「ヒイロ、好き。大好き」
一言一言に想いを込めて。にこにこと話しつづけ追いかける。
「好き。大好き。愛してる。好き」
延々ついて回ってヒイロの自室にまでたどりついた。
中まで入ってきそうな様子のデュオを警戒してか、無言で前を進んでいた背中がようやく振り返る。いつも通りの無表情…ではなく、眉間に皺がよっているから結構不機嫌になっているのかもしれない。
「いいかげんにしろ」
デュオは何故か朝からこの調子で、いいかげん他の隊員のひやかすような視線も鬱陶しくなってきていた。
「ヒイロ、好きだよ」
懲りる様子もなく、デュオが続ける。
「…何が目的だ」
「なんにも。ただ思ったことを口に出してるだけだしね」
「…………」
「信じてくれない?好きだってば」
本日何度目かの、けれど先ほどまでとは異なる調子のため息がヒイロの口からこぼれた。
「…………本気か?」
瞳と瞳を合わせる。嘘を許さない強さで。
「もちろん」
しっかりと視線を合わせたまま、艶すら感じさせるような綺麗な笑顔を浮かべてみせた。
「…………後悔するなよ」
囁きは、唇を塞がれるのとほぼ同時。
鳥の鳴き声で、目を覚ました。
霞む視界、掠れた声、ちょっと今まで経験のない猛烈なだるさと身体の痛み。
一気に甦る昨夜の記憶。
「信じられんね――――…」
「だから後悔するなと言っただろうが」
「だからっていきなりフルコースいくもんか?ふつーはもうちっと手順踏むもんじゃないのか、おれが間違ってるのか?!」
腕の中でうーうー唸りだしたデュオに苦笑をもらし、少しだけ抱きしめる力を強める。
「…あの状況で何もない方がおかしいだろうが」
ほんの少し後ろめたくもあるわけだが、そこの辺は棚に上げてしまうことにする。
「ところで、昨日のあの奇怪な行動はなんだったんだ?」
「奇怪ってお前…ひでえなぁ、アイの告白ってやつだろーに…」
「朝8時から夜9時までぶっとおしで言い続ければ充分奇怪だ」
断言されてしまい、流石にデュオも口をつぐむ。
なるほど確かによく考えれば不気味な行動かも……。
「1回言えば充分だと思うが?」
「んー、まあ1回じゃどうせ信じないだろ?それに…ちょっと、ね」
そう言ってデュオは意味ありげにいたずらっぽく笑った。
不審気に見つめてくるヒイロの胸に頬をこすりつけて、次の言葉を封じる。
「それよりさ、こんな状況なのにまだ聞いてないんだけど。ヒイロさん、お返事は?」
「…………」
「遊んだとか言ったら殺すぞ」
「馬鹿が。俺はそんなに暇人じゃない」
「じゃ、言って」
「…………」
よっぽど言いたくないらしい。
促すようにクセのない、少し堅い髪を軽くひっぱる。
「ズルイぞ、おればっか」
「―――――…好きだ」
とても小さな声で、とても不本意そうだったけれど確かに紡がれたひとつの言葉。
耳に届いた瞬間、デュオは幸せそうに微笑んでヒイロの首にかじりついた。
「ね、言った通りだったでしょう?」
モニターの画面ごしにまろやかな微笑が広がる。
「ヒイロが君にぞっこんだってことぐらい見てたらすぐわかるもの。自信さえつけさせちゃえば行動に踏み切ることくらいカンタンに予測できちゃったよ」
「『何度も好きって言えばきっと落ちるよ』とは聞いたけどさー。一気にあんなことまでされるとは予想外だぞ」
「いいじゃない、それくらい愛されてるってことなんだから。それに、嫌じゃなかったんでしょ?」
瞬間的に真っ赤になったデュオについ笑ってしまい、にらみつけられる。
「今回のことで晴れて恋人同士だね、おめでとう。でも多分ヒイロがつけあがってるからね、今度は…」
「うんうん」
自称・他称『デュオの親友』。
非常にデュオと仲が良く、それゆえヒイロへ多少の恨みをもち。
腹いせに少しヒイロで遊んでやろうと企んでいる自分の恋人の影のオブザーバーの存在を、まだヒイロは知らない。
end.
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