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熊野詣で(つづき) 8月20日 第三話
<大斎原(おおゆのはら)への道A>

手入れされた林の下り坂にある道標67を過ぎると、また舗装道路に出る。
お茶屋が見えてきた。良くみると"ラムネ”の幟が・・・・
私:「あっくん、ラムネだ!ラムネ!飲んでいこう!」
あ:「・・・」
お茶屋に向ってあっくんは走っていく。
あ:「ごめんくさい・・・あれ?誰も居ない。」
熱暑の中、ラムネに胸膨らませフーフー行っているお父さんにあっくんは無常にも、
あ:「お父さん、ここ人居ないし、飲み物も何もない・・・」
私:「えっ!」
・・・それでも、自分の目で確かめたく、店の中に入りクーラーボックスを開けてみるのだが何もない・・・

仕方なく、お茶屋の前のベンチで持っているペットボトルのぬるいお茶を飲むのであった。

この先は民家の点在する生活道路を歩く。ジリジリと肌が焼けるように暑い。熊野はまさに盛夏である。

この辺りには如何にもここの家の人の手作りと思われる道しるべがあったりして心和ます。
なぜなら、歩いていて土地の人に避けられたりすると非常に心寂しいものである。
「・・・喜ばれざる観光客か・・・」って。
でも、この様な道しるべを見ると・・・ちょっと嬉しくなってしまうのだ。
その家の庭先に自販機があった。
ラムネを逃した後だったので「炭酸!炭酸!炭酸!炭酸!炭酸!・・・」と前に行くと、
サントリーの”炭酸少年”・・・思わずここでジーンと来てしまった。
先ほどから青い空と緑の木々、塩からトンボにミンミン蝉・・・まさに自分の少年時代を思わせる風景にひたっていた所に、炭酸少年。
もう、心は井上陽水なのである。
炭酸少年を自販機の前で飲みながら、あっくんに炭酸飲料の正しい飲み方(痛くなって苦しくって涙が出るまでゴクゴクやるのだ!)を
レクチャーしていると、その家のおばさん(おばさんといっても私とおなじぐらい・・・)がおせんべいを持ってわざわざ出てきてくれた。
ぽたぽたもち・・・である。ガキの頃のおやつと同じじゃん。まったく、なんと言っていいやら・・・ありがたいものである。

しばらく行くと、伏拝王子である。
伏拝王子の入り口には、発心門王子と水呑王子の間にあったのと同じ様なトイレと休憩所があった。
このすぐ先に、NHKの”ほんまもん”という朝の連ドラの舞台であった山中家がある。
私は数度このドラマは見ているのだが、ピンと来なかった。
白日夢に出ていた有名な男優さんが出ていた女料理人が主人公の物語であり、
白日夢の男優さんが「さんげさんげ、ろっこんしょうじょ」と掛け念仏を唱えながら山道を走る・・・といった事ぐらいしか知らないのである。

実は、NHKという会社自体が大嫌いなのだ。
NHKの藤枝では、NHKが全く映らないTVがある我が家の女房から受信料をダマシ取った会社である。
つい先日まで私が、TVその他を作っている会社に居たのでNHKとはあんまり揉めたくなかったのでその時は喧嘩しなかった。
でも、一応返還要求を女房がしたら「そういう事は、先に言ってくれないとダメです。返せませんから。」だって。
先に言ってるのに・・・。あのお金は、1990年の事だから、その後ソウルの夜に消えたのだと思う。
そして、いつしか私はTV番組をほとんど見なくなったのである。

その先は、また美しい林の中を歩けるのである。
途中、林道の上を通過するつり橋を渡ると、三軒茶屋跡にでる。
お茶屋の中からおばさまが、「涼んで行って下さい。」と声をかけるものだから、思わず「冷たいものありますか?」と、寄ってしまった。
ここまでで、道標71番まで来ている。しかし、時間は既に15:30である。
あっくんには、「今日は75まであって、その先が本宮大社、大斎原だよ」。って言ってあるので気が急いてきた様だ。
あ:「本宮閉まっちゃわないかな・・・」
私:「大丈夫だよ、そんなに時間かからないと思うよ・・・」
私が「ちょっと”寄り道展望台”に寄って景色見て行こう。」って言ったら、
あ:「そんなゆっくり出来ないよ。まっすぐ行くからね・・・」と、スタスタと下っていってしまう。
私には眼の持病があり、その眼の数ある欠点の中にコントラストがハッキリしないという事がある。
したがって、こういった下りの段差って奴は全く苦手なのである。
とても普通の速度では歩けないので、ゆっくりとあっくんの後を追う。
道標74を過ぎると雰囲気が里っぽくなって来る。
区画整理されたお墓があったりしてちょっと変な雰囲気があったりするのだが・・・

ポッと目の前が開けるとそこは同じ雰囲気の家が立ち並ぶ団塊の世代向け?の住宅地である。

石段を降り、住宅地を突っ切るとそこには最後の道標75と直ぐ先に祓戸王子がある。
祓戸王子にお参りし、熊野本宮大社裏鳥居をくぐると直ぐ左手に本宮の神殿の屋根が見えてくる。
熊野本宮だから・・・って、裏鳥居からだって相当歩くだろう・・・と予想していたのだが、あっさりと神殿に来てしまった。

本宮にお参りし、牛王印を求める。
あっくんは、お母さん、お姉ちゃん、バドミントンのダブルスのペアであるサトシにお守りを求めた。
その後、参道の階段の下りに向って右にある熊野古道を下る。

下ったところで、とっても楽しみにしていた”もうで餅”のお店が・・・もう閉まっている・・・
あっくんも私も・・・ショックが隠せない・・・心の底でずっと楽しみにしていたもうで餅・・・
何故か、もうで餅のお店だけが閉まっている・・・あぁ、苦労が報われない・・・情けなや情けなや・・・

気を取り直し、道路を渡り、雑貨屋の右側の道を大斎原へ向って歩く。
左手に堤防が見え、そして右の視界が開けると大斎原の大鳥居が見えてくる。
聞きしに勝る・・・とはこういうものであろうか?ジャンボジェット機をはじめて見た時の驚きを思い出した。

大斎原を奥に入っていくと旧社殿跡がある・・・やはり、ここは神が住まう長い時の重みか?厳とした雰囲気が漂うのである。
神殿の向う側はもう熊野川の河原である。
あっくんも、この雰囲気に粛々としていたのである。

あっくんは、この大斎原の日本一の大鳥居が気に入ってしまった・・・
この大鳥居の写真を撮りまくっているのである。
大鳥居の大きさをどうやって写真に撮ろうか?という話になり、あっくんと背比べをしようということになった。
しかし、その写真を見ると、あっくんは豆粒の様にしか映っておらず、見ても何だかわからない物(あっくん)になってしまった。

そして、雑貨屋の前から出る17:45発の新宮行きバスに乗り川湯温泉の宿へ向った。
宿に戻ると、今日は金曜日のためかお客が多く、戻ったのも遅かったのですぐメシになった。
美味しく飯を食い、お風呂に入ってハードな一日を終えたのであった・・・それにしても赤城ババアのたたりは怖かった・・・


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