明けて4日目、パラオ最終日である。
結局のところ、この日もツアーに参加することにしてしまった。
当初の予定では、ペリリュー島訪問は1泊2日を見ていたのだが、日帰りで済んでしまったため、行程に1日の余裕が出来たというところである。
これまでのツアー参加で聞いた話によると、スノーケリングはお勧めということだったので、当初の予定では特に海に潜りには行かないつもりだったのだが、やはり最終日に行ってみることにした。
ホテルのチェックアウトは今日の正午なのだが、フロントの厚意で夕方まで空き部屋に荷物を置かせてもらえることになった。
この日の朝食は、ホテルの隣にあるレストランで取ることにした。内装の簡素なファミリーレストランといった雰囲気で、朝からやっているのは助かるのだが、他に誰も客がいない。
メニューを見て、チーズオムレツを頼んだのだが、これがまた朝からボリュームたっぷり。
オムレツ自体は味もなかなか美味しいのだが、その他にパン(トースト)が、薄切りとはいえ半分きりで6枚(要するに3枚分)もあった。コーヒーは相変わらずインスタントだが、これもマグカップでなみなみと……。アメリカ人が太るのも無理ないような気がした。
さて、前と同じように迎えが来てツアーの主催会社へ移動する。
この日に参加したのはカヤック&スノーケリングツアーというもので、コロールとペリリューのちょうど間あたりにある海域でカヤックツアーを楽しんだり海に入ったりするコースである。カヤックとは簡易ボートか簡易カヌーみたいなもので、1〜2人乗りの「小舟」に乗って、モーターボートでは近寄れないような入り江や小島を探検するものである。
今回は、オプションで追加可能なジェリーフィッシュ(クラゲ)レイク見学ツアーの人も込みで25人くらいの大所帯で出発する。桟橋からモーターボートに乗って、早速、出発する。これだけの人数だとメンバーも多彩で、私のような単独参加組だけでなく、カップル、家族連れ、子連れ、老夫婦などいろいろである。
快調に港を出発し、10分ほど進んだところで、ボートがいきなり停止する。浅瀬に何か黒い塊のようなものが見ているところで、ガイドの説明によると、墜落した零戦の残骸が沈んでいるのだという。水面の上からだと形ははっきり分からないのだが……。ただ、この付近は潜るには適してない場所らしく、海に入って見ることは難しいという。
ちなみに、この機に乗っていたのは当時19歳の少年兵(?)で、撃ち落とされたものの脱出に成功して生き残り、現在でもまだ生きてらっしゃるという。
そして、まず最初に向かったのは、波の静かな(というかほとんどない)入り江であった。パラオの島々にはほとんどビーチというものがなく、切り立った岩場ばかりである。島の数は多く、入り江や環礁地帯などが多くあり、それらの一つにやってきたのである。南国の青い海だが、この一帯は明らかに色が異なっており、乳白色に見える。その原因は、底に沈殿した石灰質の泥にある。
上に書いたように、パラオの無人島の海岸は岩がちであるが、島を構成する珊瑚や石灰岩が削れて砂(泥)となり、海流に運ばれて一定の場所に蓄積する。それがこのような場所なのである。
ボートが止まり、海に入ることが可能になる。底にたまったこの泥は実は美容にとてもいい成分を多く含んでいるのだとかで、「天然泥パック」が可能ということで、特に女性陣の興味を引く。
何人かが海に入り(ただし、それなりの水深があるので背は立たない)、果敢に潜って底の泥を掴んでくる人もいる。私も試しにやってみたが、残念ながら潜りきれない。考えてみると、海に入るのは数年ぶりだったような気がする……。それでも3〜4メートルくらいは潜ってみたのだが。
そんな感じで、しばらくこの一帯で遊んだ後、カヤックツアーを行う小島へ移動する。
到着した小島には、「辛うじて」と思える程度の砂浜があり、そこに人数分(2人で1艘なので正確には人数の半分)のカヤックが置かれている。
中空のプラスチック製のカヌーといったような簡単な乗り物で、両側に水掻きのついた櫂で漕いで進む。物理的なことを考えれば当たり前の内容であるが、進み方、止まり方、曲がり方の簡単な説明を受けて出発する。私は単独参加だったので、同じく単独だったお姉さんと同じカヤックになった。
ガイドの先導で島のすぐ脇を進んでいく。島は張り出すほどの植物が生い茂っており、清楚で綺麗な白い花(百合の一種で、パラオの国花でもあるらしい)が咲いている。また、食虫植物として有名なウツボカズラもところどころにある。一方、水面に目を向ければ、小さい魚が自由闊達に泳ぎ回っている。
波もほとんどなく、海と言うよりは湖に浮かんでいるような感じだ。カヤックでなければ行けない場所ということで、小さな岩のトンネル(体を寝かせないと通行出来ないような)をくぐって島の中に入る。潮が満ちると、当然、それは水面下に沈んでしまうそうだ。
周りの自然を見ながら、ガイドがパラオに住む生物の説明をする。基本的にパラオには野生の大型獣類は存在しないという。自然の中で遭遇する可能性のある中で、一番脅威になるのはおそらくワニだろうとのことである。蛇などもいるが、毒は持っていないという。鳥やコウモリなどの小動物は結構いるようで、実際、ガイドの説明を聞いている間にコウモリが出現したりしていた。
その後に向かった小さなビーチで少し休息がてら遊んだりして、1時間強ほどのカヤックツアーは終了する。
再びボートに乗ってやってきたのは、これまでよりは少し開けた海岸である。簡単な木造の休憩所などがあって、それ用に整備された場所であるようだ。
お昼近くになっていたので、ここで昼食となる。食事は、ツアーではすっかりなじみになってしまった弁当である。
食後にスノーケリングの簡単な説明を受ける。経験のある人にはどうということはないのだが、実は私は初めてであるので……。ただ、子供でも、ライフジャケット着用なら泳げない人でも楽しめるというスノーケリングであるから、特に難しいことはない。水の入らないような銜え方、息の仕方を教わればそれで完了である。ここの海岸で試しがてら軽く泳いでみる。ナマコの多い海岸だったが、それでも頻繁に視界を魚が横切っていく。
食後、ボートで再び移動する。珊瑚の豊かな海岸に到着し、ジュエリーフィッシュレイクに向かう人とは一時別行動になる。島の中心部にあるらしい、クラゲのたくさんいる湖へ向かう人たちは上陸してそちらへ向かい、我々残りの人はこの海域で1度目の「お魚」を楽しむ。私も早速、海に入ってみた。
ここは背の立つ程度の水深だが、珊瑚の保護のため、なるべく立たないようにという注意を受ける。特に泳ぐのが難しい海というわけではなく、すぐにボートに戻る(または掴まる)ことが出来るのであまり心配もない。
早速、顔を水につけてみることにする。泳ぐというよりは浮んで水に身を任せるという感じで下を見ると、全くの別世界であった。誇張でなく、水族館で見るような色とりどりの魚が時には単独で、時には群を成して泳いでいる。本当に青や黄色、オレンジといった色をした魚が珊瑚に見え隠れするように泳いでいる。いやはや、これまでの人が「お勧め」と言ったのも頷ける。戦跡とは全く別の意味で、パラオの魅力といったものを私に教えてくれた。
国内では、昔、沖縄の海に入ったことがあり、その時にも魚を見たことはあったが、正直にいって規模が違いすぎた(勿論、沖縄でも有名スポットに行けば別なのであろうが)。残念ながらカメラの防水対策を用意していなかったので、写真を撮ることは出来なかったのだが。
時計を身につけていなかったので正確ではないのだが、およそ1時間ほど、そうして魚を見て泳いだ後、ジュエリーフィッシュ組と再合流して、再び船で移動。
この船、エンジン2基でかなりのパワーを誇るのだが、時々、波の少しある沖合に出ると結構、揺れる。まあ、自分が海に落っこちるということはなさそうであるが、所持品の方は油断するとそういうことになりかねない。同好のみなさんは元気で、特に親子連れで参加している家族の5歳くらいの男の子が人気だった。
そうして次のダイビング場所に移動する。
こちらも、先ほどと同じような珊瑚礁の海で、色とりどりの魚が泳いでいるのだが、種類はこちらの方が豊富なようだった。少し船から離れると水深の深い場所もあって、そちらでは割と大きな魚も泳いでいる。こちら(パラオ)で天ぷらを食べたナポレオン・フィッシュの姿もどうやらあったようである(後で人から聞いて、「あ、あれがそうなの」と分かった)。
水族館やテレビ番組などでも見られるような、珊瑚の影に見え隠れする魚の姿などもあり、綺麗な隊列を組んで泳ぐ魚ありとなかなか楽しい。事前に名前を予習してきたりはしなかったので、「どれがどれ」というのはよく分からないのだが、それでも、青や黄色、オレンジといった色の魚が泳いでいるのを見るのは楽しい。
ここは割と有名なスポットらしく、少しすると別の一団がやってきた。どうやら台湾人のツアーらしい。台湾人は泳ぐのが上手な人は少ないのか、それともこの一団がたまたまそうだったのか、こちらは全員がライフジャケットを身につけていた。
こちらでも1時間ほどそうして過ごして、今日のツアーは概ね終了した。
帰りには、ペリリュー島の時にも立ち寄ったナチュラル・アーチを見物し、コロール島へ戻る。
今日のボートの操縦士はなかなかの技量の持ち主で、我々のリクエストに応えてそのアーチを船でくぐり抜けることに成功した。
ツアー会社の事務所に戻り、アンケートに答えて解散となった。途中から降り出したスコールが強烈で、更衣室などが整っていないのが難儀だった。荷物を置かせてもらっているホテルに、一応の夜までの拠点があって助かった。
車でホテルまで送ってもらった後、着替えて帰りの準備を行う。
服を着替え、さほど多くない荷物をまとめ、荷物部屋(空いている客室)を出てロビーで時間をつぶす。
他にすることがないので、英語の雑誌などを読みながら(内容はあまりよく分からない)時間をつぶしていると、フロントのテレビが切り替わって日本のNHKニュースになった。
ここで気になるのが台風である。
行きは中継地のグアムが台風に巻き込まれて、少し心配だったのだが、1日遅れで着くことになって事なきを得た。今度は次の台風が日本を直撃しているようで、この日は九州地方が大変なことになっていた。
鹿児島、宮崎あたりの中継が入り、あちこちで土砂崩れなどが起きていると報じられていた。
翌日、つまり私の帰る日に日本海を縦断するという予報で、そちらも心配である。だが、まあそれはここでどうこうできるものでもないので仕方ない。
グアムへの飛行機は夜中の1時45分発というとんでもない時間に設定されているので、23時少し前にホテルの車で空港へ向かう。フロントのお姉さんにこれまの4日間の滞在に対するお礼を言って、別れを惜しんで出発する。
来たときは多少、人が多くて賑やかだった空港も出発の場合は、一気に人が到着することもないので静かである。あっさりとチェックインを済ませ、出国手続きが始まるまで適当に時間をつぶす。
そして、乗り込んだ飛行機が離陸を開始する。
地上の光の少ないパラオだったが、その光の一つ一つがいろいろな体験に対応するかのように感じられるのだった。