新刊の入稿も無事に済みましたので、ご案内をいたします。
スペースは2日目(30日)の西1ホール「れ-59b」です。青玉からはいってすぐ、ひっそりした壁サークルのようです。
新刊は一冊読みきりの創作メイド小説「想いの一里塚」です。
ページ数は202、頒布価格は600円となります。
都内で会社勤めをする磯崎藤一郎は、偶然に見つけたメイド喫茶のなじみ客となっていた。
ひょんなことからそこで働くメイドの立花紫乃子を自分の家に住まわせることになる。
メイドとして料理の鍛錬をしながら、歴史上のメイドの知識などを学んでいくうちに紫乃子の藤一郎への気持ちが変わっていく。
一方、藤一郎は紫乃子へ女性としての気持ちを持たないように抑えていたが、ある出来事をきっかけにそれが変わっていく。
高津本陣のメイド小説をお楽しみ下さい。
メイドさんのいる暮らしのひとときをサンプルとしてお届けします。
藤一郎が再びリビングに戻ると、奥のキッチンにある炊飯器から米が炊けたことを知らせるアラームが鳴った。
「あ、ベストタイミング!」
紫乃子が喜ぶ。
リビングにはテレビに向き合って座り心地のよい椅子が一つ置いてあるが、それと別に隣接したキッチンとの間にテーブルとそれに向かい合わせで椅子が一組置かれている。そのテーブルの上に、紫乃子は手際よく出来上がったおかずを並べていき、最後にご飯と味噌汁を二つずつ運んでくる。
「おなか空いてるでしょ。早く食べよ?」
気さくな口調で紫乃子が言う。
「そうだね」
そして二人で同時に「いただきます」と言って食べ始める。
この日のおかずは豚の生姜焼きになすときゅうりの浅漬け、トマトという、家庭料理としては手抜きとまではいかないが簡単な部類に入るものであった。それでも独身の藤一郎にとっては十分に豊かな食卓である。紫乃子がくる前はレトルトやスーパーの総菜で済ませることが多かったし、それ以前に外で食べてきてしまうことも頻繁にあった。それこそ、ローズガーデンも含めて、である。
紫乃子もそれほど料理が得意であるというわけでもなく、彼女も大人になって故郷の滋賀から東京へ働きに出てきたということもあって、一人暮らしの常で日頃はそれほど料理をしてはいなかったのである。いうなれば今は発展途上といったところだろうか。
「味はどう?」
「問題ないと思うよ」
「まあ、生姜焼きなんて失敗する料理じゃないしね」
「よほどの味でなければ、こうして二人で食べる方がよほど食欲につながるかもね」
「あ、それわかる。一人だと手抜きしたいとかそういうことじゃなくて、そもそもなにを食べてもあんまりおいしくないんだよね」
メイド服姿の紫乃子がよく見せる人なつっこい笑顔でそう同意する。メイドという姿とその口調にはギャップがあると客観的には感じるだろうが、藤一郎の方は慣れているようで特に気にもしていない。
表紙および本文挿絵には、「少女の歩む隧道」以来お久しぶりの羽霜ゆきさんに描いていただきました。
気になりましたら是非、当日、高津本陣のスペースへ。
その他、既刊本も持ち込みまして、みなさまのお越しをお待ちしております。
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