○人を動かす力
 
 人を動かすもの。ひとりの個体においてのそれは、欲求である。性欲・食欲・排泄欲などの生理的欲求、独立・承認・愛情などの自我欲求、共同・所属・賞賛などの社会的欲求など、人は何かを欲し、それが満たされたときに自己を実現したと感じ、充足感・安心感を得る。人の行動は、「これらの欲求を満たすために起こす状態の変化であるということができる」(大修館書店『高等保健体育』下図1・2参照)。


 <図1:欲求と成長

 <図2:欲求と適応、適応機制


 「カネが欲しい」「女とやりたい」でも、「修行して解脱して煩悩から開放されたい」も、どちらも欲求、それも諸々の欲求が組み合わさった形であり、それらが満たされなければ感情が安定しない。
 しかし、むき出しの欲求の塊では、破壊的で人格は崩壊し、人と人の関係を形作ることは出来ない。互いの欲求がぶつかったり、ある人が何も望まないところに別のある人が欲求を突きつけたり、個人の内部にも欲求の矛盾・葛藤がある。
 そこで人は、人格を保つために、上手く関係が回転していくように、自分の中の様々な欲求を整理し、関係の随所に潤滑油を垂らし、ギアをはめ込み、調節を付けて社会生活を営んでいるわけである。
 それは欲求を得るための手段を定めたり、速度を規制したり、道筋を示したりしてやるわけで、欲求そのものを無視・抹殺してしまうべきではない。そんなことをすれば人格は崩壊してしまうし、また無視・抹殺出来るものでもない。道路交通法と車の関係のように、事故が起こらない円滑な交通を目的とすべきであって、車が走行すること自体、さらには車の存在そのものを否定してしまってはならない。
 
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元版1990−1991
本版2003