ANGELNOTE EXTRA 2



甘い香りがする。
部屋に入った途端ふうわりと香る甘い香り。

それの発生源を求めて室内を見回せば、さして手間取る事もなく 見つけることが出来た。

「あれか……」

窓辺に活けられた桜の枝。
香りの源は、それだった。

「綺麗だろ?」

ふいに斜め後方、ベッドのほうから声がかけられた。
気配でその声の主はわかっていたので、敢えてゆっくりと降り返る。

「リリーナに貰ったんだ。地上は、今ちょうど花の盛りなんだって」

にこにこと不自然なくらいに笑みを湛えたデュオに、ヒイロは続く言葉が容易に頭に浮かんだ。

「オレも行きたいなぁ、なんて」

全くもって予想通りの言葉が紡がれる。

「…今は任務が与えられていないが?」

だから地上に降りる必要なんて無い。

言外に言うヒイロにデュオがむうとむくれる。

「お前と一緒なら行けるじゃん。その為の対だろ」

厳密に言えば仕事の為のパートナーだ。

確かに二人一緒なら地上での自由行動が認められているわけなのだが、普通無目的でわざわざ他の世界に行く奴はいない。

まあ、目的が有るといえば有るのだが、何せすっげぇ手間がかかる行動なわけで。
それでヒイロが渋るのだ。

「オレは、いっぱい咲きまくった桜が見たいの!」

はっきり言ってしまえば、わがままである。それ以外の何者でも無い。
本人もそれをわかっているのか、自然ヒイロを伺う眼差しがお強請りモードになっている。

「な、な、いいだろ?」
「………」
「ヒイロってばー」
「……条件次第、だな」

譲歩する様子を見せ始めたヒイロにデュオの顔がぱっと明るくなる。

次いでヒイロの顔を見つめ……その表情から『条件』とやらを悟ったデュオは一気に嫌そうな顔になった。

「……卑怯者」
「なんとでも」
「………」
「どうする?」

ヒイロが楽しげに返事を促す。
それにデュオは困ったように眉を顰めた。

確かに強請ったのは自分だけれど、気付けばどう転んでもヒイロにとって悪いようにはならない状態になっている。

なんだか非常に悔しい。
こいつのこんな所が油断ならないんだ、と思うけれどもう後の祭だ。

―――でも、それでも。どうしても行きたい、から。
しょうがない。

「……もうちっとかがめ」

諦めた風に、『条件』とやらを満たす為にヒイロへと手を伸ばす。
それに従いヒイロが素直に身をかがめた。

自分から顔を傾けて、そっと近づけていく。

口唇が触れる甘い感触がして、薄目を開けるとヒイロも瞳を閉じているのがわかった。

ゆっくりと口唇を離し、上体を離して――――…

「甘いな」

振りかぶった手は、ヒイロによって掴み上げられた。

「うーっ」
「生憎と反撃を食らうほど鈍くはないつもりだ」

最後の抵抗を封じてそのままベッドへと押し倒す。

「明日、地上へ連れてってやる。感謝しろ」

「すけべッ!!」
「もう黙れ」

続く悪態も次第になくなり、やがてその腕はそっと背中へ回された。






「何故そんなにあの花に拘るんだ?」
「教えない」

ふ、と思い出したように呟くヒイロにデュオは曖昧に笑ってみせる。
首筋を滑る口唇の感触をごまかすように、くせのない黒髪に指を滑らす。

―――お前に、似合うと思っただけだよ。

答えなんて一生教えてやらない。

                                          end.



2000.5.10.
甘い………(絶句)
桜シリーズ第6段は天使シリーズより番外後日談の登場でした。
まあ、ヒイロ以外とくっつくという予想は皆さま無いでしょうから(だってウチの1×2だし)ヒイロと対になってることについては得にコメント必要ないでしょう。
ではさりげなく登場のリリ様は?
…………これから出てきます。まだそこまで書いてないから……(爆)
当初の予想より大分甘くなったので、多分天使シリーズもラスト相当甘くなるんじゃないかなぁなんて思ってます。

実はこのシリーズ続き書くのすっかり忘れてました(死)
ごめんよトロワとカトル…デュオと出会ってないね(-w-ll

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