トンデモ度(★★★★☆)

社会正義の実現については考えが及ばないようです。
被害者は泣き寝入りしろというのでしょうか。


『社説:視点05・こんなはずでは… 少年法厳罰化 論説委員・三木賢治』
平成17年12月17日付毎日新聞社説


◇「間違い稽古」でタフに育てるのが先

 01年施行の改正少年法の効果は、残念ながら統計上は認められない。刑事処分を可能とする逆送の下限年齢が16歳から14歳に引き下げられたが、該当して逆送された少年は4年間に3人だけ。しかも2人は再び地裁から家裁に戻されて、少年院に収容された。

 神戸市の小学生連続殺傷事件を機に凶悪犯罪の低年齢化が社会問題化したための改正だったが、少年事件対策は衝撃の大きさに惑わされてはならない、との定説を裏付けるような結果だ。16歳以上で被害者を死に至らせた場合は原則として逆送することにもされたが、事件件数は増えたのに逆送率はむしろ微減している。

 家裁調査官はじめ少年事件の専門家たちが、少年の可塑性を重んじて保護処分による更生や健全育成に力を入れている影響を考慮すべきとしても、厳罰化だけでは少年の凶悪事件は防げないということだ。政府はさらに厳罰化を進める同法改正案をまとめ、来年の国会での成立を目指しているが、再考すべきは言うまでもない。

 法改正の動きとは無関係に、今年も少年による衝撃的な事件が相次いだ。東京・板橋の両親殺害、東京・町田の女子高生殺し、静岡のタリウム事件など高校生の犯行も際立った。いずれも親子間、友人間の円満な関係が築けないための惨劇だが、犯行に至る発想が短絡的で、思い込んだらちゅうちょせず、次善の策も負うべき責任の重さも考えず、まっしぐらに凶行に及んでいることに驚く。

 成人だが京都府宇治市で女児を惨殺した塾講師も同様だ。なぜか、トラブルや危機を回避する知恵や努力を欠いている。板橋の事件の少年の場合は、父親につらく当たられたのなら家出するという選択もあったはずだ。町田の少年のケースは、被害者とは相性が良くないと心得て、別の女性に目を転じれば新しい道が開けただろう。

 挫折や失敗にくじけぬタフな子どもを育てれば、少年事件の多くは防げるのではないか。最近は親も教師も失敗を恐れ、子どもに成功ばかり求めすぎだ。つまずきにも効用があると説かないから、子どもは発想の柔軟性を失い、一度犯意を抱くと後戻りができない。

 歌舞伎には「間違い稽古(げいこ)」があるそうだ。せりふや所作を間違えてもあわてないように、あえて間違えてびほう策を稽古する。プロ野球でも強いチームは「間違い稽古」を重ね、選手に果敢なプレーを促すという。この際、学校教育にも導入すべき考え方でないか。本を読まないせいで、子どもたちには疑似体験さえ少ないことを踏まえ、教師たちは思い切って自身の失恋や親子のいさかいの話も打ち明けよう。最近の子はマニュアルに強いから、多数の事例を示せば発想を広げられるに違いない。

 報復感情が入り交じった厳罰化よりも先に、大人たちがなすべきことはまだまだ多い。


(解説)

論説委員・三木賢治氏はこんな社説も書いています。
   ↓  ↓  ↓
『視点・成田空港問題 国は有終の美目指せ』 毎日新聞社説 平成17年6月9日

 根本的な話をすると、刑罰は何のために存在しているのでしょうか。法治国家においては仇討ちは許されません。社会正義の実現のため、国家が被害者に代わり犯罪者を逮捕し、裁判という手続きを得て刑罰を科すのです。
 社会正義の実現をないがしろにしていいわけがありません。現在の少年法は非情に甘いです。殺人を犯しても、せいぜい少年院で3年間過ごせば大手をふって社会復帰できます。しかも少年院は更正を主目標としているため、厳しい労働が科されるわけではありません。
 悪いたとえをすれば、ひとひとりの死が、わずか3年間の合宿生活で綺麗さっぱりぬぐい取られてしまうのです。あまりに人の死を軽く扱っているようにしてなりません。このような自然な感情が、厳罰化の流れなのです。


 厳罰化だけでは少年の凶悪事件は防げないということだ。

 厳罰化は社会正義の実現が主目標です。凶悪事件を防げなければ、罰則を科してはいけなのですようか。殺人は重い罪ですが、殺人は無くなりません。だからといって、殺人罪を廃止しようという人はいないと思います。
 論理のすり替えというより、悪質な偽善だと思います。こう主張するなら、「刑法があっても犯罪を防げないので、刑法を廃止すべきだ」と主張すべきだと思います。


 挫折や失敗にくじけぬタフな子どもを育てれば、少年事件の多くは防げるのではないか。

 この文章以降はまったくの妄想です。本来ならば発達心理学等の専門家の議論に任せるべきでしょう。
 北欧の国々の事例や各種研究結果によると、子供時代に必要な愛情を受けられず、またはルールを守るという秩序感覚を獲得できなかった子供が犯罪に走る可能性が高いようです。
 犯罪者捜査のためにアメリカで発達したプロファイリングという手法があります。そこでも正常な親子関係が作れない人が犯罪に走る傾向が見て取れます。
 「家出すればいい」とか「他の女性に目を向ければ」とか小手先のテクニックの問題ではありません。そういう事が思い浮かばない、もしくはできないから犯罪に走るのです。
 想像をふくらませても、正しい結論は導けないと思います。素直に研究結果を受け入れるべきだと思います。