働き者でも思わずうとうととしたくなるような穏やかな空気の中、死神のデュオは不機嫌オーラを回りに撒き散らしながらずんずか歩いていた。 「理不尽だ。絶対理不尽だ、理不尽すぎる!!」
ぶちぶち文句を言いながら歩くデュオに声をかけるものはいない。
まあ不機嫌なデュオから万が一にも「憂さ晴らしの一発」なんてものを食らってしまったら一発であの世行きなのだからある意味しょうがないが。 「なんで、オレが!このオレ様が!!わざわざあいつに会いに行かなきゃなんねーんだよっ!!」
苛々しながら呟きつづける。
理不尽だ。
2週間前、デュオを怒らせたのはヒイロの方だった。
あの時言った言葉に嘘はない。
でもだからと言って、パートナーになってからは必然的に四六時中一緒にいた人物が2週間気配すら欠片も存在しないという状況はかなり異常だ。 でも実際は2週間声すら聞いてない。 異常だ、異常すぎる。
そして異常だ異常だと思いつづけて十数日、デュオは急に不安になってきてしまったのだ。 そんな筈はないと思っても、ヒイロが姿を現さないからだんだん不安が増してくる。
嫌われた、とかは思わない。ヒイロがそんなにやわな根性をしていないことは長い付き合い上嫌というほど知っているデュオだ。 だからデュオは今ヒイロの部屋に向かって歩いている途中なのだ。
はっきり言って会いたくないのだが、心配なものは心配だし不安なものは不安だ。 でも。 「理不尽だ……」
呟きたくなるムカムカした心はどうしようもない。 「嫌か、なんて聞かれたってどう答えろってんだよ…」
どういうわけかパートナーを組んで以来ヒイロの部屋はデュオの部屋から丁度対角線というやたら遠い位置に移動していたので距離はかなり長い。
「口に出してくれる分、表情まで読まなくていいから楽だな」
鍋に水を張っただけという杜撰な水鏡に、デュオの姿が映っていた。 「あいつも法術系なんだからこれくらい気付いてもいいはずなんだが」 妙なところで鈍いな、と呟く。
ヒイロが使ったのは天使なら誰でも使える初歩中の初歩、自分の羽根を使った遠視に過ぎない。
翼の質の違いから死神は使わないが、知識としてはもっているはずだ。 「まあ、その分助かるが」
この2週間ヒイロがデュオに気配すら捉えられなかったのも当たり前。 ヒイロがデュオの前に現れないのは異常事態、とのデュオの判断は的確だったと言える。
現時点で6年。 証拠隠滅のため溜めた水を捨て、もうすぐ傍の角まで来ているデュオを出迎える準備をしながら、ヒイロは口元に笑みを刻んだ。
end. |
2001.4.12.
花言葉企画第4回。
花は「キショウブ」。花言葉は「消息・音信」でした。 デュオが消息不明でも音信不通でも結構当たり前かな、とヒイロに音信不通になってもらいました。 でもこれが難しくて…今までに書いた文の中に音信不通になってくれそうなヒイロはいないかな、と漁って出てきたのが天使ヒイロ氏。 お題から最初に考えたのとはちょっと違うのですが、見事お役目果たしてくれました。 しかしこの音信不通は普通と違ってちょっと怖いですね(爆)
天使シリーズもあとちょっとの所で止まってます。 |