「だるい・・・」
「自業自得だ」
朝起きたら身体が重かった。
どうやら、昨夜風呂上りに長くてめんどくさい濡れ髪を放置したことと、
薄着のままゲームに興じていたことが悪かったらしい。
未だコートを着るほどの寒さではないものの、朝夕は結構冷え込む
時期である。
己の頑丈さを過信したゆえの過ちか、見事に風邪を引き込んでしまっ
たようだった。
「ほら、大人しく寝てろ」
頭をとん、と押され再びベッドに倒れ込む。たしかに薬も効かないこの
身体、寝て治す以外にないのだった。
それはわかる。
それはわかるのだが・・・。
「・・・その冷たい目を止めろよ。仮にもこっちはカワイソーな病人だぞ。
それともなんか言いたいことでもあるわけ?」
心底から呆れたような目でじーっと見てられるのは嫌だった。
まして“看病のため”と称してずっと枕元に陣取られるのは。
「別に。ばかだと思っているだけだ」
即答で返ってくる。
嫌味たらしくも深々としたため息つきで。
「ヤな奴ー。ちったあ心配するとか可愛げのある行動しろよ」
「お前の愚行に呆れてるんだ。そう思うならもっとマトモな理由で
病気になるんだな」
「う・・・・・・」
心当たりはありまくるのでちょっと言い返せなかった。でも、そのとき
ふと違和感に気付く。
「・・・・・・なあ、お前もしかして不機嫌?」
「別に」
返ってきたのは否定の言葉。
けれどいつもより2割増しで据わった瞳がその言葉を裏切る。
確かに機嫌が悪そうだった。
―――――でも、なんで?
「なあ・・・」
「無理矢理寝かしつけられたいか?」
問いかけの言葉は途中で消える。このままいけばまず実力行使に出られそうな
気配に、しぶしぶ追求は諦めた。
ただでさえだるいのに、ここで鳩尾に一発、なんてご遠慮したい。
無言の圧力が全身に振りかかってくる。
投げかけられる視線にちょっと緊張しつつも、デュオは大人しく眼を閉じた。
けれど意識が落ちる瞬間、思いついてしまった。
―――ああ、心配してくれてるんだな。
規則的な呼吸をし始めた目の前の存在に知らず入っていた力を抜く。
額にかかる髪の毛を軽くかきあげ、そのままそこへ軽く口づけた。
触れた肌はやっぱりいつもより高い体温を伝えてきていて。
また少し不機嫌になりつつ、ようやく冷やすことを思いついてそっと立ちあがる。
ドアを閉める際、なんとなくの流れで振り向いた視線の先で、満足気な、
幸せそうな微笑みを見る。
―――やっぱりばかだ。
身体を壊して笑ってるなんて。
反省を知らないらしいのんき者を相手に、これからはきっちり管理してやると
心に誓ってしまうヒイロだった。
end.
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