2.風向風速計について

2.1 風向風速計センサについて

風圧によってプロペラ等を回転させ、その回転速度から風速を求める方式の風速計を「回転型風速計」と呼ぶ。代表的なものには、「風杯型風速計(以下風杯型)」と「風車型風向風速計(以下風車型)」がある。
この2種類の風速計の違いは風速と同時に風向も観測できるか否かという点である。風車型は風向も同時に観測できるが、風杯型は風速のみしか観測できない。よって、風杯型は別に風向計の設置が必要になるが、全く同じ場所に風向計を設置するのは物理的に不可能である。このため、風の乱れが強いときは、風の風向と風速を同時に観測しているとは言い難い。
風車型は風向も同時に観測できるが、プロペラが風上に向かないと風速に対応した回転速度にならないので、風向の乱れが強いときは、風速の観測値が実際より小さくなる。ところが風杯型は風向とは無関係に風速を測定しているため、このような風向の変化の影響はほとんどない。
本研究の対象となっている80型と95型で使用されている風速計は、どちらも風車型である。

2.1.1 風速部動作原理

風速測定の原理は80型、95型ともに基本的に同じである。
これらの風向風速計の風速感部には、4枚の羽根のついたプロペラが使用されている。また、このプロペラの軸はベアリングによって支えられ、胴部に取り付けられている。このようにすることによって軸周りの摩擦を軽減している。
プロペラは風を受け、トルクが発生して回転する。この回転は、プロペラに発生しているトルクと、回転の2乗に比例して働く抵抗が釣り合うときに定常の回転速度となる。この定常の回転速度ω(rad/sec)は風速V(m/sec)の一意的な関数ω=F(V)になる。しかし、実際の風には変動があり、トルクと空気抵抗が釣り合う事はほとんどない。なぜならばプロペラには慣性モーメントがあるため、その回転が風速の変化に瞬時に追従するのは不可能であるからである。
このような風速計の追従の特性を表すために距離定数という定数が用いられる。距離定数というのは一定の風速の風が吹いているところに風速計を置き、プロペラが停止した状態から定常の回転速度の63%に達するまでに必要な大気の動いた距離のことである。風速計の時定数は風速によって変わるが、時定数に風速をかけたものに相当するこの距離定数は風速によって変わらない。
また、加速時と減速時ではプロペラにかかるトルクが違う。一般に加速時の方が加速するためのトルクが大きく、減速時の減速するためのトルクは小さい。このために風速計の風速の指示値は実際の風速より小さく示されるよりことよりも、大きく示されるときの方が多い(図2.1参照)。
プロペラが完全に停止しているときには回転軸の静止摩擦力があり、風によって発生するトルクがそれを超えて初めてプロペラが回転し始める。このプロペラを回転させるために必要な最小の風速を風速計の起動風速という。しかしプロペラは風上に向かないと回転しないので、起動風速や風速に対する追従性は風向に対する追従の特性によっても影響する。
プロペラの回転速度の測定は、軸に取り付けられたスリットの付いた回転円盤とこれを挟むフォトインタラプタによって行われる(図2.2参照)。フォトインタラプタは回転円盤にあるスリットの通過を光学的に読みとり、電気パルス信号に変換する素子と考えて良い。この信号はケーブルを経てデータ変換部に出力され、そこでパルス数から非線形の式によって風速値に変換される。この非線形の式は先ほどの関数F(V)の逆関数である。但し、電気信号はパルスで出力されるため一秒あたりに出力されるパルス数、すなわち周波数f(Hz)を角速度に変換する必要がある。回転円盤上のスリットの数をNとすると

ω=F(V)=2πf / N となるので、
V=F−1(2πf / N) これが風速を求めるための式である。

図2.1 真の風速と風速計の指示値の関係

図2.2 風速センサの構造

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