風間作品紹介(ちうか読書感想文)

 ※本当は刊行順に読むつもりだったが、あいにく手に入らなかった本やら取り寄せ中の本やらが
 有るので、取りあえず『片道切符』の解説の一覧表の順番を書いておく…
 (『男たちは北へ』→『地図のない街』→『漂泊者』→『されど卑しき道を』→『片雲流れて』→
  『今夜も木枯らし』→『海鳴りに訊け』→『片道切符』→『今夜も月は血の色』
  やっとの事でコンプリート!ばんざーいっ!! 

                      )

                   ◇男たちは北へ◇
 深志荘の住人の一人で、アル中のグラフィックデザイナー・桐沢風太郎は、自転車で東京から青森
へと向かっていた。
 最低限の荷物だけを持ち、北へと向かう彼の横を通り過ぎて行った小型トラックの荷台から落ちた
段ボール箱。その中から落ちたB6版の印刷物を彼が一冊失敬した事によって、彼の知らない所で
大きな存在が動き始める。
 彼が持ち去った印刷物ー文字と数字が羅列された、一見訳の分からない代物−は、実は自衛隊内部
で問題視されていた人物が計画し、暗号化された重要機密文章だったのである。
 途中、ヒッチハイクで同じく青森へと向かう少年等と出会いながら、自分を追って来るモノの存在
を知らずに北へ北へとペダルを踏む桐沢と、彼から機密文章を奪還しようとする自衛隊との駆け引き
が描かれている。


  
                   ◇地図のない街◇
 二人連れのチンピラに冬のボーナスを取り上げられた事が発端でドロップアウトしてしまった
北岡吾郎(通称ゴロさん)が主人公(‥‥やんな)。
 いつしか日雇い労働者が集まる山谷に流れ着いて酒浸りの毎日を送っている内に、今ではすっかり
アル中になっている。
 そんな彼が同じく山谷に居り、連続行き倒れ事件を追っているライターの初島(通称ピンさん)に
断酒を共にする事を持ちかけられ、それに応じた事がこの作品の大筋になる。
 山谷に住む日雇い労働者が冬でも無いのに連続して行き倒れると言う不可思議な事件を追いつつ、
同時に北岡と初島、そして木沢完(通称キリさん。名前が完だからキリ…ピンさんとセット(笑))
のアル中三人組で挑む断酒作戦の行方がこの作品の二本柱である。 ん〜何と言うか、この作品は
『酒って恐い』を教えてくれる物なのかもしれない(爆)
 アル中三人組が断酒に挑むのは良いが、その過程の苦しみが尋常じゃ無い程しっかりと書かれていて、
酒好きが読むと背筋が寒くなってしまう可能性高し。それでも呑むから駄目なのだ〜。
 しかし禁断症状の辛さは想像出来ないな…人間あそこに行き着く迄酒にハマっちゃいけない。
 酒呑んでる時の三人の楽しそうな様子と、禁断症状が出た時の様子との落差が何とも言えなかった。
 健康第一!!酒は呑む物呑まれるな!!
 …それはそれでと…。
 もう一方の柱である連続行き倒れ事件が何故起こりるのかがかなり後になる迄分からなかった為、
結構その辺りの推理が楽しめた。
 勿論ネタバレになるので書かないが、説明されると「あ〜ナルホド」と思わせる物が有る。
私としては、ラスト(エピローグ)ではっとする程真っ赤な夕焼けを頭に思い浮かべられた事がとても
印象深かった。



                 ◇漂泊者(ながれもの)◇
 二十七歳の時、八百長試合を拒否した為にオーナー兼トレーナーに嵌められ、試合に負けたのが
原因となってオーナーを殴り殺し、現在は時効成立を待ちながらも私立探偵と言う職業に就いている
元プロボクサーの室井辰彦が主人公。
 とある街の教会が計画した養護施設建設に反対する市民運動に関わる調査を依頼された彼は、調査を
進めて行く過程で、それがただの市民運動では無く背後に何者かの意図が潜んでいる事を察知し、更に
調査をして行くのだが…。
 自身も認めている『悪徳私立探偵』が時効成立を待つ途中で出会った人物と十二年振りに再会し、
自分達の立場もあって共に不可解な市民運動の正体を追求する。 一番最初に読んだ風間作品。
 故にインパクト大であった。
 市民運動の裏に隠された真意を読み取って行くミステリ的な側面の面白さも勿論、無愛想で出来てい
る様な悪徳私立探偵(人物紹介にも書いたが、依頼者が依頼した物の調査内容によっては強請りたかり
迄やるらしい…)室井が、十二年前に出会った人物と再会した事によって意外とも言える面を見せる所
も読み所だろう。
 それに関して冒頭で語られる出来事は、室井とその人物が再会してようやく結実し、時折語られ、
あるいは回想されるエピソードによって更に重さを持つ。
 互いを認め合いながらも、しっかりと自分の考えによって線引きをする事も怠っていない彼らの強さ
はぐっと惹き付けられる物が有った。
 あ、どうして『その人物』とぼやかしているかと言うと(って、すぐに分かる気もするが)実際に
読んで欲しいからサ(爆)
 ハードボイルドが好きな人にはオススメ!



                ◇片雲(ちぎれぐも)流れて◇
 『男たちは北へ』に登場したヒッチハイク少年は最後迄名前が出る事は無かったが、それから五年
と言う月日が経ったこの作品で、加賀貴志と言う二十歳のしっかりとした青年として再登場する。
 彼の友人である柳田の幼馴染み、千昌の兄が轢き逃げをして逮捕された。
 千昌の兄は警官でありながら、老人をワゴン車で撥ねてそのまま逃走後自首、現在は刑務所の中。
 しかし、犯行前に彼が千昌に電話を掛けていた事から、轢き逃げをする事自体が難しい事に気付いた
千昌は柳田に相談を持ちかけ、その友人である加賀と共に調査を開始するのだが、調べて行く内に加賀
が三人の男に襲われる。
 空手の心得が有るものの、実戦経験の無い加賀が窮地に立たされた時、彼を助けたのは雲海と言う
謎の雲水だった。
 雲海は加賀や柳田から一連の事のあらましを聞き、彼らと共にその真相を突き止めようとするのだが、
徐々に現れて来たそれは全く別の事件をも浮き上がらせて来て…。
 『漂泊者』がミステリなら、こちらはサスペンスタッチ(火サスとかでやりそう(爆))。
 何故千昌の兄は自身には到底実行不可能だった轢き逃げの罪を被ったのか。
 同時に、何故彼はそうしなければならなかったのか。
 当初は純粋に彼の無罪を信じて調査を進めて行ったにも関わらず、流れは彼らの想像を越えたもっと
大きなモノへと向かって収束されて行く。
 やると決めた事をやり通そうとする『男たちは北へ』の時と変わらない加賀の強い精神力や、酒も肉
も平気で食し、少林拳にも通じている謎の生臭坊主(笑)雲海のキャラクターが良い味を出していて、
キャラの個性が強いと言う風間作品の特徴をこの作品も踏襲しており、要所要所で収められている格闘
戦の鮮やかさも特筆すべきだろう。



                    ◇海鳴りに訊け◇
 『漂泊者』から一年余り。
 時効成立迄残り一ヶ月を切り、国外で密かにその時を待って居た室井は、沖縄に居る友人が重態だと
言う伝聞を耳にし、時効成立を前にして帰国を決意する。
 己の身の危険を承知で帰国した室井は沖縄に行き、そこで吹き荒れる原発建設問題に巻き込まれる
羽目に。
 『海鳴り』と言う名の機帆船(200トン前後迄のエンジン付き小型帆船の意)内でのやり取りや
沖縄・瀬良垣ビーチでの激しい格闘戦が緻密に描かれている大作。 悪徳私立探偵再び(笑)
 今度は南の島で室井大暴れでございます。
 『漂泊者』の時は無愛想さ爆発だった彼も、この作品では色々と有った様でして、内心で愚痴やら何
やら言いまくってて私的には可愛いなぁと思ってみたり。
 台風の余波に見舞われた海上で、原発問題を取り上げた海賊放送に精を出す『海鳴り』に乗り込んだ
人々の根性には脱帽。
 しかし、人が吹っ飛ぶ位の波ってどんなモンなんだろう。
 大型フェリーに乗って大西洋出た位で船酔いする私にゃ考えたくない部類の物だ。
 かなりキている連中との瀬良垣ビーチ戦は読んでてドキドキハラハラ、幾ら室井が強いっつっても
今回ばかりはヤバそうだ〜と思ったけども、『相棒』が居たから大丈夫でした(笑)
  ハードアクションが好きな人なら楽しく読めるでしょう。



                     ◇片道切符◇
 池袋の街外れ、かつては精密機器の研究所として使われていたコンクリ打ちっぱなしの殺風景な
『箱』を塒にしている殺し屋の烏堂は、突如命を狙われる様になる。
 一体誰が自分を殺そうとしているのか、そして、その目的は何なのか。
 当初は身に覚えの無い急な出来事としてそれを捉えていた烏堂は、やがて自分の塒が原因である事に
突き当たる。
 何の価値も無さそうな『箱』に隠されている秘密は一体…。(『冥土の土産』)
 烏堂の一人称で構成された短編が連作として四話収録されている。
 可哀想なくらい度重なる不幸に見舞われる殺し屋烏堂。
 運が有るのかどうかも疑わしいが(爆)何とか生きてるって感じが逆に良い。
 まあ、協力してるのがあの室井だから取りあえずは大丈夫なんだろうが(どういう意味だ自分よ)
女運も無かったりするのかなぁ。
 それに、彼の友人の東山サンを始め、周辺に居る人々が変わった感じの人ばかりなんで(オイ)読み
進めて行く上でも飽きないで良かったです。
 『地図のない街』も一人称だったけれども、それをやる人が違うだけでこんなに全体の印象が変わる
物かとしみじみと思った。
 私的には『にっこりウィンク』発言で大笑いさせて貰った『地獄の沙汰も』がイチオシ。



ついでに人物紹介も読んでみる


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