「……冷た…」
ベッドから乗り出し窓から手を伸ばして、すぐ傍の枝についた白い固まりを触る。
眠りにつく前はたしかにいつも通りだったのに、目覚めてみれば世界は純白に染まっていた。
今年最初の雪。
デュオにとっては、生まれて初めて見る本物の雪でもある。
空気中の埃を核に水分が固まった、とかそういう風に考えるとかなり汚いものである筈なのに不思議とそんなことは気にならない。
指の熱で溶けていく雪はそれでもやっぱり真っ白なままで、きらきらと光っていた。
「……………」
デュオはうむむと唸った。
この降雪量については事前から報道されていたし、かなり積もるだろうと言われていたから結構楽しみにしていたのだ。
雪景色の中しっかり遊ぶ気でいて、昨夜はそのために降り始める前からベッドに入った。
今現在進行形で降りつづける雪はとても綺麗だし、積もった雪が作り出すふわふわの絨毯は結構な遊び甲斐がある。凄く楽しそうだ。
―――ただ。
「寒い…」
やたら気温が低いことを除けば、の話だろう。
太陽が顔を覗かせれば少しは違うんだろうけれど、今まだ雪が降っているくらいだから当分それは望めそうにもない。
鍛えた体だし、別に寒いくらいどうってことない。
でも今は話がちょっと違う。
目覚めたての今、布団に残る自分の体温が生んだ温もりの心地よさは抗い難い誘惑だった。
「うーーん…」
「閉めろ」
悩むデュオの横から、静かに声がかかった。
ハタと気付いてデュオが振り向く。
それから初めて自分以外の人間の存在に気付いたように、わたわたと開けっぱなしの窓を閉めた。
室内に吹き込んでいた、冷たい風が止んだ。
「ごめん、ヒイロ…起こした?」
「いや…」
目覚めたてというわりには落ち付いた気配に、どうやらしばらく前から目は覚めてそうだと推測する。
「………」
何か思うように、しばらくデュオはヒイロの顔を見つめた。
少しいつもと違うその表情に、ヒイロが瞳を細める。
デュオが目を閉じて、何か思うように楽しそうに微笑んだ。
「……雪で遊ぶんじゃなかったのか?」
そのまま躊躇いもなく、再びもそもそと布団にもぐりこんできたデュオを腕の中に抱きとめながら、静かな声がかかった。
「んー…いや、それはまあ…」
居心地のいい場所を探しつつごそごそと身動く。
ヒイロがくすぐったそうに身を震わせた。
「自分の中でちょっと優先順位をつけてみようと思ってね」
差し出された温かい腕の中、デュオはにっこり笑ってみせた。
end.
|