いつも通っている道の片隅に、今まで気付かなかったものを見つけてヒイロは足を止めた。
冷たく吹きつける風の中、ただ1本ぽつんと立っているヒマワリの花。
今まで気付かなかったのはそれがあまりにも細く頼りなく、風景に溶けこむようだったからだろう。
花をつけたそれは、明るいオレンジイエローが少しだけ自己主張している。
夏の太陽の中、図々しいほどに生命力を放つはずのその花は、時季はずれなせいか弱々しい、としか形容できない姿をしていた。
「真冬のヒマワリ」、という言葉がある。
冬の寒さに凍った世界の中凛と立つ、鮮やかなヒマワリの花。
強くて、気高くて。
堂々とした姿を想起させる、その言葉の真実はこんなにも哀れだ。
こんなものか、とヒイロは思った。
別にその言葉に夢をもっていたというわけではないし、何かの際に聞きかじった単語を覚えていただけのことだ。
ただ、やはり残念な気がしたのも確かだったのだが。
わざわざ手折らなくても花が咲き終わるまでに枯れそうな気配の、その花。
それきり興味は失せ、つい止めてしまっていた足を再び動かし始めた。
アパートメントのロックを解除しようとして、ヒイロはカードキーを取り出しかけた手を戻した。
そのままドアを押し開けると、案の定ドアは何の抵抗もなく開いた。
「………デュオ」
「お帰りー、ヒイロ♪」
我が家も同然にくつろぎまくった様子で出迎えられる。
勝手にドアロックを解除した挙句、悪びれもせずにこにこしてるデュオの図々しさに呆れつつ、ヒイロはもう慣れてしまったその光景を無言のまま受け入れた。
買い物帰りだったため、多くはないものの手に持っていた荷物を机の上に無造作に投げ出す。
その時、ふ、と何かに思い至ったようにヒイロはぱっとデュオに振り向いた。
「………」
「…なに、ヒイロ…?」
無言のまま一人何かに納得したような表情を浮かべるヒイロに、デュオが恐る恐る問いかけた。
怒ってる、という感じではないもののなんだかタダならぬ様子なのでついつい上目遣いになる。
「ヒイロ?」
「ああ、……いや」
自分の考えに集中していたのか一瞬反応の遅れたヒイロが、名前を呼ばれたことで視線をデュオに合わせた。
なんだか珍しくもヒイロの纏う気配が少し楽しそうなのに気付き、デュオの頭に疑問符が浮かぶ。
「そういえば枯れないヒマワリもあったな、と気付いただけだ」
「は?」
ヒイロの答えは、結局聞いてもデュオには謎のままだった。
end.
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