アーイーっていう女の子が、いったいぜんたいどういうニンゲンなんだか、誰にもわかっていなかった。
ひとことで表すと彼女は変(ヘン)だ。天才とナンとかは紙一重っていうやつだ。
テストは満点、スポーツ万能、おまけに学校一の美人だってことに誰の異論もないのに、言い寄る者はおろか近寄る者さえいない。
この春、彼女は転校生として現れた。何せ一学年一クラスしかない、谷あいの村のちっぽけな学校だ。入学から最上級になった今年までクラスの顔ぶれが変化したことはなく、僕らはその革命的な出来事に色めきたち、胸躍らせた、はずだった。
けれど、彼女は『ヘン』だった。てんで別の意味の革命が起きてしまって、誰もが関わるのはまっぴらごめんと目を背けた。どれくらいヘンかって話はまた後で説明しよう───ともかく、学校が始まってもう一ヶ月経つのに、アーイーはいつもクラスの輪からはるか離れたところにおり、僕だけがおまえクラス委員だろってなもんで、他のクラス全員分まとめて彼女とのコミュニケーションを担当していたんだ。
担任のロクシオ先生は、だから僕にそのやっかいごとを押しつけたとみえる。