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第3章 この街で暮らすということ

春は過ぎ、季節は夏へと移っていった。

朝、あれだけ寒い思いをして家を出ていたのもどこか遠い世界での出来事のように感じられるようになった。

真理子のいる生活もすっかり日常となり、メイドとその主人という関係は遵守しながらではあったが、確実にお互いの存在を重く感じるようになっていた。

政康は真理子の仕事を頼もしく感じていたし、真理子も自分の能力が発揮できる政康の家に住むことが出来るということに感謝の気持ちを持っていた。

しかしながら、夏はメイドにとってはなかなか厳しい季節ではあった。清潔さが何よりも要求される中で、汗ばむ気候というのは不快である以上に様々な気遣いを必要とするものになる。台所の食材も、少し油断すれば痛んでしまい、料理に関しても細心の注意を払わねばならない。

メイド服は生地の薄い半袖の軽装に変わったが、たとえ暑いとしてもエプロンやリボン、カチューシャなどはきちんと身につけて仕事しなくてはならない。

政康が会社に行っている昼間の時間帯は、極端に言えば多少、服装に関しては簡略化しても構わないというのはあったであろうが、真理子は決してそこに流されることはなかった。

この服装が自分にとって好みであると同時に、服装をしっかりすることによって、仕事に対しても真剣に向かい合うことが出来ると考えていたからである。

僅かの間ではあったが、八月の盆の頃には夏休みを取ることも出来た。

政康も土日に三日間の特別休暇を加えて、久しぶりに長い休みを満喫することが出来た。この機会に、故郷へ帰る道筋の途中にある温泉にでも立ち寄ろうと計画して、買ってきた観光ガイドブックを見ながら検討している政康を、真理子がうらやましそうに見つめていた。

「うーん、候補は三ヶ所くらいあるんだけど、どこがいいだろうかな。お盆を少しだけ外したのは正解だったかもしれないな」

「そうですね。でも、うらやましいです」

「だったら、真理子さんも一緒にどう?」

「えっ、そんな、わたしでなんかがご一緒するなんてとんでもありません」

「ははっ、冗談だよ。ごめん、ごめん。そういえば、真理子さんも帰省するんだったよね」

「はい、一度、前にお勤めに上がっていたお屋敷に挨拶に寄ってから木曜日の夕方の新幹線に乗ろうと思います」

「帰りは日曜日でいいの?」

「はい、その予定です。明るいうちに戻ってくるつもりでいますからご安心下さい」

「ありがとう。でも、折角の帰省なんだから、ゆっくりしてきてもいいんだよ」

「いえ、本当のところは帰省というよりも向こうのお友達に会いに行くようなものですから。父も母も、まだ現役で働いているんですよ」

「そうなんだ。でも、ご両親も真理子さんの顔を見れば喜ぶんじゃないかな」

「そうですね」

真理子がにっこりと微笑んだ。その笑顔には多分に真理子の希望も入っていたかもしれない。

「まあ、久しぶりの休みだからね。日曜日は、真理子さんが早く帰ってきてくれたら、夕食はどこかに食べに出かけようか」

「いいのですか、私がお作りしなくても」

「だって、真理子さんにとっても休みは日曜までだからね。それとも、僕なんかと食事に行くのは迷惑?」

「そ、そんなことはありません。ひどいですよ、そんな言い方は」

真理子はそう言って頬を膨らませるが、もちろん、言う方も言われる方も本気でそのようなことを思っているのではなかった。

「ごめん、冗談だよ。とにかく、真理子さんもお休みを満喫してきてね」

「わかりました。政康さんもですよ」

「うん」

お盆の翌週を休みにしたのは、家族持ちの上司が必ずこの時期を休むためであったのだが、政康にとってはこれは好都合でもあった。

朝夕の通勤ラッシュもこの時期だけは少々楽であったし、上司が休みであるというのは仕事をするにあたっても気が楽になるものである。

そんなことを言うと、真理子に「いけませんよ、そんな考え方をしては」とたしなめられたのではあるが。

水曜から三日間、そして土日という連休に入り、初日は家でのんびりと過ごすことにした。

普段の食事などの時には見慣れているメイド服姿であったが、昼間の掃除や洗濯をしている真理子を見るのは久しぶりであった。

朝食を遠慮してゆっくり起きた政康が、買ったまま読まずにあった本を手にしてリビングでくつろいでいると、そうしててきぱきと仕事をこなしている真理子の姿がどこかまぶしくも思えた。同時に、根っからの庶民である政康は真理子を働かせて自分がこうしてのんびりしていることに罪悪感を覚え、ついつい「何か手伝おうか」と声を掛けるのだが、真理子に優しく「いいえ、政康さんはゆっくりなさっていて下さい」と諭される。

そんな心落ち着く休日を久しぶりに過ごした後、翌日から政康と真理子は帰省した。

二人とも、久しぶりになる故郷ではそれぞれ楽しく過ごしてきた。地元の友人と旧交を温めあう。懐かしい景色を見る、それだけでも気分が大いにリフレッシュされるのが自分でも分かる。

政康はお袋の味を満喫しながらも最近、つとに増えてきた「そろそろお嫁さんはどうなの?」という言葉を巧みに振り払っていた。

真理子の方は、相変わらず多忙らしい両親とあまり顔を合わせることは出来なかったが、それでも一家団らんの食事などを楽しんできた。

そして、日曜日の昼過ぎ、容赦ない日差しと蝉の鳴き声が暑さを痛感させる中、ほぼ同じ時間に遠藤家に戻ってきた。

郵便受けに何も残っていないのを見た真理子が玄関のチャイムを鳴らすと、案の定、気楽な格好をした政康が中から姿を見せた。

真理子の方も、今日ばかりは暑さを軽減させるような身軽な格好をしていて、その新鮮さが一瞬だけ政康をどきっとさせた。

それでも真理子の笑顔は今までと変わることなく、早速、いれてくれた紅茶を味わいながら「最近は、この家が落ち着くね」と言って真理子を喜ばせた。

熱い紅茶を冷房の効いた部屋で飲むという、ある意味ではかなりの贅沢を満喫しながら、政康は台所に立つ私服姿の真理子に声を掛ける。

「あ、そうだ」

「はい、なんでしょうか?」

手を動かしながら、真理子が顔を政康の方に向ける。

「真理子さんにお土産を買ってきたんだけど‥‥」

「わぁっ、ありがとうございます。でも、私も政康さんに買ってきたんです。つまらないもので恐縮なんですけど」

「いや、それを言うなら僕の方だって‥‥。ちょっと取ってくるね」

「はい、私も」

二人とも小さな紙袋を持って部屋から戻ってきた。

「開けてみてもいいですか?」

「うん。僕もいいかな」

「はい、もちろんです」

本来は自分の部屋で開けてから改めてお礼を言うのが筋なのであろうが、同じ家に住んでいてそうするのはかえって奇妙なものになってしまう。相手が喜んでくれるのを見られるというのもあって、二人はすぐその場で開けてみることにした。

期せずして、ほぼ同時に取りだしたのは共にキーホルダーであった。

「あれっ?」

「あっ‥‥」

お互いに、思わず苦いものが混ざった笑顔を見せ合うことになる政康と真理子。

真理子が買ってきたのは、地元の特産品である翡翠の飾りが付いたキーホルダーだった。男性が使っても違和感のない様なシンプルなデザインのものだったが、それがかえって実用性を増しているともいえる。

一方の政康は、やはり地元名産の果物をあしらったキーホルダーだった。最近あちこちで見かける、果物を擬人化したキャラクターの人形が付いている。ユーモラスさと可愛らしさが同居したもので、真理子のような女の子が持って歩くとその可愛らしさの方が強調されるように思われた。

「ふふっ、可愛いですね。名前などはあるのでしょうか?」

「うん、確かあったと思うけど‥‥、うーん、忘れてしまった」

「残念です‥‥。でも、今度調べておきますね」

「そうだね。真理子さんもありがとう、早速、この家の鍵に付けさせてもらおうかな」

そう言って、テーブルに載っている鍵を手に取る。少し古びたキーホルダーは、ちょうど新しいものに取り替えるのによい頃合いだったかもしれない。

真理子もポーチから、預かっている遠藤家の鍵を取り出す。

「はい、私もそうさせて頂きます」

「うん。もう少ししたら、出かけようか」

夏休みを締めるにふさわしい楽しい時間が待っていた。

翌日からは政康にとっては社会復帰である。真理子も数日間のブランクがあるので掃除も少し大変になるかもしれない。


日常に慣れてくると時の流れも早く感じられるようになるものである。

「暑さ寒さも彼岸まで」とはよくいったもので、九月の最初にはまだまだ厳しいと思われた残暑も急速にその姿を消していった。

秋は真理子にとって好きな季節だった。「食欲の秋」というように、豊富な食材を使っていろいろな料理を作れることが何よりも嬉しかった。

衣替えで軽装になっていたメイド服も長袖のものに戻り、体をこの服に包まれていると、どこか安心できるものを感じることが出来る。

年度の後半を迎え、しばらく政康の仕事が忙しい時期もあったが、世間の例に漏れず半期の決算報告が新聞紙上をにぎわす頃になるとそれもやがて落ち着いてくる。

食べ過ぎを気にする政康に、真理子は「それは体が必要としているということですから、我慢なさらないほうがいいです」と声を掛ける。

「でも、真理子さんの料理は美味しいから、必要以上に食べてしまいそうで」

政康がそう言うと、真理子は嬉しそうな表情をする。

「これでも、栄養のことも考えて作っていますから、心配なさらないで下さい。私も、秋はいつも食べ過ぎてしまうんです。ダイエットのことなどを考えた方がよろしいのでしょうか?」

「ううん、さっきの真理子さんの言葉をそのまま返すよ。こういうことを言っていいのかわからないけど、真理子さんは決して太ってなんかいないし」

「ありがとうございます」

「いつも不思議に思うんだけど、女の人ってどうしてそんなに太る太るって気にするのかな。我々男性から見ると、少しはふくよかなくらいの方が魅力的に見えるんだけど」

「そうなんですか?」

「うん。町中で時々、すごく細い女の人を見かけるじゃない。なんか、風が吹いたら倒れてしまいそうで見ていられないよ」

「でも、女の人にとっては細身の体ってあこがれなんですよ」

「うーん、そんなもんなのかな」

「はい。痩せている方が似合う服なども多いですし」

「そうなのかな。まぁ、僕は今の真理子さんがとてもいいと思うけどな」

「ふふっ、ありがとうございます。あっ、でも‥‥」

「うん?」

「それって、逆に言えば『これ以上太るな』ってことじゃないですか?」

悪戯っぽく笑いながら真理子が言った。

「むむっ、そういう悪意のある捉え方はよくない」

「ごめんなさい、ちょっと冗談言ってみたかったんです。でも、お誉めいただいて私は嬉しいです」

気のせいか、若干顔を赤らめながら、ほんの僅かだけわざとらしい事務的な仕草で真理子は食べ終わった政康の食器を台所に戻した。

その次の土曜日は、小春日和というにふさわしい穏やかな晴天になった。暦上はまだそこまで秋は深まっているとはいえなかったが、しばらく冬すらをも思わせるような寒い日が続いていたために、この青空が貴重なものに感じられた。

遅めの朝食を終えた政康は、しばらくくだらないテレビなどを見て時間を過ごしていたが、窓から見える青空に心を動かされて、買い物がてら少し外に歩きに出ようと考えた。

ハーフコートを部屋から持ってきた政康は、財布をそのポケットに突っ込んで玄関に向かう。

玄関では、ちょうど真理子が掃除をしているところであった。

「政康さん、お出かけですか?」

かがみ込んだ姿勢で顔を上げる。いつもと違って束ねている髪がやはり普段と違う角度ということもあってかどこか魅力的に感じられる。

「うん、いい天気だし、ついでに買い物なんかもしてこようと思って」

「お買い物でしたら、玄関のお掃除が終わったら行こうと思っていました。私におっしゃって下されば買って参りますのに」

「いや、特に買うものが決まっているってわけじゃないんだ。百円ショップみたいなところを適当に見たり、本屋に寄ったりとかそんなつもりだから」

「わかりました、気を付けて出かけてらして下さいね」

掃除の手を休めて真理子が体を起こしたとき、外から別の声が入ってきた。隣家の智香であった。隣には夫の久志の姿もある。

「あら、遠藤さん、お出かけ?」

「あっ、川西さん。おはようございます。ええ、ちょっとぶらぶらと」

「こんないい天気だから勿体ないものね。わたしたちはこれから買い物よ」

「おや、ご主人もご一緒ですか」

「そう、体のいい荷物持ちってところですな」

「何言ってるのよ、今日の晩のおかずの決定権は俺にある、なんて言ってたくせに」

大げさに肩をすくめながら久志が言うと、当然のように智香が異議を唱えた。

「ま、そんなことも言った気がするな」

どこか尻に敷かれているような雰囲気もあったが、この隣夫婦の仲の良さは見ていて気持ちのよいものがある。

智香は、今度は政康の隣に立つ形になっていた真理子に声を掛けた。

「遠藤さんもお出かけなんでしょう?真理子さんもご一緒?」

「いいえ、私はお掃除がまだ終わっていませんので」

「ということは、遠藤さん一人で?」

「まあ‥‥」

政康が曖昧に答えると、智香はわざと大げさな仕草で言った。

「だめじゃない、そんなことじゃ。折角のお休みなんだし、たまには一緒に出かけてみたら?」

「えっ、そうですが‥‥」

「それとも、遠藤さんの買い物って、真理子さんには見せられないようなものなの?」

「お、おい、智香‥‥」

勿論、他意はなく完全に冗談のつもりで言ったのだが、さすがにそれは久志にたしなめられるところとなった。

「あっ、ごめんなさい。悪気はないのよ」

「それはわかってますよ」

笑いながら手を振って、気にしていないということを政康は示した。時々玄関先で声をかわすようになって、どこか憎めない智香の性格というものもわかってきた政康であるが、一方で、実はしっかり智香を制御している久志の存在も政康には大きく認識されていた。

時々、食卓で真理子が智香のことを話すこともあって、以前とは比べものにならないほど隣家との距離が近づいているということに改めて気付いた。仮に一年前であったとしたら、こういう会話はなく単に「おはようございます」と言うだけであっただろう。真理子のおかげであるといえば、確かにそれに違いない。

「でも、ホントに折角なんだから、一緒に出かけてみたら?お掃除なんて絶対に今すぐしなきゃいけないものでもないでしょ」

「そうですね。そうしたらどう、真理子さん?」

「はい、お言葉に甘えさせて頂きます」

「相変わらず真理子さんは言葉遣いが丁寧よね。私も見習わなきゃ」

そう智香の言う後ろで、久志が苦笑していたのを政康は見逃さなかった。

結局、いろいろ言いたいことだけを言って、智香は久志と一緒に買い物に出かけていった。

残された政康と真理子は思わず顔を見合わせて笑った。

「明るくて楽しい人ですよね。私、あこがれてしまいます」

「うん、確かにある種の理想の夫婦みたいだね。あ、真理子さんさえよかったら、本当に一緒に散歩しないかい?」

「よろしいのですか?」

「川西さんの奥さんの言うように、掃除は今でなくてもいいから。それに、いつも真理子さんが綺麗にしてくれているから、今くらいでも充分だよ」

「わかりました。それでは、お部屋からコートを取って参ります」

「うん、待ってる」

手すりに手を置いて外をぼんやりと眺めていると、ほどなくコートを着た真理子が姿を現した。

「お待たせしました」

「行こうか」

「はい」

エントランスを出ると、風がわずかに冷たくはあったが、思った通りの気持ちよい空気が外を支配していた。

特に目的も決めずに歩き出した政康を追うように真理子が歩く。追いついて隣に並んだ真理子は遠慮がちに政康に声を掛けた。

「あの‥‥、政康さんはお買い物に行かれるのではありませんでしたか?」

「うん、そのつもりだったけど、絶対に買い物したいというわけでもなかったから。

真理子さんと散歩するのもいいなあって思って」

「ありがとうございます」

「川西さんの奥さんに無理矢理決めさせられたような感じだけどね」

「ふふっ、そうですね。でも私も嬉しいです」

コートを着る前に部屋で髪は下ろしてきたのだろう。襟元に掛かる髪が太陽の光をうけて不思議な色に輝いている。コートの下にはメイド服を着たままで、外見からはそうとはわからなかったが、アクセントである胸元のリボンはしっかりその存在を誇示している。そんな真理子の服装も外では新鮮に思える。

「真理子さんは、もうこの街には詳しくなったのかな」

「はい、おかげさまでずいぶんと。普段お食事の材料を買うお店にも詳しくなりました」

「そうなんだ」

「お野菜はここ、お魚はここって、それぞれいいお店があるんですよ。全部は回れなくてまとめて買ってしまうこともあるんですけど」

「僕のためにいろいろしてくれてるんだね。本当にありがとう」

「はい。でも、私はそういうの、好きなんです。それに雇い主である政康さんのために尽くすのは当たり前のことです」

「でも、本当にありがたいことだよ」

雇い主という言葉、そして言外にある「仕事だから」という真理子に微細な違和感のようなものを政康は感じた。その正体が何であるかは今の政康には全く分からず、今まで普通の庶民として一人暮らしをしてきた自分がメイドに身の回りを世話してもらっているという事実に対する違和感のようなものであると解釈した。

一方の真理子も、ある意味で教科書通りのような答えをしている自分の心の中に、どこかそれに異議を挟む気持ちがあるのに気が付いていた。そして真理子の方も、自分がもたらすことが出来たと思っている家庭的な暖かさがそんな感傷を呼んでいるのだと思うことにした。

食事時をはじめとして、今は真理子とはそれなりに話をして過ごしている。最初は恐縮して頑として受け入れなかったのだが、「一人で食事しているのを見られるというのはあんまり心地よいものじゃないから」という感情論を政康が持ち出すに至って真理子も折れ、今では夕食は二人で向かい合って食べている。そんな食卓での会話とはまた違う雰囲気で今の政康と真理子は会話をしていた。

思わず腕を組んで歩きたくなるような和やかな気持ちがあった。心の余裕というものがこれほどありがたく感じられることはなかった。真理子がいなければ、こういう休日を過ごすということはあり得なかったであろう。

「そういえば、こっちの方に公園があるって聞いてたけど、ちょっと行ってみようか」

「はい、今の時期でしたら紅葉が綺麗かもしれませんね。あ、でも政康さん‥‥」

「うん?」

「公園に行くのでしたら、道はそちらでなくてこちらですよ」

「そうなの?うーむ‥‥、どうも真理子さんの方が詳しいみたいだ」

「御自分の住まれる街のことはもう少し知っておかないとダメですよ。何かあったときにも困ります」

「そ、そうだね」

きっと見つめながら言う真理子から、恥ずかしさとまぶしさのあまり思わず目をそらしたくなった政康だったが、その正当な指摘は受け入れざるを得なかった。

「確かに、ちょっとこの街のことは知らなさすぎかもなぁ‥‥」

「そうですよ。おうちを持ってらっしゃるってことは、ここにずっと住むということですよね。結婚されて子供が出来たり、おじいさんになったりしたときに困りますよ」

「そっか‥‥。でも結婚とか、そんなことは考えたことなかったなあ」

今でこそ心に余裕が出来たが、それまでは日々の生活のことを考えるので精一杯だったような気がする。長く続く不況は、仕事を続けられている自分にはそれほど深刻なものでもないと考えようとしていた政康だったが、実際は知らないところでそうやって心の余裕を奪っていたのかもしれない。

「それはいけませんっ」

そう言って真理子がたしなめる。

「そんな人が増えてくるから、この国の少子化が深刻になるんです」

「うーむ、そう言われると返す言葉もない。だとすると真理子さんは、結婚したら子供はたくさん欲しいと思う方?」

「えっ?その‥‥、もちろんそうです」

真理子の描いている暖かい家庭像というものの中には必ず子供の姿があった。今は観念的にしか思っていないが、子供の頃に何度も寂しい思いをしてきた真理子にとっては、明るい子供とそれを見守る自分、そしてその両方をしっかりと包み守ってくれる夫の姿が確実に存在していた。

政康が結婚を具体的に意識していないように、真理子もまだそういったものは単なる理想や空想といった領域にあった。そして、それが甘い幻想の類であることも承知していたので、子供という具体的な言葉が出てくると気恥ずかしさを感じてしまうのであった。

そんな会話が、真理子と政康の気持ちをいろいろな意味で和らげていた。メイドと雇い主という関係は、僅かずつこの時点から変わり始めていたのかもしれない。

やがて、公園に到着した。緩やかな上り坂が散歩道になっており、天気の良い休日だからであろう、多くの人でにぎわっていた。スポーツファッションで並んでウォーキングをしている年輩の夫婦、犬を散歩させている中年の婦人、子供を間に挟んで仲良く並んで歩いている家族連れ、そして恋人同士らしい若い男女。

そういった人たちの姿を見ているとどこか安心できるものを政康も感じる。

多少の気恥ずかしさを覚えながら、政康は真理子と隣り合ってその坂道をゆっくりと歩いていく。真理子の予測していたように、並木道の木々は赤と黄色に色づいている。

「秋らしい景色だね」

「はい。私、秋は大好きなんです」

「そうなんだ。やっぱり食べ物とか美術鑑賞とか読書がはかどるのかな」

「はい。今の季節はスーパーで旬のものを探すだけで楽しいです。時間のある時には、農家の無人販売まで買いに行くこともあるんですよ」

「へぇ、だとすると僕が食べているものの中には地元の野菜なんかもあるんだね」

「そうです。政康さんはお気づきになってらっしゃらないと思いますが」

そう言って、真理子はふふっと笑った。ちょっとした秘密を隠していて、それをばらしてしまった時の可愛らしい顔がそこにあった。

「残念ながらその通りかな」

「政康さんは秋はお嫌いですか?」

並木道の先、ちょっとした丘を登ったあたりは小規模な展望台になっていた。住宅地が広がるばかりの特徴のない街だったが、それでもこうしてそれを見渡すと開放感を得ることが出来る。

ベンチには座らずに展望台の手すりに両手を掛けた真理子は、気持ちよさそうに空を仰いだ。

「うーん、嫌いじゃないけどね。でも、秋はなんか寂しい気がするなあ」

「そうですか?」

「ほら、紅葉は確かに綺麗だけど、秋も深まってくると葉も落ちて枯れ木のようになっちゃうし。次に来るのが冬だと思うと、心も萎縮してしまう気がして」

「ちょっと寂しいですね」

「だから、僕は春の方が好きかな。花が咲いたり、秋ほどじゃないけど美味しい食べ物もあるし」

「私とちょっと逆のような気がします。春は、私にとっては逆に寂しい季節なんです」

「そうなの?」

「はい。春になると転勤などでご近所さんが引っ越ししてしまうことが多いじゃないですか」

「確かにそうだね」

「前にお話ししたことがあったかもしれませんが、私の育った家は、共稼ぎで母も昼間は家にいなかったんです。その分、お小遣いは他の友だちよりも多くもらっていましたけど、学校から帰ってきて家に誰もいなくて寂しい思いをしていました」

「そうなんだ‥‥」

「でも、母もやり甲斐を持って仕事をしているのは子供の目からもわかりましたし、そんな寂しい気持ちは抑えて『お母さん頑張ってね、いつもありがとう』って言ってました」

「‥‥」

「でも、仲のいい友だちが何人かいて、よく一緒に遊んでいました」

「うん」

「そんな友だちのおうちに遊びに行って、その子のお母さんが声を掛けてくれるのが嬉しかったです。手作りのお菓子を頂いたりもして。その子とお母さん、そして遊びに来た私たちのみんなで一緒に作ったこともありました。でも、そんな風に仲のよかった子が引っ越してしまうのがとても寂しかったんです」

「なるほど、春になるとってことか」

「はい‥‥。逆に友だちがうちに遊びに来ても、私の家には誰もいないのが悲しかったんです」

「わかるな。僕の友だちにも共稼ぎの家の子がいたよ。彼は毎日のように誰かを家に呼んでたな」

「きっと、寂しかったんですね」

「今から思うとそうなんだろうね。確かに彼も小遣いはたくさんもらっていたみたいで、他の子たちにはそうそう買えないようなテレビゲームとかたくさん持ってたな。それを目当てに遊びに行っていた奴もいたんだろうね」

「なんだか、切ないですね」

「彼の家の台所に、買い込んであったカップ麺の段ボール箱を見かけたときは、子供心にもショックを覚えたよ。僕のおふくろはあれこれやかましい人だったけど、家にいてくれるのはありがたいこいとなんだなって思った」

「‥‥」

今度は真理子の方が黙る番だった。きっとその気持ちがよくわかるのだろう。

「共稼ぎの家の子って、おうちのことが得意でない人って多いじゃないですか」

「確かにそうかも。男の子でも女の子でも」

「私もそう思われたことがあったんです。中学校の家庭科の時間だったと思います」

「そっか‥‥」

「それがなんか悔しくて、家事のことをいろいろ勉強しました。『その子を見返してやる』なんて大仰なことは考えていませんでしたけど、事実を言われた悔しさはあったんだと思います」

「真理子さんがそんなことを?」

どちらかというとおっとりしていて上品さすら感じられる真理子の意外な面に政康は驚いた。今の話を聞いていてもそうだが、真理子についてはどちらかというと上流家庭の、箱入りとまではいわないが大事に育てられた娘、そのようなものを想像していたからである。

「その頃はまだ子供でしたから。私、勉強だってそんなに出来たわけではないですし、家庭科だって同じくらいの成績のその子に言われたのが悔しかったんだと思います」

「なるほど」

「幸か不幸か、家の台所は使い放題でしたから、料理を手始めにいろいろやってみました。そうしたら、学校で学んでいるときはそんなに面白くもないと思っていた家政というものが、すごく楽しいというのに気付いたんです」

「うんうん」

「お掃除や洗濯にしても、料理の定石にしても昔の人のいろんな知恵が隠されているのだと分かると、なんだか嬉しくなりました」

「今の真理子さんのルーツはそこにあるのかな」

「はい、きっとそうです。上手に出来た料理は帰った両親に食べてもらったりしました。疲れている顔ばかり見せていた両親が笑顔を見せてくれたとき、ほんとによかったなって思いました」

「そうだね」

「高校を出る頃には、もっとそういった勉強を本格的にやってみようと思うようになりました」

「そして今の真理子さんか」

「はいっ。暖かい家庭を作る手助けが出来る今のお仕事は、私の天職とも思っています」

ずっと景色を見ながら話していた真理子が、自信たっぷりの表情で政康の方に顔を向けた。徐々に日が傾きつつある中で、そんな真理子が輝いて見える。このような人が自分の世話をしてくれるのだから、快適な毎日が過ごせるのも当然である。それがわかると、改めて政康は真理子に対する感謝の気持ちでいっぱいになった。

「ありがとう、真理子さん。奇妙な縁だったけど、僕の家に来てくれたのが真理子さんで本当によかったと思うよ」

挿絵2「私もです。メイドを雇っている家の人って、やっぱり心のどこかで『こいつを使っている』と見下すような気持ちがあることが多いんですよ。でも、政康さんからは一度もそんな気持ちを感じたことはないです」

「そういうのってわかるものなの?」

「意外にわかってしまうんですよ。もともとメイドというのは家の方の気持ちを察することも重要なのですから」

「そっか。僕は一応、雇い主として合格かな」

「そんな、合格かなんて偉そうなことは私には言えないです。でも、『遠藤さんの家』に来ることが出来たのは本当によかったと思っています」

「光栄だね」

「だけど、最初の頃は、政康さんの中には私の存在はないのかしらと思って、悲しい思いもしました‥‥」

「そ、それはごめん‥‥」

「ふふっ、ちょっと言ってみたくなっただけです。誤解が解けてよかったですし」

「うん‥‥」

「最近はちょっと甘えちゃう気持ちも出てきてしまって、気を引き締めようとしているくらいです。お食事もご一緒させてもらったり」

「それは、僕が望んだことだって言ってるでしょ?それに、真理子さんなら分かってくれるんじゃないかな。一人で食事するよりも誰かと楽しくお話ししながら食べたいっていう気持ちは」

「はいっ。こんなことを申し上げてよいのか分かりませんが、本当は私も政康さんとご一緒できて嬉しいんです」

だが、その一方でメイドの自分お立場というものも常に自覚していなければならないという葛藤を感じているのが正直なところなのだろう。

「ありがとう。真理子さんは前にはもっと大きなお屋敷で働いていたって聞いたことがあるけど、そういうところではどうなの?」

「お屋敷にはメイド専用の部屋があって、そこでメイド同士で頂いていました。もちろんお仕えする家族の皆様の食事を終えてからですけど。食材もその残りを使うことがほとんどです」

「となると、意外に豪華なのかな?」

「そうでもないですよ。手間を掛けた食事を作りますが、食材は普通のものですし。

たまに高級なものも使いますけど、そういうのはお客様向けのことが多くてほとんど残りません」

笑いながら真理子が言う。

「なるほど」

広場の方から子供のはしゃぎ声が聞こえてきた。そんな子供の一人が真理子たちの方に駆け足で向かってくるのが目に入った。

同時に、政康は足元にサッカーボールが転がってきたのに気付く。

ボールを手に取って頭の上で大きく振ると、走ってきた子供が反応を示す。

一度ボールをバウンドさせ、政康は子供の方に向けて力強く蹴り出した。その真っ正面にボールが飛んでいき、子供はがっちりとそのボールを受け止めた。

「わっ、すごいですっ」

思わず手を叩いた真理子。ボールをキャッチした子供も「ありがとう〜、お兄ちゃん、お姉ちゃん!」と元気な声を残して広場に戻っていった。

「僕たちもそろそろ戻ろうか」

「はい、そうですね」

どこか優しい気持ちになった政康は、隣の真理子に言った。

「なんだか、いろいろ政康さんにお話ししてしまいました。長話になってしまって‥‥」

「ううん、真理子さんのことが聞けてよかったよ」

「そう言っていただけるとほっとします。よろしければ、今度は政康さんのことも聞かせてください」

「そうだね」

帰りの道は、行きよりも若干短く感じられた。

夕方へと移りつつある町の中は、どこか色合いも暖かく感じられた。

来たときは違う道を歩いて政康の家まで帰る間、二人は先ほどとは違った他愛のない会話をしていた。

やがてマンションのエントランスが見えて来たとき、道の向こう側から見慣れた二人連れが歩いてくるのに気が付いた。ほどなく向こうも政康たちに気が付いて、左側を歩いてる女性の方がこちらに手を振って見せた。男性の方はおそらくスーパーのものであろう大きな白いビニール袋を二つ手に提げている。

「あら、遠藤さんたちじゃない。結局、一緒に出かけたのね」

「はい、奥さんの言を容れてということで」

「そう、感心、感心。真理子さん、お散歩はどうたった?」

智香が政康から真理子の方に向き直って言った。

「はい、とても気分がよかったです。公園まで足を伸ばしたんです」

「今頃なら、紅葉がいい感じじゃないかしら」

「ええ、とっても。智香さんたちはどちらにいらしたんですか?」

「映画を見に行ったのよ。今日封切りのがあって、前から二人で楽しみにしてたのよね」

同意を求めるように智香は久志の方を見た。静かに頷いてみせる久志。

「ああ、なかなか面白かったな。でも、前作の方がインパクトはあったみたいだぞ」

「そうよね。やっぱり続編って当たらないのかもね」

「続き物なんですか?」

会話に置いていかれそうな政康が智香に尋ねると、待ってましたとばかりに話し始める。さりげなく久志が歩き始めたので、エントランスの前で立ち話という事態は避けられることになった。

「続き物というか、前の作品の外伝って感じよね。前作はね、私たちが結婚する前、デートの時に見に行ったことがあるのよ」

「わっ、そういうのは素敵ですね」

真理子が嬉しそうに言った。

「だから、二人で楽しみにしてたの。ダンナの言うように面白いのは面白いし、アクションはさすがって感じだったけど、ストーリーにひねりが足らなかったわね」

「伏線があからさま過ぎたしな」

「あ、わたしもそう思う」

「なるほど‥‥」

そんな話をしている間に、四人は家のドアの近くまでやってくる。

「ついでだったから買い物も済ませて来ちゃったしね。男手があるとついつい買い込んじゃって‥‥」

「まあ、その方が効率的だからな。でも、少しは遠慮というものを考えて欲しいものだ」

大きな袋二つを見ながら、久志が苦笑した。

「そ、そうね‥‥。でも、お詫びに今日はわたしが腕によりをかけて夕食作るから」

「期待させてもらうよ」

そんなやりとりを真理子は嬉しそうに見ていた。

「あ、そうそう、買い込みすぎと言えば‥‥」

「はい、なんでしょうか?」

目を向けられた真理子が智香の方を見た。

「駅前のデパートで、北海道の物産展やってたのよね。それで美味しそうなカニがあったから買ってきたんだけど、買ってから考えてみたら、ちょっと量が多すぎちゃって」

「そうなんですか?」

「それでね、もしよかったらなんだけど、少し遠藤さんたちで食べてもらってもいいかしら?」

「そんな、よろしいんですか?」

「せっかくの産地直送を冷凍にしちゃうのも勿体ないでしょ」

「そうだな。いつも智香の無駄話につき合ってもらってるんだし」

「無駄話じゃないわよ。立派な地域のコミュニケーションって言って」

「はいはい」

苦笑する政康と真理子。その真理子に、智香は袋から取りだしたカニの足を手渡した。

「申し訳ありません、智香さん」

「いいのよ、気にしなくても。真理子さんだったら、どんな食材渡してもそつなく料理してくれちゃいそうで安心だしね」

「いいえ、私なんかまだまだです」

「過度の謙遜は嫌みに聞こえちゃうわよ」

「そ、そんなつもりは‥‥。ごめんなさい」

「冗談よ。でも、真理子さんの料理の腕はうらやましいわ。今度教えてもらおうかしら」

「はい、手の空いている時にでしたら喜んで」

「そう?じゃあ、期待させてもらうわね」

「はい」

久志と智香が家に戻ったのを見送ったあと、政康たちも玄関を開けた。

家に戻った真理子は、コートを脱いでいつものようなメイド服姿になり、早速、夕食の支度に取りかかる。そんな真理子を、政康はこれまでと少しだけ違った気持ちで眺めていた。

「川西さんの奥さんとはよくお話しするの?」

「はい、廊下にお掃除に出ているときにお会いすると、いろいろお話しさせて頂いています」

「いつもあんな感じ?」

「そうですね。でも、私はあんな凛々しい感じの人ってあこがれます」

「そうなんだ」

「はい。なんか悩み事とかをいろんな人に相談されているってタイプですよね」

「ははっ、確かにそんな感じだね」

真理子の入れてくれたお茶をちょうど飲み干した政康が、台所の方に目を向ける。ちょうどその時、真理子も政康の方に目を向けた。

「あの、政康さん‥‥」

「うん、どうしたの?」

「今日の夕食なんですけど、鍋でもよろしいですか?」

「もちろん、構わないけど」

「では、そうさせて頂きますね。せっかく美味しそうなカニを頂いたので、早速使わせてもらうことにします」

「でも、どうしてわざわざ断るの?」

「鍋なんて、そんなに手間も掛けないものですから政康さんに申し訳ないと思いまして」

「そんなことは気にしなくてもいいよ。真理子さんもご一緒してくれるんだよね」

「はい、実はそのつもりでした」

軽く舌を出しながら真理子が笑って言った。

「なかなか策士だね。でも、一人で鍋っていうのは勘弁して欲しいから。一緒に食べられる方が嬉しいよ」

「ありがとうございます」

「鍋は温まるけど、一人だと虚しいからね」

一人で暮らしていたときも、時々肉と野菜のセットのようなものを買ってきて鍋を食べたことがあるが、その美味しさというのはやはり限られたものであった。たとえ同じ具材を使っていたとしてもそこには大きな差が存在する。

ご飯が炊きあがる頃までには野菜やカニなどの用意も整った。

エプロン姿の真理子が、徐々に吹き上がる美味しそうな湯気を嬉しそうに見つめている。

「政康さん、テーブルに運ぶのを手伝ってもらえますか?」

「オーケー、カウンターに置いてもらえるかな」

「はい。熱いですから気を付けてくださいね」

「そうだね」

調味料や薬味を並べて、真理子と向かい合って座る。真理子が慎重に蓋を取ると、心地よいぐつぐつという音とともに、よい感じに仕上がった鍋から大きな湯気が立ち上る。

「では、頂こうか」

「はい、いただきます」

真理子が胸の前で手を合わせながら言う。

「いただきます。今日は川西さんに感謝だね」

「そうですね。このカニ、とても美味しそうですよ」

「そしてもちろん、真理子さんにも」

「ありがとうございます。あ、だから申しましたでしょう?」

「うん?」

「ご近所づきあいは大切ですって」

「ははっ、そうだね。僕もこれからはもっと意識するようにするよ」

「はい、そうなさって下さい」

器に取った具を息で冷ましながら真理子の方を見ると、そこには綺麗な笑顔があった。そう見えるのは単に鍋が美味しいからなのか、それ以上の理由があるからなのかはわからなかったが、政康は自分の心も温まるのを感じていた。

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