「さて、何故呼ばれたのかについては皆さまおわかりですわね?」
皆の視線が集まる中、リリーナが始めの言葉を紡いだ。
この場にいるのは本日正天使に昇格したヒイロ、トロワ、カトル、五飛。
そして、デュオにリリーナ。
さらにはリリーナの従妹のドロシーという7人だけだった。
「ご存知のようにデュオは今まで能力値の問題から対となる方がいませんでした。そして、天使になったあなた方は全員デュオをパートナーとすることを希望しています。
でもデュオと対になる方は一人のみ……本日お集まりいただいたのは、その一人を決めるためです」
そこでリリーナはちらりとデュオを見た。
目配せするように微笑み合う。
「選考方法についてはデュオからの希望を聞いてわたくしが決めさせて頂きました。とっても簡単です」
そこでリリーナはにっこりと笑って4人に宣言した。
あまりにも普通の方法を。
「戦って下さいな」
どんな方法が取られるかと緊張した面持ちだった4人は、一気に力の抜けたような顔をした。
裏の意図は、まだ知らないままに。
□□□
その日は酷く風が吹いていたと、そうデュオは記憶している。
よく晴れた空と穏やかな空気。
目に馴染んだ平和な天界の片隅で、一人の天使が死んだ。
見取ったのはデュオと一人の死神のみ。
誰もその死の真相を知らない。知らされることはなかった。
『…対となることの本当の意味を知っているか?』
黒髪の死神は幼いデュオにそう告げた。
自らの対であった天使をその手にかけた彼は、全身血に濡れていたのに何故かとても綺麗だった。
『もしお前が本当にこの道を選ぶのなら忘れるな。
今日ここで起こったことの意味を』
記憶に残る彼はとても自分に厳しい人だった。
あの日を境にこの天界で彼の姿を見ることはなかった。風の噂で死んだと聞いた。
けれど、彼の残した言葉は今もデュオの中に響きつづけている。
「少なくともオレは。
オレがパートナーに対してどうしても求めたいものは…」
だからずっと決めていた。
対となる人間に、最低限絶対に求めたいもの。
王族であるがゆえに全て知るリリーナだから話せる真実。
「それは、オレを殺せる位の強さだ」
『狂った対を殺すために、この仕組みが取られている』
彼の言葉は真実。
何故大概において異系である剣術系と法術系が組むのだろうか。
何故剣術系と法術系は稽古でも戦ってはいけないんだろうか。
戦う力は何のため?
一度は考え、そして全ての者がごまかされてしまうその疑問の真の解答がそれ。
そして今、リリーナはやはりそれを否定しなかった。
剣術系と法術系の戦いは予測がつかなくて危険、それは確かなのだけれど。
本当はいざというときに互いの手の内を悟られない為。
それぞれに授けられている『秘技』をけして相手に見せないための予防線、それが大元の理由。
いつか相手を、殺すときのために。
悲劇を演じる者たちだけが知る真実、けれどデュオは既に知ってしまっていた。
だから。
―――でも。
「そんでもって。その次に満たしたい条件なんかもあるんだ。ほらオレ、わがまま
だからさ」
それでも、の理由もちゃんと持っている。
もっと求めたいことを持っている。
重くなった空気を振り払うように軽く笑って、デュオはその『条件』を告げた。
それを聞いたリリーナがまあ、という顔をする。
次いでふふ、と楽しそうに笑った。
「あら、それなら普通のテストでは無理ね」
わたくしに、全て任せてくださるかしら?
そう彼女は囁いた。
end.
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