台湾からの現地レポート
2006.1.1更新 2006.1.1作成
本取材は正しい表現ではない部分もあるかもしれませんが、ご了承の上参考として下さい。
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写真・文;ハレ・ダイスケ
台湾の少数民族は大きく分類しても19種族あり、口琴はここで取り上げるルブゥだけではないとは思うが、北部周辺の状況を簡単にレポートします。
まず、台湾口琴を語る上で欠かせない泰雅族(Atayal、タイヤ族またはタイヤル族と読む)について。
泰雅族は台湾北部山岳地帯に居住し、全人口は9-10万人、男は狩、女は織物が得意で血の色(赤)の衣服を好み、代表的な楽器は口琴。
口琴について何か古い資料や話が聞けるかもしれないと思い、泰雅族の郷長の自宅を訪ねた。彼は2005年現在76歳、高砂族の男性では最長老である。
高砂族は泰雅族に含まれる一族で、その昔、大東和戦争が終結したときに生蛮(せいばん)と呼ばれていた現高砂民族が泰雅族に含まれるようになったとのこと。
「生蛮(せいばん)」とは、人の首を狩ったり、動物の内臓も「生」で食していたことに由来してそう呼ばれていた。
約120年ほど前までは、首狩のほか、紋面(顔面への入墨)を入れていた(現在、紋面のある人はみんな死んでしまって写真でしか見られない)。
紋面は、まず生まれると3-5歳で額に墨を入れる。成人になると、男は顔を縦断するように、女は頬を斜めに墨を入れる(結婚するには紋面が必要)。
また、紋面がないと森で誰かにばったり出会ったときに、反対に首を狩られてしまう。男は、狩った首の数だけ耳に装飾をつけたという。
口琴の話はほとんど聞けなかった。郷長は激動の時代を政治等で駆け回っており(中国・台湾の著名な政治家・軍人の蒋介石にも三回会ったという)、現在ようやく落ち着いている感じだ。
民族について、戦時中のことについて大変貴重な話をいただいたが、口琴については何か所か行くべきところをご教授いただいたがすでに訪問した場所であった。
泰雅族は、北海道アイヌの文化に興味を抱いており、また雪の国ということで北海道が好きという人が多かった。生活様式、模様、竹口琴と共通点が多いためだろうか(踊りについては泰雅族の方がエネルギッシュだ)。会話をした多くの人は、日本に友好的で、東京というよりは北海道好きのようだった。
「口簧琴」の表記で「ルブゥ」と呼ぶのが正式かと思うが(順益台湾原住民博物館)、現在となっては「ハーモニカ」で通じる。また博物館においては「マウスオルガン(烏来泰雅民族博物館)」との表記も見られる。
單片竹臺口簧琴・・・・・全て竹で作られたもので、竹(ルゥマ)口琴(ルブゥ)とも言われる。金属弁口琴の代替として用いられる。
單簧竹臺青銅片口簧琴・・・・・本体は竹だが弁は真鍮。弁の数は1つだけの最もシンプルなタイプ。一つ作るのに一日かかるらしい。
雙簧竹臺青銅片口簧琴・・・・・弁の数は2つ。
三簧竹臺青銅片口簧琴・・・・・弁の数は3つ。
四簧竹臺青銅片口簧琴・・・・・弁の数は4つ。
五簧竹臺青銅片口簧琴 ・・・・・弁の数は5つ。一つ作るのに一週間必要。
順益台湾原住民博物館では、口簧琴は娯楽用具であり、竹・籐・金属・麻線繊維から製作されると説明があった。
上記のように、竹の本体なのに弁には金属を用いること、さらに音程の異なる複数の弁を持つことが世界的にみても珍しい仕様だ。弁は8弁タイプのものまであるらしい。
通訳を協力してくれた蒋阿治さんによると、100年位前は、この真鍮弁は鉄砲の弾丸を材料にしていた。
また、年寄は子供に伝授し、男も女も性別に区別無くルブゥを楽しんだ。求愛にも使われ、男が口琴を吹きながら踊り、女が気に入ったら互いに片足を引っ掛けたまま回りながら踊る「口琴踊り」が実在する。さらに、口琴を吹きながら求愛の言葉を話す「口琴言葉」も実在した。
ムックリに挑戦する台湾のお母さん (↓)
このように熱烈な口琴民族だったが、残念なことに今日では観光ショーまたは博物館のショーケース越しでしか見られないほど衰退が進んでいる。
泰雅族の村として知られる烏来に出向いてみたが、数年前とは違い、現在は全ての店を訪ね歩いてもまったく買うことはできない。たった一軒だけ、最後のひとつだよと言われて差し出された口琴は全て竹で作られたもので、しかも本体である竹に完全にひびが入っているものだった(一万円)。
台湾における物価は日本に比べ若干だが安く過ごし易いが、口琴となると話は別だ。上等な工芸品・文化遺産として位置づけられており、入手も困難になっている。民族系博物館でしか見れないような状況であった。
また、もし運良く入手できる場面に遭遇しても、口琴の値段は、弁が一つ増えるに従い約4000円づつ高くなっていくため、購入に際しては思い切りが必要だ。
しかも、台湾と日本では湿度が違うため、台湾では鳴る口琴でも日本で竹が微妙に変形し鳴らなくなることがある。だがそれでも、多弁ルブゥのルックスや存在感は口琴愛好家にはなんとも魅力的ではないだろうか?
今回は、台湾の口簧琴老師である鄭氏がわざわざ来てくれた。彼は高砂族の酋長の息子で、ルブゥの製作方法・演奏技法を伝授されている数少ない一人である。
早速演奏を聞かせてもらった。特に5弁タイプの演奏は素晴らしかった。竹の丸い表面に沿って付けられた5つの弁が次々と美しく響いている。どの弁を鳴らすかは、持ち手である左手を回転させて、演奏したい弁を正面に位置させる方法だ。
台北に行ったら順益台湾原住民博物館は必見だ。場所は、世界四大博物館として有名な故宮博物院から徒歩2〜3分のところにあるから簡単に行ける。
私設の博物館らしいのだが、設備的にも展示内容も非常に立派で、台湾原住民のことならここでなんでもわかる。
楽器のコーナーでは当然ルブゥがいくつか展示されているし、ボタンを押して演奏の音も聴ける。また、売店ではルブゥに関わる資料、ハガキなどを入手できるし、原住民のCDが充実している。
観光客でごったがえす故宮博物院に比べ、ここはゆっくり見ることができるし、口琴がある。
★順益台湾原住民博物 ホームページ★
(1)本体に比べて紐が長いが、これは手にぐるぐる巻きつけるため。 右手の紐は短く(赤いマーカーのあたり)持つこと。
(2)左手は親指と人差し指で本体をしっかり持つ。右手は短めに持たないと鳴らない。
(3)多弁の口琴の場合、左手首を回し振動させたい弁を口元に位置させる。上記ムービー参照。口琴の中でもかなり体力を使う口琴です。がんばろう。
以上