朝方から姿を見なかった同居人は日が傾いても帰ってこなかった。
さすがに少し心配になって外に探しにでる。
しかしそこでも彼の姿を見ることはなかった。
別に迷子の心配をするわけでもないが、相手が相手だけに不安は拭えない。
何せ放浪癖があって、いつふらりと消えるかわからない相手なものだから。
手の中に収まるとも思わない。
けれど手を伸ばすのを止めれば逃げられそうだからまだ抱きしめた腕を緩めるわけにはいかなかった。
逃げたのなら捕まえなくてはいけない。
とりあえずそう結論づけて部屋へと戻ったヒイロを迎えたのは、何故だかいつの間にか自室の隅に丸まっていたデュオの姿だった。
「おかえりぃ…」
気配に気付いたらしく眠そうな声が上がる。それにため息を吐きたくなりながら傍に近づいていく。
「どこに行ってたんだ」
「さあ…?」
面白そうに笑う表情からすれば、これは多分どこかに隠れて様子を窺っていたに違いない。
そんな、確認しなくてはならないことも不安になるような要素もないはずなのに。
うっとりとしたまなざしにとりあえずは追求を諦める。これは間違いなくまだ少しは寝ぼけているのだろうから、まともな答えを返す気なんて多分更々ないのだろう。
「寝るなら自分の部屋に帰れ」
腕を引っ張って引きずり起こしながら言う。
そして、けれど次の瞬間逆に腕を引っ張られた。
相手が相手だけに少々の油断があったことは否めない。しかし全体重をかけてデュオが引っ張ったというのもあったので、ヒイロはあっけなくもその場に倒れ込んだ。
―――こいつ……!!
瞬間的に怒りが湧く。けれどそれは次の瞬間に擦り寄ってきたデュオによって掻き消された。
「ヒイロ、膝枕」
「は?」
「膝枕〜〜〜〜」
そのままごろごろと懐かれる。膝枕と言いつつ何故かただ単に抱きついてるだけだった。
ヒイロの胸に顔を埋めつつ、その首に腕を回してしがみついてくる子供のような抱擁。
ぎゅうと強く抱きついてきていて必死なその様子に、離すことはもちろん出来そうもなかった。
横になった体勢から唐突に抱きついたデュオであるから、もちろん身体がヒイロの上に乗り切るわけもなく。ずりずりと落ちていくその身体をしっかりと抱きしめなおす。
「あったかい……」
満足気なほほえみ。
成り行き的に抱きしめた身体を支えながら、唐突な抱擁にようやく合点がいく。
不安なのだろうか?
何がかはわからないけれど、あのデュオが支えを求めることはそうないことだった。いつも笑顔に隠して見せない顔を見せている。
それはヒイロへの甘えであるかもしれないし、信頼であるとも言えた。
あるいは、その不安の原因がヒイロであって。それを無言のうちに責めているのか。
―――その可能性が一番高いか。
何せココロ当たりがあるわけで。
試すような行動も、それならすべて合点がいく。
これもきっかけとしてはいいのかもしれない。時期としても、限界だろう。
ヒイロは一瞬でそう考えて、そのままもう一度眠りに落ちていこうとする耳元にそっと囁いてみた。
「………だ」
聞こえただろうか。
それは、今まで言葉としては一度もデュオに言ったことがないもの。デュオが言葉にしてまで催促し続け、そうしても聞くことの出来なかった言葉。
言葉は、自分で思うよりもすんなりと出た。
落ち着いた乱れることのない呼吸は多分デュオがそれを聞くことのないままに眠りに落ちたことを伝えていた。
けれどかすかな微笑みの浮かぶその表情は、どこかでその言葉を聞き届け、刻み込んだに違いない。
end.
|