midnight 2



妙に広く感じてしまうベッドの中でデュオはごそごそと身動いた。
シングルのそれが広いということはないし、以前はずっとこの状態で寝ていたのに。
妙な体勢で眠る事になれてしまった体はこの場に足りないものを要求しているようだった。
―――今日は多分帰れないとか言ってたよな。
ふらりと泊まりにきて1泊。
何故か居続け1ヶ月。
はたと気がついた時には半年ばかり経過していた。
何時の間にかこの部屋には少ないながらもヒイロの私物が増え、ヒイロのための物が増え、ヒイロがいるのが当たり前の空間が存在している。
どう考えても押しかけ同居。
気付いた時には完璧住み込まれてしまっていた。
でもその事に気付いたからといって『自分用のベッドを買え』、なんて言うのはこっちから許可を与えるようで嫌だ。
デュオの立場としてはあくまでも奴は泊まりに来ているだけなのだ。
だからというかなんというか、ベッドに入る時には初日以来の体勢がずっと続いている。
始めの頃こそ口煩く床で寝させる努力をしたのだが、結局もぐり込んでくるし。
じゃあと自分が床で寝ればこれまた床に来るし。
短気なデュオはその攻防を面倒に感じた時点で説得を放棄した。
だからこの半年間、デュオは夜になるとヒイロに抱き込まれた体勢という普通じゃない 状態で睡眠を取っていたのだった。
そして今日はヒイロがいない。
デュオは快適な睡眠が取れるはずだった………のに。
「うーー…」
…なんだかスカスカして寝苦しい。
足りないものが何なのかはわかり過ぎるくらいわかっているけど、それは認めてはいけないことだ。
デュオは苦虫を噛み潰したような顔で身をよじった。
―――いっそのことプロポーズでもされた方がマシだよな。
ヒイロが何を言いたいかなんてそろそろわかってきている。もし言葉にされたら「却下!」の一言で済むとわかっているのは二人共同じこと。
だからヒイロは言葉にしないしデュオは苛々しつつもはっきり拒絶出来ない。
自分が女の子だったらここまでされている時点でヒイロに変態のレッテルを貼って逃亡出来るんだろうが、男同士である手前言葉にされない限り、もっとしっかりした行動に移されない限り境界線が曖昧だ。
そう、カトルという例がある。
仲のいい友達と一緒のベッドで朝まで語り明かすことに憧れていた彼は、デュオのベッドにもぐり込んだ挙句抱き付いて先に寝ちゃった過去があるのだ。
まあそれとヒイロの行動を一緒に扱うわけにはいかないだろうけれど、そういう人間がいたのだから万が一ヒイロが自分が思っているのとは違う理由で貼り付いて来ていたら徹底的に抵抗するのはまずい。
―――まあ、ヒイロのはほぼ間違いなくアレだろうけどさぁ…。
気付かない方が丸くおさまることも世の中多いと思うのだ。
目蓋を上げれば、照明を落とした部屋の天井が見える。
夜目に慣れた瞳は部屋の中にあるものをうすぼんやりと知覚していた。
何気なく視線を巡らし、あるものがデュオの目に止まった。
「………」
ごそりと上半身を起こす。
少し考えた後、デュオは乗り出すようにして手をベッドのすぐ下の辺りに伸ばした。
掴んだ布の感触に笑みを洩らし、そのまま引っ張り上げる。
「まあ、無いよりはマシ、かな」
ヒイロに枕替わりに使わせていたクッションである。
腕に収まったそれをポンポン叩いてホコリを落とし、身代わりとばかりに抱き込んでまた寝心地のいい位置を探るためごそごそ身動く。
「………げ。」
なんだか本当に落ち付いてしまったことに気がついてデュオは嫌そうに呻き声を上げた。
―――これはとんでもなくやばい事態なのかもしれない。
ヒイロがこれを狙っていたのだとしたらかなりの策士だ。
気付かない内に罠に嵌まっている。
「………」
手始めにこのクッションを手放そうか考えて、デュオは諦めてそのまま目を閉じた。
明日からが戦争だというなら今睡眠を取らないのは致命的だ。
まあ、どうせ帰ってこないんだろうし今日くらいはいいだろう。
先程までとは違い、やがてゆっくりと睡魔がデュオの精神を満たしていった。


カチ。

空が白み始めるよりも少し前、部屋のドアが微かな音と共に開いた。
ベッドまでニ、三歩歩み寄ったヒイロは、そこにあった光景に笑みを洩らした。
―――さすがにアレを剥がしたら起きるだろうな。
何があったかは一目瞭然。
だから少し癪だが今日は場所を譲ることにする。
理由が、自分の不在ならそれはかなり好ましい事態だ。
無言のままヒイロは踵を返した。
本日の寝場所は、リビングのソファが妥当だろう。

                                          end.



2000.12.7.
12日連続更新第7日目。
12日連続更新もついに半ばを過ぎました。
うさぎのネタと気力がそろそろ切れかけててやばいですv(汗)
昨日の時点ではつづきを書こうなんて考えていませんでしたが、何故かパソコンに向かったときにはこの話が浮かんできました。
もっとイチニにせよとのヒイロのお達しだったのでしょうか…?
基本的にデュオはノーマル志向の模様。
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