クリスマスでGO!(偽)
クリスマス。それは家族のうんたらかんたら。
団欒の明かりの灯る朝歌の中心、禁城も今夜は和やかな空気に包まれていた。
大陸の冬の寒さすら中和されていく。
「紂王さま、プレゼントよん」
甘いキスと共に贈られた小箱が微かに音を立てる。
「ありがとう、妲己。余からも―――いや、君には後で渡そう」
「楽しみにしてるわん」
静かな酔いに誘われるまま、愛妻の細い腰を引き寄せもう一度口付けた。
紂王は椅子の下に忍ばせた袋から数個包みを出し、各々に手渡す。日頃の感謝を込めて。
「ありがとうございます」
嬉々としてラッピングを除く貴人は、無邪気な少女の顔だった。
盛り上がる三姉妹と王を余所に、片隅で一人憮然とグラスを傾ける男がいた。
一同に向ける険しい視線が、アルコールに濁ることはない。
「聞仲、さっきから何をしておる」
「一緒に呑まないのん?」
「私は…」
「来い」
命令は口調だけで、態度は和やかな紂王。
「はい」
「プレゼントを受け取ってくれ」
「――わざわざすみません」
聞仲は照れ隠しに、大股で君主の元へ踏み出……
爆音がした。
天井を突き破り、何か巨大なものが降ってきた。
「あらん…」
見覚えがある。敵である、崑崙の幹部の二人だった。
「すみま…うわあっ」
道徳の謝罪を遮断し、多少はアルコールが回っている聞仲は反射的に禁鞭を振り回していた。
墜落でダメージを受けた黄巾力士のヒットポイントを更に下げ、
防御し損ねた道徳と太乙をまともに床に弾く。
そそくさと立ち去ろうと黄巾力士に戻ろうとする道徳だったが、
太乙は天化と蝉玉のデートを妨害してもまだ懲りずに泥酔していた。
「何すんだてめェッ」
キレっぱなしの彼は、汚い言葉を発し瞬時にバズーカ型の宝貝を肩にセットする。
「喜媚怖いっ☆」
「やめろ太乙、オレたちがいけないんだ!」
道徳は必死で酔っ払いを止めた。
「放せどーとくっ、コイツはなぁ、僕の、この、よりによって顔を傷つけたんだ!」
「お前は楊ゼンか!」
失礼な話だ。
「すみません、すぐ撤退します! ごめんなさい!」
太乙を抱きかかえ押さえつけながら、コメツキバッタのように頭を下げる道徳。
そろりと黄巾力士に足をかけたが、紂王の呑気な言葉がその動作を制止させた。
「余の城が壊れちゃったな…」
「っ、修理します、はい!」
道徳はどこからか大工道具を取り出した。
「今だ〜、攻げ…」
「太乙っ!」
再度攻勢に出る太乙を食いとめる。
「君は先に帰れ!」
そもそも制止を振りほどいて黄巾力士の操縦管を奪い、
見事な飲酒運転で方向を間違えてここに突っ込んだのは太乙だ。
先に帰すためとはいえ、また操縦などをさせたら今度はどこに飛ぶかわかったものではないが、
それでも妲己と聞仲が揃ったこの部屋よりも危険な場所はそうないだろう。
「ええ〜、やだぁ――」
「ガキか!」
いや、悪質な酔っ払いだ。
「待ってよん、道徳ちゃん、太乙ちゃん」
「妲己…」
「そんな恐い顔しちゃいやん。聞仲ちゃんもよん」
意味有りげに微笑む。
「折角来たんだから、呑んでいってもいいじゃない?」
「おお、それはいい!」
紂王が妲己の案に乗った。
「よく見るとこの天井の穴も、なかなかに趣があるではないか。ほら、先程まで止んでいた雪がまた降ってきた」
「綺麗だわん」
「だけど…」
道徳と聞仲の警戒が、紂王にうっとりと寄りかかる妲己に向けられている。
「イヤなのん?」
祝宴の夜に似つかわしくない緊張に場が固まる。
しかしそれを砕く少女の黄色い声。
「きゃー、太乙さますごーい!」
「もう一杯行きっ☆」
太乙は、貴人と喜媚を相手にさっさと呑み始めていた。
「太乙っ、それ以上呑むな!」
真っ先にそちらに混ざったのは、蒼白な道徳だった。
「わらわも入れて〜」
「余もー」
聞仲は一人取り残された。
「道徳さまも呑みっ☆」
「いや、私は…」
「今宵は無礼講よん。一時休戦ねん」
喜媚が道徳に強引にグラスを持たせ、高い酒をなみなみと注いだ。
甘い香りがぷんと鼻をくすぐる。
「じゃ、少しだけ…」
道徳、陥落。
次のターゲットは、もちろん聞仲だ。
彼はあまりの狂宴具合に半ば呆れ、すっかり凝り固まっていた。
「聞仲も来い!」
「………」
無言の彼に、視線が集まる。
おもむろに立ち上がり、グラスを掴んだまま聞仲に歩み寄ったのは太乙だった。
イカれた目は不敵に無気味に輝いている。
興味しんしんで固唾を飲み様子を見守るその他。
聞仲の険しい不審など痒くもない。
すたすたと目の前まで行き、色素の薄い髪に手を伸ばし後ろに引いた。
背伸びし、聞仲の首をぐきっと鳴るほど上を向かせ、身長差を無理に埋めて唇を奪った。
聞仲の喉に、濃度の高いアルコールが流れ込む。
「太乙ちゃんカッコイイ〜!」
一同の野次が飛ぶ。
太乙が顔を離し、ニヤニヤと品無く観察を始めてしばらく、聞仲は早足で妲己たちに近寄った。
そして性急に言った。
「グラスを寄越せ」
陥落。
「よっしゃあ!」
太乙が叫んだ。
「太乙さまサイコー!!」
「よくやった。特別にこれを呑ませてやる!」
紂王は幻の銘酒の栓を抜き、太乙に振る舞った。
「ずる〜い、わらわも」
喧騒の上に、雪が舞い落ちては溶けていく。
「ねぇん、野球拳やらない?」
「僕やるー」
「喜媚もっ☆」
最早クリスマスとかそんな名目はどうでもよかった。
乗り捨てられた黄巾力士が唯一の哀愁だった。
翌日、黄巾力士が砂漠に落ちていた。
二日酔いに耐えながら、太乙と道徳は四方に広がる地平線を呆然と眺めた。
「どこだろうね…」
「タクラマカン砂漠あたりだといいな…」
崑崙のすぐ側だ。
少なくとも鳥取砂丘ではないだろう。
飲酒運転はやはりよくない。
いつどうやって禁城を出たのかも記憶になかったが、
昨夜ハイテンションで黄巾力士の操縦管を握った感触が道徳にはある。
とりあえず再び黄巾力士を駆って町か人を探すことになった。
数十分後、砂漠の正体が判明する。親切なキャラバンによって。
あとがき
紂王の一人称って「予」だっけ? それとも「朕」? まあいっかー(よくねえ)。
ええと、紂妲はただの夫婦だし、太乙に関してもカップリングとかいうつもりは全くありません。
今回は。ラストも別に色っぽいことではないので、期待しないで下さい(しねーよ)。
カウンターリクは件の再録のみでしたが、それではあんまりなので続編を書いてみたわけですが、
書かない方がマシでしたね。
ひたすら恐縮です。返品歓迎しちゃいます。ノリの悪いギャグもどきですみません。
こんなものでいいとは思えませんが、できればいぢめないで下さい…。では。
ぴいえす。はじめて紂王書きました(死)。
草子の感想
あああ・・・やっぱり素晴らしいです(T-T)
ツボを羅列するとキリがないんでそれはやめときますが(だって全部ツボだし)
酔っ払いな太乙と苦労性な道徳が素敵すぎます・・・。
コメツキバッタ・・・・
能天気な殷側の皆様も、もお素敵です。
このノリを生み出せるツハラさんに、私は感銘をうけまくってます。
ラストとかさ、もう良すぎ。
そもそも、こんな展開普通思いつかないしなあ。
スゴイよなあ・・・・
笑えるよなあ・・・・
ツハラさんのセンスにもうメロメロです。
またキリ番狙おう・・・・(本気)
どうもありがとうございました!
私、こんな幸せで良いのでしょうかっ?(笑)
ツハラさんのサイトへ行ってみる
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