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《強く》


 




心地好い風の吹く木の下で金咤は鳥と遊んでいた。突然鳥が飛び立ち、代わりにナタクが飛んできた。
「おい、俺と勝負しろ」
「は?」
急に言われ、思わずおかしな声を出してしまった。
「いくぞ」
「え?わ?ちょ!!」
いきなりの攻撃に、それでもなんとか応戦した。
「ナタク?どうしたんだ。急に」
容赦なき攻撃を受けながらも喋れるのは、やはり実力があるからである。
「うるさい。黙れ」
「そういってもなぁ」
頭をポリポリかきながら、ナタクの相手をする。


こうしていきなりの攻撃から始まった戦いのような修行は、2時間ほど続いた。結果は金咤の勝ちである。ナタクは、少し息を切らしながらへばった。
「もう、いいかい?」
「・・・・」
「さて、理由を聞かせて貰おうかな。なんでいきなり襲ってきたんだ?」
「・・・・」
「?ナタク?」
「・・・んで」
「え?」
「なんで・・・・」
「何?」
「なんで勝てない・・・・」
「・・・・」
「俺は・・・」
もっと強くならなければいけないのに。心の中でそう言った。声に出してしまえば、きっと否定される。今のままで充分強い、と。そう言われるのは分かっていた。だが、俺のどこが強い?何故そう言い切れる?人間ではないから?宝貝人間だから?心がないから?迷いなど何も無いとでも言うのか?
「ナタク?」
「・・・・」
「どうした?お兄ちゃんに言ってみろ」
―チャキ
ナタクは無言で腕を金咤の前に突き出した。
「わ!わわ!!うそ、うそだ。本気にするな」
「二度と言うな」
「・・・冗談はさておき、どうした?何があった?」
「・・・なんでも無い」
「嘘つけ、その顔がなんでもない顔か?」
ナタクは下を向き、一切金咤を見ようとしない。
「どうした?・・・なんか俺さっきからこればっかりだな」
「・・・俺は・・・」
「うん?」
「強く・・・もっと・・・」
「・・・」
「・・・もっと強くならないと」
「ナタク・・・」
「おい、お前はどうして・・・ここにいる?」
「どうしてって、そりゃあ、手伝う為さ」
「なんで手伝う?」
「手伝いたいから」
「どうして」
「それが俺の為にも皆の為にも良いことだから」
「・・・どうしてそう言い切れる」
「え?」
「どうしてそれが正しいと言い切れる?何が正しいかなんて分からないのに」
「ナタク・・・」
「何がいけないことで何が良いことなのか俺にはわからない」
「そんなの・・・俺にもわからねぇよ」
「・・・じゃあ」
「だけど、だけどもし、この戦いで一人でも多くの笑顔が守れるのなら・・・俺はそれが正しいことだと信じる」
「・・・」
「ナタク、お前はもっと強くならなければならないと思うのは何故だ?」
「強くなくてはいけないから」
「何故いけない?弱くても良いじゃないか」
「それじゃあ駄目なんだ!!」
「なんで?」
「それじゃあ・・・俺は必要無い」
「なんで必要無い?」
「強くもないのに居ても邪魔になるだけだから」
「何故邪魔だと言い切る。何故自分は必要とされていることに気がつかない。分からないか?戦力としてではなく、ナタク、お前が必要なんだ」
その言葉にキッと目を向ける。そこには優しい目の金咤の顔があった。
「そんなこと言っても俺には何も出来ないんだ!」
「良いじゃないか。何も出来なくとも。そんなことは誰も気にしないし。それにお前には帰りを待つ者もいるんだし」
帰りを待つ者―母親―殷氏。自分を好いてくれる。自分を息子だと言ってくれる。
「もう・・・いい!!」
飛ぼとうとしたナタクの腕を、金咤は力強く掴んだ。まだ言っていないことがある。
「待て!!」
「放せ!!」
「いや、まだ言っていないことがある」
「なんだ!!」
「ナタク」
「早く言え!!」
「お前は大切なものをなくしたことはあるか?」
「?」
「なくして気付いた特にはもう遅すぎて・・・何も言えないで何も伝えることが出来なかったことがあるか?」
「?おい?」
「木咤は、師匠をなくした。尊敬していた。まだたくさん教わることはあったのに。それを学ぶことはもう出来ないんだ」
「何が言いたい」
「ナタク」
金咤は、腕を掴む力を強め、すっと目を細めて言う。何かを思い出すように。
「後悔したくなければ、まず自分を必要としてくれている者に、何かしてやれ。なんでも良い。後でもう出来ないと後悔するのではなく、今、恥ずかしくても何らかの形で感謝の意を示せ。これだけは覚えておいてくれ」
「・・・フン」
ナタクは、そう言って腕を振り解くと、空高く舞い上がり、こちらを向き、一礼してから去った。ナタクのその行動にしばし呆然としていた金咤だが、なんだか嬉しいやら可笑しいやらで、笑い出してしまった。このことは一生忘れないでおこうと心に誓った。

 

 

 





―了―

 





作者の遠吠え

ごめんなさい。朱音様のリクエストで李兄弟と言うことだったのですが、遅くなったうえになんだこりゃの出来です。ごめんなさい。朱音様、申し訳ありません。草子様、こんなの送ってしまってごめんなさいです。これを読んでくださいました皆様、ありがとうございました。そして、おかしなものでごめんなさい。反省しております。



草子の感想

木咤兄ちゃんのお話を私は初めて読みました。天化天祥の兄弟を描いたものはたくさん見かけますけど
この兄弟は本当に初めて。
なんだこりゃの出来、とか作者様はおっしゃってますが、とんでもないです! 私はこのお話すごく好きです。
彌羅さんに頂いたものの中でも一番好きかも。
兄から弟へ教えたいこと、伝えたいこと。もったいぶってなくって、飾ってもなくって、大仰な真実みたいなことを言ってるわけでもない。だからこそこの木咤兄ちゃん、本当にお兄ちゃんで、私は大好き。
「これだけは憶えておいてくれ」のくだり、とてもいいです。すごくいいです。終り方もとっても好き。
全体に余計なところがまったくない、直球がすぱーんと入ってくるお話。こういうのいいですよねー!
すっきりしてて、しっかり芯が通ってる感じ。
彌羅さん、ありがとうございました!



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