くりすますでGO!(仮)




 



 


クリスマス…。それは恋人たちのうんたらかんたら。

「天化…」

 見つめる瞳は、僅かに潤んでいる。
 彼女―蝉玉―の細い身体を抱きしめ、天化は人界に降りたこと、クリスマスを心から祝福した。

「蝉玉…」

 唇が触れる。直前。
 背後で轟音が鳴り響いた。

「天化くーん、何してるのぉー?」

 ちょっぴり懐かしいその声。でも今ここで聞く予定はなかったはずだ。

「オイ太乙、落ちるって!」
「離せってば…うわあっ」

 黄巾力士から落ちてきた二人に、妙な脱力感に苛まれる。

「コーチ…」
「太乙の酔いを冷ますために外に出てきたんだけどさ」
「それで?」

 天化の額に浮いた青筋には目もくれず、太乙が隣で固まっている蝉玉の腕を掴む。
 酒臭い息につい目を背けた蝉玉だが、太乙もアルコールの入った人間の類に漏れずに無神経だった。

「久しぶりぃー、蝉玉ちゃん。元気だったぁ? 天化くんとはどんな感じぃ〜?」

 蝉玉は頬を引きつらせたまま何も答えない。

「でもさぁ、なんでこんな冬の夜にデートしてるのぉ? 寒いのにー」

 それでも勝手に盛り上がる太乙だが、それに気付いた道徳と天化に引き離された。

「戻るぞ、太乙!」

 後ろから抱きかかえ、道徳が太乙を黄巾力士へと引きずり連行していく。

「蝉玉に手を出したら、いくら太乙さんでも許さないさっ」

 蝉玉を抱きかかえた天化が、コクピットを見上げて喚く。

「君もねー、ウチのナタクに手出したら殺すよぉっ」
「支離滅裂さ!」

 天化もさすがにコケたらしい。ツッコミを入れてみたが、やはり酔っぱらいには通じない。

「あきらめろ、天化!」

 道徳は無気味な捨てゼリフを残し、太乙と共に去った。
 本人はもちろん太乙へのツッコミをあきらめろという意味だったのだが、
 天化にはひどく不吉に聞こえたのだ。

 ポツリと蝉玉が尋ねる。

「今の、何?」
「俺っちの師父と太乙さん。会ったことなかった?」
「あるわ」

 どうでもよさそうな返事。

「忘年会だって」
「ふーん」

 更に興味なさそうに答える。
 そしてとどめのように言い放った。

「あたしもう帰るね」

 そのまま一切相手の反応を確かめず、蝉玉は歩きだした。

「俺っちのコーチは今日はマトモだったさ!」

 天化の、どこがフォローなのかよくわからない言葉も届かない。
 「あきらめろ」。先程の道徳の声が、オートリバースで頭に響いた。
 そもそも用もなくてすぐに帰ったくせに、何でこのタイミングで来たのかがわからない。
 本人たちにしてみても、全く意味はないのだろうが。しかしこの身を襲った不幸を考えると、
 あまりに理不尽だ。

 

 

 



 クリスマス…。舞い落ちる雪の中、だんだん見えなくなる蝉玉の背中。

「蝉玉…」

 呟く瞳は、絶望に滲んでいる。
 新しい雪に消されていく彼女の足跡を見下ろし、天化は仙界にはクリスマスがないこと、
 崑崙では今日が忘年会だったこと、太乙の酒癖が悪いこと、師が太乙と仲が良いこと、
 蝉玉の気があまり長くないこと、そして何よりも自分の運の無さを心から呪った。

「どうしたんだ、蝉玉殿は?」

 温かくも痛い、父の声。
 亡き妻の肖像を前に、シャンパンを二本のグラスに注ぐ。
 一本は肖像の賈氏に、もう一本は自分に。

「お前も飲むか?」
「貰うさ…」

 グラスを棚から取り出し、差し出す。

「賈氏、今年は三人で祝おう。いいだろ?」

 シャンパンを口にしても黙りこくったままの天化だったが、飛虎に頭を叩くように撫でられる。

 少々痛いその手の温もりに、幾分か救われた気がした。

 




FIN

 

 

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あとがき

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい(日本人らしく頭を下げまくる)。
こんなものを再録していただけるなんて、恐怖の大王よりも恐れ多いです。
あまりの出来の悪さに書き直そうかとも思いましたが、きりがないのでやめました。
ヘボすぎてごめんなさい。
最後まで投げ出さないばかりか、あまつさえ後書きまで読んで下さっているそこのあなた、神様です。
伝説です。レベル赤い彗星くらいいってます(?)。
草子さんなんてもう、宇宙そのものです。
ホームページが目に見えて腐食しだしたら、さっさと撤廃して下さい。マジで…。
本当にありがとうございました。




草子の感想

つはらさんのサイトで、4444という非常に縁起のいいカウンタをゲットして
ほとんど無理矢理頼み込んで頂いてきちゃいました。ホントに、無理矢理。
だってこれ、大好き――――――(笑)
私はこの太乙と道徳と、そして憐れな天化に惚れました。
「今日はマトモだったさ!」って・・・アンタ一体何を言ってるのさ・・・(笑)
文章の全部に笑えます。じっくりと、こう胃の腑をえぐるような笑い。
なのにほのぼの?(笑)
最後のトコロのオヤジもいい味だしてます。
もうどう感想書いていいのかわからないほど、私はつはらさんの書く文章に惚れてます。
まじでスゴイです。
この微妙な空気と味わい・・・・
他の小説も、全部さらってきたいぐらい(ヤメロ)大好きです。
今回は本当にずうずうしいお願いをしてしまいました。
「これ、うちにも再録させて下さい―――!!!」なんて頼む女、他にいないよな・・・
つはらさん、本当に本当にありがとうございました。
感謝してもしきれません。
そしてごめんなさい。

コレ・・・続くんです(笑)
なんと続編を頂いちゃいました。

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