今回の旅行は、1週間のイギリス行きになった。
去年の夏休みにはドイツに行ったのだが、2年連続でヨーロッパに行くとは実は思っていなかったのである。
それなりにマイルがたまっていたので、今年は国内の航空券ではなく海外を狙ってはいたのだが、台湾か東南アジア、よくてもハワイくらいだと思っていた。だが、キャンペーンやら何やらいろいろ追加のマイルがたまったせいか、何とヨーロッパに行ける分が確保できたのである。
最初は九月の中頃を狙っていたのだが、さすが特典航空券、使わせる条件はなかなか厳しくて、オンシーズンは4ヶ月くらい前でも満席。そんなこんなでやっと確保できたのがこの日程だったのである。
去年はドイツだったから、今年は別の国にしようと思って思いついたのがイギリス。フランス語とかイタリア語とかになるともう完全にお手上げだが、英語ならそれなりに何とかなりそうであるし、歴史とか白とか興味もあるので行ってみようとことになった。
夏頃に鉄道パスと宿も確保し、準備は完了。今年に入ってから円安基調で、思ったよりもお金がかかってしまったが……。
今回も基本はパスを使って鉄道による移動。あちこちの町で気に入った場所を訪問しながら移動するという感じである。
ヨーロッパの鉄道はドイツで大分慣れてきたが、イギリスはまたドイツとは違っているようなので注意しないとならないかもしれない。
さて出発。
成田から全日空の直行便で約12時間飛んでロンドンのヒースロー空港へ。
この日は東京もロンドンも天気はよくなかったが、途中はそんなこともなく、シベリアあたりでは大きな川などなかなか雄大な景色も見えた。
座席で見られる映画もあまり面白そうなものはなく、本を読んだり、ボードゲームのルール和訳をしたりして過ごす。
飛行機はほぼ定刻にロンドンに到着。
割とすんなり入国手続きも済んで、ついにイギリスの土を踏むことになった。
地下道を歩いていき、ロンドン市内行きのヒースロー・エクスプレスの乗り場へやってくる。今回使う鉄道パスでは、これにも乗ることが出来るそうなので、早速バリデート(使用開始)の手続きをしてもらう。
新型の快適な列車で15分、ロンドンのパディントン駅へ到着。
時刻は17時くらいだが、まだ外は暗くなっていない。
ロンドンは、市の中心部を囲むようにしていくつかの鉄道のターミナル駅がある。それぞれのターミナルは受け持っている方向がある。今日はロンドンから西に1時間半ほど行ったバースという町に泊まる予定なのだが、そのバースへ向かう列車はちょうどヒースロー・エクスプレスの着くこのパディントンから出るので便利だ。
駅の構内をぶらぶらしつつ雰囲気を観察。行き止まり式の構造は確かにヨーロッパ的で、ドイツで見たいくつかの駅とも似ている。一方、イギリスの鉄道は日本の国鉄(JR)と同じように民営化されたが、鉄道の車両(運行)はいろいろな会社が受け持っているので、時刻表にも「担当会社」の欄があったりする。
バースに行く列車はブリストル行きだと思っていたのだが、その時刻発の列車を発車案内で探してみても見つからない。
もう一度調べてみると、18時発の列車はその先まで行くらしく、別の行き先になっていた。案内板で停車駅にバースがあるのを確認してホームに向かう。
列車は割と近代的な客車で、前後にディーゼル機関車が付いているプッシュプルタイプの編成だ。手前側が1等車なので少しホームを歩き、「standard class」の表示のある2等へ向かう。
乗客は割と多く、発車15分前くらいだったがほぼ満席で、ギリギリで席を確保できた感じである。
イギリスの列車もドイツと同じように、指定席自由席の区別はなく、予約がされるとその座席に、区間を書いた札が差し込んであって予約されていることを示している。逆に、札のない席、あっても該当する区間でないところならば自由に座ってよいということになる。
さて列車は定刻より3分ほど遅れて出発。揺れはほとんど無く乗り心地はいい。席はテーブルを挟んだ4人向かい合わせで、私と同じくらいか少し年上そうな女性が二人と、初老のビジネスマン風の男性が一人である。
曇り空の中を列車は走っていく。速度もかなり出ているようで、隣を走っている近郊電車をさくっと追い抜いていく。
さすがに19時近くなると外は暗くなってしまう。
概ね15分おきくらいに停車駅があるが、乗り降りは結構多いように見受けられる。イギリスの鉄道では特急急行料金というものはないそうで、予約のことは別にすれば、その区間の切符を持っていればどの列車にも乗れる。なので、私の乗っている「特急らしい」列車にも一駅間だけ乗っていた人もいた。
ロンドンから1時間半ほど、約10分の遅れでバースに到着した。
もう夜になってしまっているので周りの様子はよく分からないが、それほど大きい駅ではないようだ。
今日泊まることになっているABBEYというホテルは駅からもそう遠くないのですぐにたどり着ける……と思いきや、地図が分かりにくくてかなり迷ってしまった。
教会という、かなりわかりやすいランドマークがあるのに、地図には道しか記されていないのも問題だ。宿の外見の写真も付いており、老舗のホテルっぽい外見を見たものの、周りに似たような「年季の入った建物」がたくさんあって分かりにくい。
結局、通りがかりの親切な人に教えてもらい、何とか投宿。
この日は時差の関係もあって一日も長かったので(日本とイギリスの時差は8時間)、シャワーを浴びてこの旅行記を書いたら寝ることにした。
さて、二日目。今日から本格的な観光開始となる。
目が覚めて窓から外を見ると、昨日と同じようなあまりはっきりしない天気である。
朝食を取りに下のレストランへ降りると、外気は割と冷たかった。
朝食はコンチネンタルスタイルということで、スクランブルエッグを載せたトーストをメインにあとはバイキング形式でいろいろ自由に食べられる。
昨日は結局、夕食を取らずに寝てしまい空腹だったので、朝からかなりの量を食べてしまった。
宿を出たのは9時少し前。
近くにある案内所がまだ始まっていないので、ひとまず駅に向かって大きな荷物をコインロッカーに預けようとする。
しかし、駅にはコインロッカーはないようで、後に見た案内所も同様だったので結局、荷物を引きずったまま町歩きをすることになってしまった。
駅員は「コインロッカー」という単語を理解していなかったっぽいので、ひょっとするとイギリスでは基本的にこれはないのかもしれない。
今日は後にバーミンガムに移動するが、イギリス第二の都市の表玄関であるバーミンガム駅にもコインロッカーはなかったのでこの推測はあながち的外れではないかもしれない。そうだとすると今後の移動と観光を考えると大変なのであるが……。
そのまま駅からまた宿の近くまで戻る。最初に行ったのはローマン・バスである。
1世紀に、ブリテン島を征服したローマ人が作った浴場がが発祥で、ローマや地元の神々の信仰と共にあったのだが、キリスト教の布教に伴い、邪教の施設扱いされて埋もれる。その後、18世紀になって貴族の保養施設として再び脚光を浴びるようになり、現在に至っているという。
確かにローマの神殿のような作りの廊下の中心に温泉が沸いている様子は時代を感じさせる。ちなみに、英語で風呂のことを「bath」というのは、温泉浴場のあったこの町の名前が由来になっているという。
入場料を払って中に入り、オーディオガイドを借りる。日本語のものもあるので助かる。
まずは二階のテラスから中心の浴場である「グレート・バス」を見る。柱にはローマの兵士や女神をかたどった彫刻もあり、それらしい感じがする。
浴場はこの他にももっと広い敷地を持っていたようだが、全部が発掘されたわけではない。だが、その一部が、あった場所に忠実に展示されている。敷地を再現するような順路で展示室があり、脱衣所であるとか、貴族が従者にマッサージや香油塗りをさせた休憩室、今でいうところのサウナ室や水風呂まで完備されていたようだ。
展示を見ながら説明を聞いていくと、他にもいろいろなことが分かった。
この地を征服したローマ人だが、土着の神にも理解を示し、それが自分の神のひとつミネルバと重なる性質を持つと知ると、両者を取り込むようにしてこの神殿の信仰対象としたそうだ。キリスト教が浸透するまではそうしてローマ人と地元の人間の両方に奉られている宗教的な施設でもあったそうだ。
この浴場が「遺跡」になってしまったのは、キリスト教がそうした信仰を「邪教」と見なして排斥したからだと思われる。神殿に捧げられているコインが、その時(キリスト教がやってきた時期)を境に急激に減っていることからも分かるのだそうだ。
最後に今でも湧き出ている温泉を見ながらもう一度グレート・バスを見ると見学は終了である。ミュージアムショップを見るとついいろいろ買いたくなるが、我慢してパンフレット程度にしておくことにする。イギリスは物価が高いのでこうした小物も意外に値段がかさんだりする。
このローマン・バスの入場券も、これから行く服飾美術館と合わせて13ポンド(約3千円)するから馬鹿にならない。
次は、隣にあるバース寺院に向かう。立派な建物の寺院というと、大聖堂という言葉を思い浮かべるのだが、パンフレットによると、司教座となっていないこの建物は大聖堂とは呼ばず、あえて言えば「僧院」になるのだという。
ドイツで見たケルンやウルムの大聖堂には及ばないが、建築に120年ほどかかったというこの建物も充分に立派である。
中に入ると正面にあるキリストの生涯を描いたステンドグラスや使徒の像などがある。残念ながらキリスト教に関する知識が多くないので詳しい内容はよく分からないが、実際に礼拝をしている人もいる厳かな雰囲気の中を、あまり他の人の邪魔にならないように見て回った。
その次はその服飾美術館へ向かうのだが、少し遠回りしてバルトニーという橋を見に行くことにする。
この橋が特徴的なのは、単に川に架かった橋であるのではなく、その上部が一つの建築物になっていて、店などが設けられていることである。それは側面から見るとよく分かる。
一方、橋の上の方を見てみると、今度は単に両側に店が並んだ通りにしか見えず、橋の上とはとても思えない。
橋の見物を終えて、町の中心部を通って目的の服飾美術館にやってくる。
とにかく風呂が有名なバースだが、18世紀から第二次大戦前ころまでにかけて、ファッションの先端を行く町でもあったそうだ。貴族の社交場も設けられ、それを当てにした様々な商売(仕立屋、手袋や靴、帽子などの職人)が開かれていたという。
この美術館の建物はその社交場だったもので、アッセンブリー・ルームとして立派なシャンデリアの部屋を見学することができる。中央のボウルルームは圧巻であったが、両側の二つの部屋は工事中だかイベントの準備中だかでほとんど見ることが出来ないのが残念だった。これらの部屋ではカードゲーム(トランプだろう)などが行われていたという。
さて、本題の服飾美術館である。
実際にこの町が由来であるドレスなど、様々な服が展示されている。
戦後のものもあるのだが、個人的にはそちらにはあまり興味がないので流していき、19世紀以前のものをよく見ていくことにする。先のアッセンブリー・ルームでの交友会などの説明も聞きながら、色も様々な立派なドレスを見ていく。普段着や子供用のドレスなどもあって興味深い。
また特に下着や水着というコーナーもあり、やや恥ずかしく思いながらも面白く見ていくことが出来た。コルセットやクリノリンの体験試着コーナーなどもあったが、さすがに私は遠慮しておいた。コルセットは誰かの助けがないと(後ろでぎゅっと縛ってもらう)装着出来ないので仕方がないし。
女性のスーツというのは乗馬服から派生したものであるという「なるほど」であった。
ただ、着たいが大きすぎたせいか、展示している服の数にやや物足りなさを感じてしまった。また、せっかくヴィクトリア時代もカバーするのであったら、上流階級だけではなくメイドやその他の使用人の服についても展示しているとよかったのだが……。
ミュージアムショップでは、パンフレットの他に「ヴィクトリア時代のイギリス」という本を見つけたので購入することにする。
この次に向かったのは、ロイヤル・クレッセントという建築物である。
ここに来る途中の、サーカスというロータリーを囲むように建っている曲線の建物もそうなのだが、このロイヤル・クレッセントは向かいの公園の緑地を包み込むように位置する美しい半円形の建物である。
中に入ったりすることは出来ないので外見だけの見物だが、見ていても確かに圧倒される。
これで概ね、市内の観光は完了である。
途中、郵便局に寄って絵はがきに貼る切手を買おうと思ったのだが、窓口がすごい行列になっていたので諦める。
駅に着くと目的地(乗り換えてバーミンガムまで行くのだが)のブリストルまで行く列車まで少し余裕があったので、荷物整理がてら休憩する。
歩いているときはさほど感じないが、ジャケットの上を来ていてもやや肌寒く感じるくらいの気温である。町中ではコートを着ている人もちらほら見つけたので、それもそうかもしれない。
バースからは15分ほどでブリストルに着き、10分ほどの乗り継ぎでバーミンガム方面の列車に乗り換える。
こっちは4両編成の気動車で、力強そうなエンジン音を響かせている。
車内は空いているが、予約の入っている席もぼちぼちあり、空席を見つけて腰を下ろす。
ブリストルを出ると一気に加速し、時速160キロくらい(「100マイル列車」という別名もあるそうなので)で走っていく。曇りなので景色は素晴らしいとまではいえないが、広がる牧草地の中を快適に走っていく。乗り心地はよい。
イギリスの鉄道は大陸とは違って、日本と同じ左側通行なのでわかりやすい。日本と違うのは、踏切がほとんどないことだろうか。
また、時々支線が出たり入ったりするので見ていてあまり退屈しない。
バーミンガムには16時半頃に到着。駅の中を少しウロウロしたあと、近くにあるBURITANIAというホテルに投宿する。今回は2泊なので腰を落ち着けることが出来そうだ。老舗のホテルらしく、設備の古さは否めないが雰囲気は悪くない。
少し休んだ後、食事に出掛けることにする。結局、今日も昼食を抜いてしまった……。
レストランは、ガイドブックに出ていた、近くの「シェイクスピア」という店である。店内は普通のパブレストランのようで、一品ごとにお金を払うシステムである。
最初にビールを頼み、席を確保してからハンバーガーを注文する。これだけでも5ポンド(1,200円くらい)だから決して安いとはいえない。
ビールは美味しかったが、ハンバーガーは少し量が多めだった。不味くはないがやはり大味なのは否めない。
付け合わせのポテトも食べきるとかなり満腹になり、空腹に入れたビールが効いてきたところでホテルに戻る。
明日の行動予定を確認し、デジカメで撮った分の写真をパソコンに転送し、この旅行記や友人に出す絵はがきなどを書く。
一人旅なので夜は時間に余裕がある。昼間はかなりアクティブに動くので、これくらいがちょうどいいだろう。