今回は、メキシコ原産のムシトリスミレ類(Pinguicula)を紹介します。
ムシトリスミレの仲間は、食虫植物について(1)で紹介したウサギゴケと同じタヌキモ科の仲間で、南極とオセアニアを除く全ての大陸に70〜80種が分布しています。
栽培の都合から大きく分けると、(1)日本やヨーロッパのような温帯の高山や、サハリン・アラスカ北部のような冷帯・寒帯に生える温帯高地性(または寒地性)のグループ(2)アメリカ南東部の平野の湿地に自生するグループ(3)中南米の高山に生えるグループの3つに分けられます。これから紹介するものは、3番目のグループに相当するものです。
※
ちゃんとした植物学的分類は、こちらのピングィクラ分類表をどうぞ。
・P.agnata......メキシコ北東部の乾燥した高原地帯の原産です。
花弁が5枚に分かれた直径2cmくらいの花を次々と咲かせます。この写真の花は花弁の先が淡いスミレ色に染まっていますが、完全に白い花が咲く株もあります。
・P.ehlersae......P.esserianaとよく似ていますが、葉がやや赤味を帯び、花弁が丸みを帯びて色が濃いのが特徴です。
ふくよかな花の姿から、マニアの間でしばしば「お多福」と呼ばれています。
・P.emarginata......メキシコ東部のやや低地寄りに分布しています。
株の割に花は小さく、日本での栽培例では大半の花が直径1cm以内ですが、花弁に走る筋が美しく、栽培がわりと簡単なので、マニアの間ではよく普及しています。
・P.esseriana.....メキシコ北部のサバンナ地帯が原産。
主に冬から春にかけて直径約2cmの桜色の花を咲かせます。このグループでは最も栽培が簡単で、花も可愛らしく咲かせやすいため、初心者にはうってつけです。
・P.immaculata......P.esserianaと同様に、メキシコ北部のサバンナの谷あいに自生しています。1992年に新種として発表されたばかりの、ウルトラ級の珍種です。
ムシトリスミレ類では最も小さい植物で、土に半ば埋もれた株の直径は5〜10mm、花の大きさは1cmしかありません。
・P.jaumavensis......故郷はP.esserianaと同じです。
外見も似ていますが、上の二枚の花弁がV字型に開かず、ほぼ並行になります。P.esserianaよりも花の色が淡いというのがマニアの間で言われていますが、私が入手したこの株の花は色が濃いのです。花の面構えは本物なのですが・・・
・P.moranensis......メキシコ中部・南西部の原産です。
このグループで最も古くから栽培されてきた品種で、幾つかの園芸品種が主にヨーロッパで作出されています。
株の直径は10〜15cmとかなり大型になります。花の大きさは3〜4cm、鮮やかな紅色、桃色、白色などのバリエーションがあります。
・P.‘Sethos’......P.ehlersaeとP.moranensisの交配種で、葉は前者に似てややコンパクトにおさまり、花は後者の形に似て濃い紅花、中心に鮮やかな白いスポットが入ります。栽培や繁殖が容易なため一時はマニアの間では軽んじられてきましたが、メリハリのある花の配色が山野草愛好家に評価され、再び注目を集めています。
これらの育て方は、メキシコ産ムシトリスミレ類の育てかたを御覧ください。