(その一から続き)
午後8時。
店員の一部が舞台に上がり、三線の調弦やマイク設営にかかります。
ショータイムの始まりです。
ステージの花形は、マスターの娘さん。
去年高校を卒業したばかりで、島唄の師匠がつくった曲「島ゆずい親ゆずい」や
さまざまな島唄をレパートリーに、毎週末この店でのステージをこなしています。しばらくしてマスターもステージに上がり、ウチナーンチュと思しき常連客のリクエストを次々とこなしてゆきます。
興に乗ってきたオジチャンがステージに上がってあやしげなタコ踊りを始め、マスターの娘さんに席まで連れ戻されるのも、まぁ御愛敬です。
しばらくして、ショーメンバーのリーダーが、ある女性客に声をかけます。
「××先生、それじゃあお願いします」
琉球舞踊の先生だというその女性、ステージに上がると小道具と思われるたすきを手にし、ショーのメンバーが奏でる調べに合わせて舞い始めます。琉球王朝の宮廷舞踊の伝統を受け継ぐ優雅な舞いです。
島唄のステージでは囃子やティーフィー(指笛)があがっていた客席が、口も箸も止めて舞台に見入っています。先程のタコ踊りのオジチャンも、神妙な面持ちです。
舞い終えた‘先生’、どこにでもいる愛想の良いオバチャンに戻って照れながら客席に一礼。当然、客席からは拍手喝采の嵐です。
更に何曲かこなした後、リズミカルな曲が始まり、常連客がステージに引っ張り上げられます。沖縄の宴会にはつきもののカチャーシー(乱舞)です。
三線と太鼓のリズムにのせて、それぞれが思い思いに腕や手を動かします。最前列に座っていた外注さんや後輩は先に舞い始めた見ず知らずの常連客に腕を引かれます。ここで「何やねん!」と突っぱねるのは無粋というもの。立ち上がって暫しカチャーシーの輪に加わるのが、礼儀といえば礼儀でしょうか。席に戻る前に座っている客に声をかけて自分の身代わりにカチャーシーに引き込めば更に良し。
タコ踊りのオジチャンが出番とばかりに踊りだしますが、悲しいかな、タコ踊りのままです。そこはそれ、隣で踊っている‘先生’はさすが‘先生’、身振り・手つき全てにメリハリがあります。
ナイチャー(「内地(本土)の人」、やや蔑称)の私はどう踊ってもなかなかサマにならないのですが、「カッコ悪いから止めんかい」「ナイチャーのくせに」などと誰がとがめる訳でもなし、「ノリで踊るのがカチャーシーだ」と開き直って踊ります。比較されにくいようにと、せめて‘先生’とのニアミスは避けようとするのですが、狭いステージの中では無駄な努力です。
カチャーシーが終わって、ステージ第一部は終了。この間、約1時間。カチャーシーを踊り終えて席に戻る客、ずっと座っていた客、どちらも満足げです。
(その三へつづく)