが残念なところです。そのおかげで独占して見学出来るのですが。
屋上は展望台になっており、ドーバー港のフェリーや海峡がよく見えます。残念ながらこの季節では対岸は見えないようです。ヨーロッパ大陸の場合は海岸沿いも平地で見えていたとしてもわかりにくいかもしれないですね。
最後に第二次大戦時の対空砲陣地を見て、城中心部を見納め、カフェで一休みして城を後にします。
ドーバーが戦略的に要地であることや城はそもそも強固な軍事施設であることを踏まえても、12世紀に作られた城がつい最近まで使われていたというのは感慨深いものがあります。聞けばシリア内戦でも昔の城塞施設が今の軍事拠点として使われているといいますし、日本でも西南戦争で加藤清正の築いた熊本城で攻防戦が行われていますから、割とあることなのかもしれません。
帰りに町の中心部にあるDover Museumを見学することにします。
ここは古代から現在までのドーバーの歴史を概略したようなところで、石器時代、青銅器時代の発掘物が特にたくさん並べられています。ヴィクトリア期の街並みの写真や町の様子のジオラマなどもユニークです。町の発展が年代ごとの模型を使って説明されているのもわかりやすくて好感が持てました。
特別展示室には青銅器時代のコーナーがあり、目玉の船(オークの木を使って長さ9メートルもある)中心に当時の様々な道具が生活様式の説明と共に展示されています。これで入場無料というのは隠れた穴場的見どころかもしれません。
帰りはまた違う経路にしてみました。40分待てば行きと同じ高速線経由の列車があるのですが、せっかくなのでVictoria行きの普通列車を利用します。一応、1等車もありますし。
この日の夕食は宿近くのインド料理の店に行き、インドビールにシシカバブ、ブリヤニという炊き込みご飯のようなものをいただいきました。美味だったが、これまで小食できたところだったのでかなりの満腹感どなりました。帰りにパブに寄ろうと思っていましたがその余裕はなくなってしまいそのまま宿に戻ります。