ANGELNOTE EXTRA 4



1週間程前、告知板による掲示で新たに一組の天使と死神が誕生したことが騒がれた。

注目される人物たちの結果が出た上、数日後行われた部屋割り大移動で多少の混乱が皆に起こったものの、それもそろそろ落ち着いたそんな頃。

死神のデュオは、ついこの間パートナーとなったヒイロの部屋の前へと来ていた。

「ひーいーろーさーん、いるかー?」

ノックをしても、声をかけてもドアは開かない。
ふむ、と首を傾げたデュオは少し考えて、勢いよく足を振り上げた。

「………蹴るな」

途端に開いたそれの向こうに不機嫌そうな顔を見つけて、デュオはにっこり微笑んだ。



子供の頃から、デュオはヒイロの部屋に入り浸っていた。
特に用があるわけではないのだけれど、人の気配が安心するとか言ってやって来るのだ。

そのくせそんな時構われるのは大嫌いで、だからの人選だったと言える。

そこで静かにしているかと思いきや、思い切り自分勝手にしゃべる。しゃべる。しゃべりまくる。

だからヒイロはいつもドアを開けない。

そんなヒイロを相手にデュオがドアを吹き飛ばしたことは一度や二度ではなく、だからヒイロもしぶしぶながらドアを開けるのが常だった。

しぶしぶ…でも、いつからかヒイロがデュオの存在を受け入れていることをデュオは気付いていたから、ドアを蹴ったり術を使ってみたり、といった行動は素直じゃないヒイロに口実を作ってやるため、みたいなものだった。

そんなデュオにヒイロも気付いてるから、これは二人の一種のコミュニケーションだったとも言える。
ここに来ること自体、デュオなりの甘え方でもあったし。

ただ近頃それが酷く面倒くさい事態になっていた。
理由はただ1つ……部屋割り。

―――遠い。酷く遠い。むっちゃくちゃ遠い。

何もナナメ正反対の角に部屋が無くてもいいだろうに。
ついこの間まで結構近かったのだ、なのに急にかなりの距離が出来ている。

塔に通う人間はかなりの数で、そこに住む住人というのもかなりの数だから部屋数はハンパじゃない。
そこの端と端となれば、十分やそこら歩いても着かない。当然入り浸るのは大変だ。

このところ手続き書類や何やで忙しかったデュオは、結構な鬱憤を溜めて本日ようやっと時間を捻り出して来たのだった。


「でさー、五飛とカトルがさ。死神になるらしくて今試験受けててさー、遊んでくんないんだよ。トロワも暇だからってなんか導師の資格とるとか言ってたから忙しそうだし」

定位置のベッドに座り、足をぶらぶらさせながらしゃべるデュオの言葉を聞くともなしに聞きながら、ヒイロは手元の書類を片付けていく。
デュオと同じだけの書類は、当然ヒイロの元にも来ているのだ。

「トロワと五飛、組むんだって。どっちが試験受けなおすかジャンケンで決めたとか言ってたな…案外適当だよな、あの二人も」

「カトルは何故死神なんだ?」

「あー、なんかリリーナと意気投合したらしいけど」

「………」

この時ヒイロは一瞬過った嫌な予感に眉を顰めた。
何故かわからないが、その組み合わせは凄くマズイ気がする。
―――妨害工作は…いや、無駄だろうか。

「ところで、まだ終わんないわけ?」
「邪魔だ」

横に移動してきてひょいと手元を覗き込んだデュオを邪魔そうにどけながら、ヒイロはもやもやした感覚を一旦後ろに置いておく事にした。

とりあえず、今日は早く書類を片付けてやることがある。
ヒイロは横で頬を膨らませているデュオをちらりと見やった。

視線を書類に戻しながら、一つ小さく息を吐く。

そう、始めなければならないことがある。

デュオが自分を好んでいることは知っている。だが、それが『絶対』でないことも知っている。
好かれていて、信じられていて、大切にされていて、一番近い位置にいるのが自分だが、求めているのはそれじゃない。

立場は手に入れた。
他の条件も揃えた、それは全て実力で勝ち得たものだ……後は、全てを行動へ移すのみ。

―――さて、どこまで執着させられるかな?

自嘲と、自信と、期待を胸に、最後の書類に署名する。
書き終えるとほぼ同時に横にあるデュオの腕を引いた。

「……え?」

驚いたような顔が近づく。
そう、今夜から全てを始めてやる。



……出会った日の予感が、何かが変わるという予感が、間違いでないことはきっと間もなく証明されることだろう。

                                          end.



2001.10.24.
伸びながら伸びながら1年半続いたANGEL NOTEシリーズついに完結です。
なんだか話番号と順番が前後するのが問題ですが…一覧の下から順に見れば繋がる筈なのでいいとしましょう(TwT)
これは花言葉にあるEXTRA3の直前にあたります。つまり腕引いた後「嫌か?」発言になるわけですヒイロは(笑)羽根仕込んだりもこの後ですね!!
さらに続きになるとEXTRA2ですので、ばっちりくっ付いてます…頑張ったねヒイロ……。

さて、これがシリーズ最後の1本になるわけですが、最後の種明かし。
うさぎが書こうとして玉砕した点は、

『ヒイロとデュオの「好き」の違い』

でした(爆)
ヒイロの方が執着的なのです、デュオの方はちゃんとヒイロを大事なんですがどっちかと言うと壁作ってる感じで。
それにじわじわ踏み込んでくヒイロ→デュオ話がこのシリーズなのでした。
……だから、ヒイロの頑張りストーリーだから「angelnote(天使の覚え書き)」なのです(^w^;
まあ、元ネタは香水シリーズの名前なのですが某カタログ通販の(笑)
なんかこう好き放題楽しく書けたシリーズでした。これで完結なのですが、お楽しみ頂けてたら幸いです♪

余談。2001.4.23の日記を見た方はわかるのですが、これは果てしなく少女マンガでバカで恥ずかしく不毛な続きが存在しています。
実はシリーズ中には伏線がいくつか張ってあったのですが、気になる方はその日記見てください…。
(※2006年3月に削除してしまったので現在はありません。ログは残ってるのでいつか再掲載する機会もある、かも…?)
でも幸せなラストがお好みの方はこのままこの隠し文字見なかったことにすることをオススメしますv(苦笑)
いや…自分でも恥ずかしくてバカだという自覚はありありなのです…(脱兎)

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