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05


 新学年になって初めて給食が出た日の彼女も、ヘンだった。
 アーイーはなぜか給食を断った。けど、おなかはぐぅぐぅ鳴らしていた。普通の女の子ならおなかが鳴るのって相当恥ずかしいらしいんだけど、彼女はちっとも気にしなかった。
 「嫌いなものがあるのか、それともダイエットか?」当時はまだ美少女転校生に鼻の下を伸ばしていたロクシオ先生が、カルい口調で言いながら彼女にトレーを押しつけた。「残しちゃダメだ。ちゃんと食べないと大きくなれないぞぉ」彼女はクラスで一二を争う長身なのだが。
 アーイーは目をぱちぱちさせ、自分の机に置かれたトレーを、無言で見つめた。やがて箸を取り、茶碗の米を一粒だけつまみ上げると、ゆっくりと口に入れた。噛んでいるのか舐めているのか、しばらく口をもごもごさせた後、首を傾げ、首を戻し、ごくりと飲み込んだ。
 次に、手の動きが見えないほどの猛烈な箸使いでずぱぱぱと米を続けざまに口に運び(よく見えなかったけれど、やはり一粒ずつだったようだ)、噛んでいるのか舐めているのか、しばらく口をもごもごさせた後、首を傾げ、首を戻し、今度はぺっと吐き出した。それから無言でトレーを先生に押し返した。……口に合わなかったらしい。
 真正面でその様子を見ていた先生は、目を白黒させるのさせないのって、それっきりアーイーに給食をあてがわなくなった。アーイーも食べたいと言い出すことはない。
 しかし肉の出る日は様子が別なのだ。これがまたヘンなのである。やっぱり断りはするのだが、物欲しげな目でみんなをじーっと見ているのだ。食欲の衰えることこの上ない。で、もしおかずが余ろうものなら、彼女はそのお余りの入ったアルマイト缶の中をじーっと眺めているのだ。匂いをかいだり触ったりはしているようだが決して食べない。
 そういうわけで僕らは、彼女が何か食事をしているのを見たことがない。平気でぐぅぐぅおなかは鳴らすから、家で存分に食べているというわけでもないらしい。そうするとまた、彼女は霞を食うだとか生き血をすするだとかのウワサが広がり、中でもいちばん信憑性が高いものとして広まったのは、アーイーがスズメをふんづかまえて生で食べていた、という話だった。

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