ANGELNOTE EXTRA 6



「デュオったら、よくあのヒイロ・ユイと幼馴染なんてやってこれたわねー」
「そう?」

ヒルデ・シュバイカーはデュオにとって先輩にあたる死神だ。
先輩といっても1つ前の試験に合格したというだけだからほぼ同期に近い。

修学の時期、志望進路、年齢共に近かった二人は、彼女の気さくで物怖じしない
性格も相俟って、見事に男女間の友情を確立させ数年を経る。

「ヒイロ・ユイといったら無口無愛想無表情、生きた天然危険物って有名よ」
「て、天然危険物…」
「誰が考えたかは知らないけど的確よね」

はい、どうぞとデュオの前にお茶を差し出す。
ツボに入ったらしい彼は背中を丸めて声もなく笑っていて、食べていたアップルパイを 喉に詰まらせかねない勢いだった。

「お茶もお菓子もわざわざお取り寄せしたんだから、ちゃんと味わってよねー?」

美味しく食べてくれてるのはわかってるけど、ついつい呟きつつヒルデはため息を吐いた。
本当に、これでよくあの彼と仲良く生きてこれたものだ。

塔に侵入した賊数人にたまたま出くわして、一人で半殺しにして捕まえてしまったらしいとか。
彼に憧れた見習い剣士が後をつけていたら、進路妨害に大岩を置いて去ったらしいとか。
彼の怒りをかった教官が泣きながら塔から逃亡してしまったらしいとか。
とかとかとか。

なんかどう考えてもまともな人間像が浮かばないような噂が溢れた彼の人物は、 実際そのすべてを実行しちゃってる一言で言うと『ヤバイ人』だ。

「んー、あいつ変だけど結構いい奴だぜ?」
「それはまあ、そうっぽかったけどねー」

先程デュオを部屋に誘ったとき、たまたまいた人物がその噂のヒイロ・ユイだと知ったのは、 連れ立って部屋に戻ってからだった。
先に知ってたらデュオに声なんかかけなかったかもしれない。

やばかった。
正直やばかった。気がする。

「なーんか…気になる視線だったのよね…」
「ん?ふぁに?」

口にパイを頬張ったまましゃべるデュオになんでもないわとにっこり笑って、 ヒルデはお茶を一口飲んだ。
(別に、彼の手助けしてあげる義理はないものね?)
ちらり、と意味深な笑みが口元に浮かぶ。

「それにしても、デュオって彼と何して遊んでたの?共通の話題も少なそうだけど、今も どんなこと話してるわけ?」

興味津々、という様で目を輝かせるヒルデにデュオはうーんと唸った。

「改めて聞かれると特にそういうもんは無いなぁ」
「そうなの?」

純粋な疑問の声をあげたヒルデに、デュオは記憶を辿るように視線をさまよわせた。

「小さい頃かー…ってもまあ幼馴染っつっても会ったの5年前だし、一緒に遊ぶってことも もうあんまりないような年齢だからなぁ。
やってたことといえば…オレが待ち伏せして罠仕掛けておいたり、オレが不意打ちで術ぶっ放してみたり、 あいつが仕返しに落とし穴作ってオレ落としたりとか」

「……デュオ、アンタそれって嫌がらせ…?」

「失礼な。ちゃんとした勝負だぜー?なのにあいつってば、落とし穴なんて姑息な手を使って きやがって。オレ出るのに3日かかったんだぞ、絶対いつかやり返してやるっ」

思い出したのか悔しげに頬を膨らませたデュオに、ヒルデは待ち伏せや不意打ちの内容に ついて突っ込むべきか、3日もかかったなんてどんな穴だと突っ込むべきかちょっと迷った。

「そういうの以外っていうと…」

言葉を途中で止めて、デュオは小さく笑った。

「ああ、結婚式ごっことか!」
「……………………………………………………え?」

これは平和な遊びだ!と自信満々に言い放ったデュオに、ヒルデは飲んでいたお茶を吹きそうになった。
それには気づかずにこにことデュオが言葉を続ける。

「ほら女の子がよくやるだろ?おままごとだよ。『予行練習だ』とか言ってあいつが そりゃもう何度も何度もやりたがって。でもいくらあいつの練習ったって、 オレが花嫁役ばっかやらされるのが腹たってさー、ぶち切れてそれっきりかな」

偶にはオレだって花婿役やりたかった、と話すデュオは、全く含みなどなさそうで。

「…そうなの」
(それってアンタも練習させられてたんじゃない…?)

その話題には、それ以上二度と突っ込まないことにしたヒルデだった。



それはデュオがヒイロと組むようになる数週間前のこと。
まあ、それなりに平和な日常だったのです。

                                          end.



2006.1.2.
突然ですが既に終わってるシリーズの番外編ですv
結婚式ごっこです。お医者さんごっこよりかはマトモだと信じてヒイロの阿呆っぷりを書いてみました(=w=)+
(どっちも似たようなモノですとか言っちゃいけませんッ)
結局最後まで出ることの無かったヒルデ出してみたかったのと、幼い日の二人の様子書きたかったのと、『天然危険物』という単語出したかったのとで大分前から1本書きたかったのでした。
最後の単語は、私考えたものじゃないのですがそれを聞いて以来ヒイロに使いたくて使いたくて使いたくて(*ノノ)

ちなみに、EXTRA「6」なのです。
5はうさぎ小屋ではなくhitroomの5万hit記念にあるので並べるとちょっと番号飛んだ感じになるのでした(笑)
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