ANGEL NOTE 2



はじまりの記憶は、どうにも衝撃的だったとしか言いようがない。


ヒイロ・ユイは、かわいげのない子供だった。

容姿が悪かったわけではない。
子供らしい愛らしさこそ欠けていたが、整った容貌をしていた。

これで愛想が良ければかわいかったのだろう、多分。

ただ、歴史に『もしも』はなく、ヒイロはやはりかわいげのない子供だった。

子供のくせに妙に自信と落ち付きに満ちた態度や、態度に見合った能力が 醸し出す空気は彼と同世代の者たちにとって彼を近寄り難い存在としていた。

だから、ヒイロは大抵一人でいた。
それに特に不自由だと思うことはなかったし、周りが静かなことは彼にとって楽だった。

ただ、平穏だった。

退屈なくらいに。



天界においてある一定の年齢に達した子供は、神殿でその後の生き方を選ぶことになる。

ここでモノを言うのは適性。と、言うかそれのみ。

もちろんその道に進むかどうかは神の名の元に自由だが、ヒイロは敢えて面倒な道を 進む必要もないだろうと示されるままに「塔」への道を選んだ。

塔の管轄は地上の輪廻。

ここで、天使か死神かを選び見習いからのスタートとなる。
……天の国といえど、結構地道なのだ。

「なあ、お前がヒイロ・ユイ?」

与えられた寝所へ向かおうと、てくてくと廊下を歩いていたヒイロを呼び止める 声がした。
振り向けば、いつの間に近づいたものか明るい茶色の三つ編みを揺らした同年代の 少年が立っている。

「……そうだが」

何の用だ、と言うと少年はにっこりと微笑んだ。

「サーベ」

言葉が紡がれた瞬間、真空の刃が出現する。

「……っ?!」

ヒイロが「壁」を造るのと衝撃波は、ほぼ同時だった。

瞬間的にかかったプレッシャーに、臓腑を抑えつけられるような感覚に声が出ない。

背後の壁が、力場に耐えきれずヒビを入れた。

「なっ……?!」
「すっげーっ!!」

自分に何が起こったのかわからず、呆然としかけた頭を冷静にするかのように 歓声が上がった。
一瞬で我に返り、唐突に攻撃を仕掛けてきた人物を睨み付ければ、何故だか相手は 非常に浮かれている。

自分は感激しているんだ、ということを目一杯に主張するかのように、興奮の余り 頬は赤らんでいた。

その様子を見る限りでは、どうやら害意があるというわけではなさそうである(まともに当たれば死んでたが)。

「………どういうつもりだ」

「うん、ちょっと試してみたくて。あ、気ィ悪くしたなら謝る」

重ねて言うが、結構殺傷力の高い法術である。
普通あっさり謝ってすむことではない。

「改めて初めまして、ヒイロ。オレはデュオ、デュオ・マックスウェル。お前んとこの じーさんとうちのじーさんは古馴染みなんだ。オレたちは会ったことなかったけど、 話くらいは聞いたことない?」

「……」

ヒイロの記憶には、覚えがあった。
――そういえば、どこぞの親馬鹿・・・じゃない、じじ馬鹿が以前延々と自慢話を していったような………アレか。

「……“試す”?」

とりあえず相手が何者かはわかったので、未だ残る疑問を解消すべく問いを重ねる。

すでに、ヒイロの中では警戒というよりも変わった相手に対する興味の方が勝っていた。
普通あっさり忘れることでもない。

「うん、お前んとこのじーさんが『ウチのは強い、負け知らずだ』って言ってたから どんなもんかなーって。オレより強いヤツって会ったことなかったからさ」

でもホントすごいなお前、オレ術を消されたのって初めて。

にこにこ笑顔で話すデュオは、大層ご機嫌だった。

「そうか」

デュオの説明に満足したのか、ヒイロが頷く。
傍から見れば普通ではないが、当人たちは落ち付く所に落ち付いたらしい。

この時点で、ヒイロにはデュオに対する興味が沸いていた。

今まで、自分の防御壁を消すほどの術を使う同年代の人間なんて一人もいなかった。

大人相手でも高位の者でなければ勝てる自信があるヒイロを相手に、一歩も引けを とらない。
いや、風を属性とするヒイロだから、風の攻撃に対しては有利だったはずだ。

それが相殺されたのだから、おそらくデュオの力はヒイロを超える。わずかの差ではあるだろうけど。

「これからよろしくな、ヒイロ」
「ああ」

―――おもしろい。
答えるヒイロの口許に、僅かに笑みが浮かんだ。

今までいなかった類の人間。その力も、向けられる明るい笑顔も。


始めは、僅かばかりの興味。閉じられた世界に、風が吹いた。
ここが、全てのはじまり。



聖堂から走ってくるその背に漆黒の翼が翻る。

「ヒイロ、やった!受かったーーー!!」
どうやら無事昇格したらしい。

腕を振りまわしながら駆け下りてくるその姿に、知らず苦笑が洩れる。

あれからとりあえず自然と進路が別れてここまで来た。

追いつくまで、越える試練はあと2つ。
最初の頃の僅かな力の差が、この時間差を生んだ。

力の差が追いつくまではあと少し…では追い越すまでは?
それが、そう遠い日ではないことをヒイロはもう知っていた。

                                          end.



2000.3.10.
何故だかなんとなく続いてます(笑)
でも、なんか…なんかがチガウ…………。
ヒイロ視点なせいでしょうか、それともデュオが奇妙に明るいせいでしょうか。
何故こんなにヒイロらぶってるんでしょう……(汗)(汗)(汗)
とりあえず出会い編……ただ出会い頭に法術ぶっぱなすデュオが書きたかっただけ。
使った呪文はSD外伝より。ヒイロの「壁」ってのはアンチマジックって呪文です。
(自分で考える頭がないので説明書から引っ張ってきました……)
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