midnight 3



ごろり、と寝返りをうつ。
シングルのベッドは別に広くも狭くもないごく普通のもののはずなのに、デュオには妙に広く開放的に感じられた。
それは、今までが狭かったから。
静かな静かな、他人の気配がない空間も久しぶりのものだ。
ふかふかした枕に顔を埋めてしみじみと呟く。
「平和だー…」
今はもう必須アイテムになってしまった抱き枕を腕に抱え、デュオはここ数日間確保されている安眠の享受に改めて笑みをもらした。


ヒイロがデュオの部屋に居付いて、すでに1年ばかりが経つ。
その間のほとんどの夜をデュオはヒイロの腕の中で過ごしたわけだが、当然そこには水面下で壮絶な戦いの歴史というものがあった。
腕の中……文字通り、腕の中。事実を述べているだけで、そこに艶めいた行動は特にない。
だが、腕の中。
どんなに妥協しようともそこに葛藤がないわけではなかったのだ。
うんうん唸って何ヶ月、デュオはようやく気がついた。
「…この部屋が狭いんだぁあああっ!!」
思わず声に出してしまって叫んでから、数時間。
ちゃっちゃと部屋の解約、新しい部屋の契約と荷造りを済ませ、データ受け渡しとかで不在なヒイロをシカトしデュオの引越しは終わった。
そう、今までのヒイロにはいいわけというか口実というかが存在したのだ。
デュオの部屋は部屋数が少なく、当然ベッドは1つなのである。
デュオがベッドに寝れば「床が固い」と文句を言い、デュオが床に寝れば「家主を床で寝させるわけには」と不気味に殊勝な発言をし、矛盾が出れば上手く言い逃れ、と手を変え品を変えヒイロはもぐり込んで来ていた。
なら、根本的な解決策は何か?
―――ベッドがもう1つあれば良いのである。
少なくともそれでヒイロはもう言い逃れ出来ない。強硬突破しようものならそれこそ追い出す口実になる。
だからデュオはこの以前より格段に広い部屋に越してきたのだ。部屋数も多いから、ゲストルームを作ってベッドを入れた。準備は万端だ。
とりあえずヒイロの荷物は放置してきたが、奴のことだから今晩辺りには何食わぬ顔でまたやって来るだろう。
でも、例えヒイロが来たとしてもこれで夜の安眠は保障されたも同然。
デュオの勝ちなのだ。
その日の晩、やはり予想通り現れたヒイロを、デュオはにこにことゲストルームに案内した。


デュオがこの部屋に越して数日が経った。
少し馴染んだ感覚のあるベッドで寝返りを打ちながら、ヒイロはなんだかしみじみと考えてしまっていた。
「本当に単純と言うか、馬鹿だな…」
居場所を与えてどうするんだか。



そこに出来たのは、ゲストルームという名のヒイロの部屋。

                                          end.



2001.7.20.
書き上げてから諸事情で1週間更新しなかったmidnight3です。
もとが突発で書いてたので、実は続きは全く考えてませんでした。
でも、「続きないんですか?」の一言でぽんとお話が出てきたので書いてしまいました(笑)←単純
ネタとか何もなしに思ったままに手を動かして書く話なんですが、1〜3までで共通なのは舞台は常に『夜』なのです。<midnightだから
ついにデュオが同居承認出してしまいましたね……(-w-)+
(しかしまたもこの先何も考えてません…続くんでしょうかこの話…爆)
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