ANGELNOTE EXTRA 3



「絶交だ。しばらくオレの前に顔出すなっ!!」
そう叫んだのは、2週間ほど前のことになる。


のどかな春の1日、天界は非常に平和だった。
陽射しはぽかぽかと気持ちいいし、風は強過ぎず、けれど弱過ぎず大地を渡っていく。

働き者でも思わずうとうととしたくなるような穏やかな空気の中、死神のデュオは不機嫌オーラを回りに撒き散らしながらずんずか歩いていた。

「理不尽だ。絶対理不尽だ、理不尽すぎる!!」

ぶちぶち文句を言いながら歩くデュオに声をかけるものはいない。
それどころか道を避けられてすらいるのだが、幸か不幸か自分のことで手一杯なデュオは全く気付いていなかった。

まあ不機嫌なデュオから万が一にも「憂さ晴らしの一発」なんてものを食らってしまったら一発であの世行きなのだからある意味しょうがないが。
(そして今のデュオはそれをしかねない精神状態だった)

「なんで、オレが!このオレ様が!!わざわざあいつに会いに行かなきゃなんねーんだよっ!!」

苛々しながら呟きつづける。
実際口に出していないと爆発しそうだったのだ。

理不尽だ。
絶対に理不尽だとそう思う。

2週間前、デュオを怒らせたのはヒイロの方だった。
明らかにヒイロが悪い、とデュオは宣言出来る位なのだが、内容が内容だけに実際のところは口を噤んでいる。
つまり人には言えないようなそういうコトをされそうになって蹴り飛ばした、それが事の経緯だ。

あの時言った言葉に嘘はない。
本当に当分会いたくなかったわけだから。
どんな顔をしろと言うのか、というのがデュオの正直な気持ちでもある。

でもだからと言って、パートナーになってからは必然的に四六時中一緒にいた人物が2週間気配すら欠片も存在しないという状況はかなり異常だ。
しかも「あの」ヒイロだから、翌日にはけろりとして現れると思ったのだ。

でも実際は2週間声すら聞いてない。

異常だ、異常すぎる。

そして異常だ異常だと思いつづけて十数日、デュオは急に不安になってきてしまったのだ。
―――もしかしてあの時蹴り飛ばした(おまけに術を2、3発ぶち込んだ)のが悪化したとか?

そんな筈はないと思っても、ヒイロが姿を現さないからだんだん不安が増してくる。

嫌われた、とかは思わない。ヒイロがそんなにやわな根性をしていないことは長い付き合い上嫌というほど知っているデュオだ。
彼の場合はむしろ「最初から嫌われてるなら遠慮する必要ないな」とか言って襲ってくる方が確率として高い。
ヒイロが聞いたら「心外だ」と言うだろうが、デュオ的認識ではそうなのである。

だからデュオは今ヒイロの部屋に向かって歩いている途中なのだ。

はっきり言って会いたくないのだが、心配なものは心配だし不安なものは不安だ。
その辺デュオは正直に出来ていた。

でも。

「理不尽だ……」

呟きたくなるムカムカした心はどうしようもない。
実際本当に会いになんて行きたくない。
今だに思い出しただけで顔が赤くなるのだ。

「嫌か、なんて聞かれたってどう答えろってんだよ…」

どういうわけかパートナーを組んで以来ヒイロの部屋はデュオの部屋から丁度対角線というやたら遠い位置に移動していたので距離はかなり長い。
その道を、真っ赤になっているだろう頬をごしごし腕で擦りながらデュオは歩いた。



同刻、ヒイロの部屋。

「口に出してくれる分、表情まで読まなくていいから楽だな」

鍋に水を張っただけという杜撰な水鏡に、デュオの姿が映っていた。
思い悩んでいるようなその姿はどう見ても手応え充分、先行きの明るさをしか示していない。

「あいつも法術系なんだからこれくらい気付いてもいいはずなんだが」

妙なところで鈍いな、と呟く。

ヒイロが使ったのは天使なら誰でも使える初歩中の初歩、自分の羽根を使った遠視に過ぎない。
理屈は簡単、その真っ白な羽根の1つでも相手の体に忍ばせればOK。どんなに遠くにいようが自分の一部が伴っているのだから簡単に視える。

翼の質の違いから死神は使わないが、知識としてはもっているはずだ。
さらに言えばヒイロは羽根をデュオの身体の内に術で埋め込んだ…厳密に言えば埋めたというのは変なのだが、とにかくデュオに同化させたのだから、その法術の余韻ともいうべきものに気付いていいはずだ。
何せデュオは法術系の天才児で通っているわけだし。
気付かれて当然、気付かれなかったらラッキーくらいの気持ちで先日出向いてきた時ついでに術をかけてみた。

「まあ、その分助かるが」

この2週間ヒイロがデュオに気配すら捉えられなかったのも当たり前。
ヒイロは直に会わずにデュオの様子を見ていたわけである。
まあとりあえず元気そうだし、妙な虫は付きかけの時点で出向いて行って手を打ってるし、しばらくは会ってもうるさそうだしでデュオの部屋に出向くことはしていなかったわけだ。

ヒイロがデュオの前に現れないのは異常事態、とのデュオの判断は的確だったと言える。

現時点で6年。
十ヶ年計画は前倒しで順調。

証拠隠滅のため溜めた水を捨て、もうすぐ傍の角まで来ているデュオを出迎える準備をしながら、ヒイロは口元に笑みを刻んだ。

                                          end.



2001.4.12.
花言葉企画第4回。
花は「キショウブ」。花言葉は「消息・音信」でした。
デュオが消息不明でも音信不通でも結構当たり前かな、とヒイロに音信不通になってもらいました。
でもこれが難しくて…今までに書いた文の中に音信不通になってくれそうなヒイロはいないかな、と漁って出てきたのが天使ヒイロ氏。
お題から最初に考えたのとはちょっと違うのですが、見事お役目果たしてくれました。
しかしこの音信不通は普通と違ってちょっと怖いですね(爆)

天使シリーズもあとちょっとの所で止まってます。
続きのは今度書こうと思ってますが、終わらせるのも惜しいのでもう少し番外的なのも続けようかと思ってます。
今回のこれはEXTRA2のちょっと前くらいでしょうか。

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