2000.2.12(土)日刊スポーツ新聞より抜粋

重賞2勝馬・エガオヲミセテ焼死
宮城・社台ファームのトレセン火災22頭が犠牲

 中央競馬の現役サラブレット22頭が焼死する痛ましい火事が11日未明、起こった。場所は宮城県山元町にある「社台レースホース山元トレーニングセンター」で、厩舎5棟のうち1棟が全焼した。死亡した馬の中には昨年のマイラーズC(G2)・一昨年の阪神牝馬特別(G2)などを勝ったエガオヲミセテ(牝6、栗東:音無)が含まれていた。出火当時厩舎内には火の気がなく、警察と消防が原因を調べている。

8頭は逃げ出す
 山元トレセンで火災が起こったのは11日午前2時頃。3棟並んでいる厩舎のうち、真ん中の厩舎の飼料庫付近から出火したと見られる。消防車4台が駆けつけた時にはすでに手に負えない状況で、左右の厩舎へ延焼を防ぐため放水するのがやっとだった。
 牧場従業員は危険を顧みず、厩舎内の馬を外に出そうと試みた。出火棟には30頭が在厩しており、総出で外に面した扉のカギをひとつひとつ開け、馬を引っ張り出した。だが火の回りは早く、8頭は助け出されたものの、逃げ遅れた22頭は猛火に飲み込まれてしまった。助かった8頭のうちの1頭のハナランマン(牝6)は猛火が迫る中、後ろ脚で扉を蹴破り、自力で脱出した。この事実に関係者は「蹴ったくらいでは絶対に壊れない。考えられない」と生命力の強さに驚嘆していた。犠牲になった馬の中には、マイルG2を2勝しているエガオヲミセテも含まれていた。将来見込める生涯獲得賞金や繁殖牝馬としての価値を推定すると、被害総額は20億円は下らないものと見られる。

出火原因は不明
 焼け跡に立ちつくしたある従業員は「頭が空っぽの状態。今は何も話せません」と目を潤ませた。また「こんなに長い1日はありません。しばらくは涙が止まらなかった。夢であってほしい」と声を詰まらせる従業員もいた。
 同トレセンは日本最大の競走馬生産牧場「社台グループ」(北海道千歳市)が経営している。競走馬が休養する施設で、社台グループの主要施設だった。11日は5厩舎に167頭が在厩しており、6日の共同通信杯4歳Sを勝ったばかりのイーグルカフェや、ローゼンカバリーやロサードやミッドナイトベットなどの重賞勝ち馬は別棟にいたため難を逃れた。従業員に被害はなかった。

音無師ショック
 重賞2勝をあげ、エース的存在だったエガオヲミセテを失った音無厩舎は大きなショックを受けていた。朝8時ごろ一報を受けたという音無秀幸(45)調教師は「今はショックとしか言いようがない。初めて放牧に出したのに残念だ。今は向こうも混乱しているし土日の競馬もあるので、一息ついてから現地に行って見る」と悲しみの表情で語っていた。

強運アドマイヤベガは無事/全弟アドマイヤボス、エアデールも難逃れる。
 強運だ、ダービー馬アドマイヤベガ。菊花賞で6着に敗れた後、昨年の11月21日に山元トレセンへ放牧に出されていたダービー馬アドマイヤベガ(牡5、橋田)は、消息が心配されていたが、福島県いわき市の競走馬総合研究所常磐支所にある温泉で静養していたことがわかった。橋田調教師はこの日「実は山元トレセンにはいなくて、いわきの温泉にいるんだ」とホッとした表情を見せていた。また、まだ未出走だが、山元トレセンで放牧中のベガの全弟アドマイヤボス(牡4)やフサイチエアデール(牝5、松田国)も他の厩舎にいて難を逃れた。

◆死亡が確認された競走馬◆(ご冥福を祈ります)
スターシャンデリア(牡5、秋  山)12戦3勝
パラダイスラグーン(牡5、大久保洋)4戦1勝
ヘイミスルル   (牝5、河  野)5戦1勝
アリーズギフト  (牝4、河  野)未 出 走
キスオンサンデー (牝4、後  藤)1戦0勝
ラハイナルナ   (牝5、清 水 出)13戦2勝
クライングウイナー(牡6、白  井)21戦2勝
フサイチグランプリ(牡4、高  市)2戦0勝
カンデラリア   (牝4、高 橋 裕)未 出 走
ホワイトホープ  (牡6、高 橋 裕)14戦3勝
スタジアムブルー (牝5、松 田 国)6戦2勝
シマノブラントン (牡4、松 元 茂)4戦0勝
フラッシュレッド (牡5、佐 藤 全)10戦1勝
テンダーパッション(牝4、 森  )未 出 走
マジックマックス (牡6、吉 永 忍)16戦1勝
ラモースブレイド (牝4、国  枝)2戦0勝
オールスパイス  (牡4、加 藤 修)未 出 走
アサーションの97  (牝4)
ライブハウスの97  (牝4)
エバープロスパーの97(牝4)
モーリストンベルの97(牡4)

エガオヲミセテ  (牝6、栗東:音無)
1995年5月27日に北海道早来町のノーザンファームで生まれた。父はサンデーサイレンス、母はカーリーエンジェル(母の父ジャッジアンジェルーチ)。馬主は小田切有一氏。3歳時デビュー。これまで98年の阪神牝馬特別(G2)と99年のマイラーズC(G2)で重賞制覇しているほか、G1の秋華賞で4着、エリサベス女王杯で3着に。現役の牝馬では5本の指に入る存在。通算成績は19戦4勝、生涯収得賞金は2億円3210万円。父がサンデーサイレンスのうえ祖母にオークス馬ダイナカール、おばに天皇賞馬エアグルーヴを持つ超良血馬だけに、繁殖牝馬としての勝ちも大きかった。ある牧場関係は「(繁殖牝馬の勝ちは)3000万円はくだらないだろう」と話している。ユニークで愛らしいネーミングからファンが多かった。

 

 


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