―ただ、ひとつ―
 

 

 

 

 

 

 



最初に会ったとき一目で解かった
彼は歴史が決めた『勝者』であることを
私は彼に殺されることを

それは誰にも変えることの出来ない『事実』

私がどんなに強い宝貝を作ったとしても
完璧な策と立てたとしても
勝利の女神は私に微笑むことはありえない








初めて彼を見たのは朝歌、禁城の正門だった
彼はまだ半人前で策なんて単純そのもの。
本気を出すまでもなくあっという間に私の前に屈した

でも私は彼を殺せなかった
私は虎を野に開け放した



本当は殺したかった
しかしそれは無理な事

私は与えられた役目を遂行することしかできないのだから・・・

 

 

 



「姉さまどうしたリ?」
ふいに喜媚が訊ねてきた
「あらん喜媚。なぁに?」
「最近の姉さまはいつも考え事ばかりでつまんないリ。
 もっと楽しい事して遊ぼうよ〜」
「そうですわ姉様」
貴人も会話に入ってきた。
「どうして太公望達を放っとくのですか!?
 あんな害虫ども姉様なら簡単に片付けられるでしょうに」
「まぁまぁふたりともおちついてぇん☆」
私は二人を窘めた
「だってすぐ殺しちゃったらつまんないじゃない。
 もっともっと楽しくするにはまだ時間がかかるのよん。
 あせりは禁物よん」
「さっすが姉さま考えてるぅ〜」
「しかし姉様それでは納得できません!」
「貴人」
私はキッと睨み付けた
「わらわの言うことが聞けないの?」
「い、いえ決してそのようなことは・・・」
「な〜んてね。冗談よ。とにかくすべてはわらわにお・ま・か・せ・よん☆」






――義妹たちは知らない

私たちに与えられた『役割』を




知らない方が幸せだから

辛い思いは私が全部受け止めてあげるから――




    でも・・・もう・・・―――

 

 

 




「妲己・・・?」
彼の表情は完全に固まっていた。
「はぁ〜い太公望ちゃん。おひさしぶり☆」
ここは周軍の宿営地・太公望の部屋だ。
私は転移用宝貝を使い彼の前に現れた。
「なぜ・・・お主が・・・」
「ふふふっ。だってわらわは謎の女だもの」
「一体何をしに来た」
「話し合いよん☆」
「黙れ!今更お主と話すことなど何も無い」
彼は打神鞭を構えきっぱりと言い切った。
「あらん。他のみんなには『話し合おう』とか言ってるのに?」
「ふざけるな!この計画はお主を倒すためのものだ!
 わしはお主を倒すためだけ・・・それだけのためにここまで来たのだ
 ・・・絶対に許すものか!」

 

 


強い瞳
何度挫けようとも決して色あせることのない瞳
未来を信じるものだけが持ち得るもの
歴史の『勝者』だけが持ち得るもの 
私には絶対に持ち得ぬもの


私は殷を滅ぼすために現れて
新しい時代に殺される・・・歴史が定めた『敗者』

すでに殷は崩壊したのと同じ
新しい王朝を迎える準備はこれでほぼ終わった


だから・・・私の存在する理由も・・・

   

   




「・・・なら死んであげようか?」

私はそう言うと身にまとっていた全ての宝貝・服を脱ぎ捨て、
太公望の足元へ投げつけた。
「なっ・・・!」
宝貝を身につけていなければ人間と大差なくなる。
この状態で打神鞭をまともにくらったらおそらく無事ではないだろう。
私はそんな無防備の姿のまま彼の方へ歩み寄った。
彼は全く動かず私を見つめていた
「貴方が私の死を望むなら死んであげる。だから私の望みも聞いてちょうだい」
「ど、どうせ無理難題であろう。聞くだけ無駄じゃ」

「わらわはね、貴方の『心』が欲しいの」

「こころ・・・?」

彼はそう呟くと
「そうか。わしを懐柔して内部崩壊させる気か!」
「はっ!。誘惑されるしまうような人間に興味はないわ」
私は言い捨てた。

「愛・・友情・・悲しみ・・そして憎しみ・・・
 私はその全てが欲しいの。私のためだけに想って欲しいの」


私はそう言うと彼にそっとくちづけた
強すぎて言葉にできない想いを彼に伝えるために

 



私をおぼえていて欲しいの
『妲己』という悪女ではなく


歴史に躍らされた『私』という存在を





どれくらい時間が経ったのだろう
急に強い力で後ろに飛ばされた。

「太公望・・・?」
「・・・・だ」
「嫌だ 嫌だ 嫌だ 嫌だ・・・・嫌だー!!!」

そう吼えると彼は打神鞭を振り下ろした
「お主は謀略家だ。そんな話嘘に決まっている。騙されるものか・・・
 わしはお主を信じない・・・どんなことがあっても・・・信じない。絶対に」



そう・・・やっぱり駄目なの


私は所詮『悪役』なのね

 

 



「そう。残念だわん☆」
私は宝貝等を手元に取り戻した。
「もう後悔したってだめよん。わらわはもっと太公望ちゃんを苦しめてあげるわん☆
 ふふふ。覚悟なさいん☆」

そう言って私は太公望の前から消えた









貴方がが私に『心』をくれないのなら
その心を憎しみだけにすればいい
そしたら私だけを想ってくれる



だから・・・『審判』が下るその日まで

私は彼を苦しめてあげる。

 

   

   










草子の感想

妲己ちゃん妲己ちゃん妲己ちゃん妲己ちゃん・・・(エンドレス)
こんな泣きたくなるような妲己ちゃん、はじめてです(T-T)
痛くて胸が苦しくて、全てわかってて投げやりに微笑んでいる妲己ちゃん。
投げやりに・・・じゃなくって・・・ああ、もうなんというか(泣)
最後の「そう、駄目だわん」が・・・・(涙)
あとね、妹達への「私が全部受けとめてあげる・・・」が(涙)
彼女の気持ちを知っているのは、世界中で彼女一人だけなのですね。
それを抱えたまま、行くんですね。やっぱり綺麗に微笑んで。
妲己ちゃんの求めるモノがとても哀しいです。
ただ「私」を見てってところ。哀しいです・・・・うう。
この太公望も、なんだか痛いです。
自分の気持ちがわからなくって、わめいてる。

とかって、これは私なりの解釈です。思い込みです。
安夢さん、意図してたのと全然違ってもお許しを。もう夢見てるんで。私(?)

ああ・・・妲己ちゃん妲己ちゃん妲己ちゃん妲己ちゃん・・・・(泣)
せつないです・・・泣けます・・・・妲己ちゃああああああああん・・・・
安夢さん、さらにさらに私を妲己ちゃんにはめてくれてありがとうございます!
素敵すぎ。この小説。

ちなみに、題名(ただ、ひとつ)は私が勝手につけちゃいました。
ごめんなさい。題名つけるの苦手なのに・・・・
意味不明ですな。センスないですな。
本当にすいません。

   

 

 

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