寂しさ×2+雨の日=レインコート
(寂しい僕らは偽りで雨を凌ぐ)
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無感覚なヒトたちの魂の安売り。新しいスタイルでの苦い慰め。
朽ちて変わり果てる日まで。
壊されず存続を。ひたすらに望むのです。
シュガーレス・レインコート
→シノミヤ アヤ
月も見えない。
僕は慣れた仕草で錠剤を口に放り込み、紅茶で一気に飲み下した。あなたはつまらなさそうに眺めて言う。
「なんだ、それは」
「くすりです」
僅かに歪んだ微笑を浮かべて僕は呟いた。独り言のようにも聞こえたかも知れない。
僕の向いの席で両肘を突いたまま目の前のカップには触れもせず、あなたは敢えてそれ以上は尋ねなかった。逸らかす僕の声が全てを語ってしまったからだろう。
取り敢えず、「そんな事は解っておる」と苛立ちを紡ぐだけ紡いだ。
どうでもいい科白に、「そうですね」と僕。どうでもいい笑顔で応えた。
薄暗い部屋の明かりが象徴する、現と夢の境界を走る部屋で。
窓の外に視覚的なものを投げ掛けるけれど、それより先に聴覚的なものが掴まえた。
「雨・・・・・」
現実で、どしゃ降りの音が在った。
同じ言葉を口にして、けれどただそれだけで。それは哀しみであるはずはないが、愉しみにも届かない。プツリと途切れて、短い。
少し寂しくもあるあなたと僕と、隠れた太陽。
僕らはは別々に、暫く無風状態でお空のカーミング・ソングを聴いた。(別に癒しなど期待していないけどね)
ざあざあ。空の嘆きは鼓動さえもシャボン玉に閉じ込めてしまう。
ざあざあ。生の感覚と死の予感をぐっと引き寄せる。
ざあざあ。
「・・・いります?」
今し方、思い付いたように差し出した僕の掌では先刻の錠剤が3粒戯れていた。
僕の身体に入っていったのと同じ数。穢れた掌で戯れていた。
“さあ、お次は誰だ?その身体、蝕んであげる”
寄生と増殖、繰り返す。
けれどそれならヒトも同じでしょう?縋り付いて侵食する。その罪を誰かに擦り付ける分、余程に質が悪く。
「罪なんて無いんです。多分無いんですよ、そんなもの、最初から、ね」
促す僕の声はそういうヒトのものだった。
「かなしいやつだ」
あなたは僕の代わりに泣いてあげようか、と考え、躊躇い、結局やめた。そんな風に僕の瞳には映った。
“なぜそんなことを?彼は今は自分を引きずり込もうとしているけれど、明日はまた別のヒトを探すんだ。
彼は誰でもいいんだ、その寂しさを掻き消してくれるなら悪魔でも”
軽蔑の中の軽蔑。
「ほんとに、かなしいやつ」
あなたは言葉を重ねた。自分もまた、少し哀しかったからでしょう?
手―――何故か今日は裸だった―――を伸ばすこともなく、付け足すように「いらぬ」と返した。
すると、僕、それらも食べた。眩暈がした。
「・・・・少し後悔しましたか?」
「いや」
素っ気無く、引き金を引く。波紋を打って、隅々まで沈黙が拡がる。
闇色の中へ幾つかの言葉を捨てた。
○○○
「砂糖」
サイレント・ムービーの終り。すっかり冷めてしまった紅茶を一口含んでから催促の声を飛ばしたあなたに、僕はただ首を傾げるばかり。
「7杯は入れましたよ、それ・・・・」
「足りぬわ」
「あ、でも今、切らしてて・・・」
「ならおぬしが飲め」
「・・・・飲めませんよ、そんな甘いの」
「捨てろ」
尽く弾き返された。音も立てないのだから尚、性質(たち)が悪い。
「なら捨ててしまえ」
しかもとどめを刺すのを忘れない。あなたの掴み所のない残酷な仕打ちに、僕は知らず天を仰いだ。――――もちろん神様は不在の天、其れを。
けれど無性に、我が侭な後輩(だってこのひと、僕の半分も生きてない)が憎らしく思えてきて、僕は「そいつ」のカップを引っ手繰る勢いで口に運んだ。少し零れたのは気にしないことにした。敏感な味覚が眼を醒ますよりはやく流し込む。
「・・・・・・あま・・」
それでも後から込み上げてくる。思わず口許を手で覆う。はっきり言ってしまおう。「吐き気がした」。
ドロドロとした粒子の辱めを受けている、とでも言うのだろう。そう、きっとそうだ。カフェインのチカラに救いを見出したりなんてしてしまった。
外で無駄に垂れ流されるものをこれ以上無いほど体内に滑らせて、そして洗い流してしまいたい。それで、生命(いのち)の息吹で乾かしたりしてさ・・・・・
なんとなく・・・汚れてしまった。
体を軽くした陶製の2つはぽっかりと口を天井に向けて開いて、何処をどう見ても空っぽだった。
おかしなことに僕も何だか空っぽだった。どうしてだろう?
あなたは笑うでもなく、怒るでもなく。傍にいる愚かさを嘲笑うでもなく。
「なんか話せ」
ただ、ファシストを胸に標す、遠回しな優越を突き付けてくるだけ。
雨の響きの中を、あなたのヤイバが渡る。音に紛れて静かに横切る。
―――――その先は?
「のう。わしはその為にここにおるのであろう?」
「・・・そうですね」
「他の皆、都合わるいから」
「あなたしかいないから呼びました」
「すっごく失礼だのう」
「失礼しました」
お辞儀をひとつ。
とことんつまらない、ゴミバコ行きの理由でもって、苛酷な現実に目を凝らす。
そんな事態に到ってしまうほど、ヒトは減りました。たくさん死にました。
モノクロームのベルが鳴る。
寂しい、というキモチは何の分け隔ても鳴く、すべてのヒトの心の上で目を覚ました。それ以来、ずっと寝返りを打ち続けている。
追い出したくても、とても平衡感覚に優れているらしく、なかなか落っこちてくれない。背中を押せば押し返されて、墜ちるのはいつも安堵の心。
傷付いてる自分を発見けるに終わる。
「あのですね、僕、・・・・疲れちゃったんですよ、もう」
机の上に置いた、自身の指の上を、右から左、左から右と目線に往復させながら、僕は何百年分かの疲弊を語った。
「知り合い、たくさんいっちゃいましたし」
それはあなたも同じなのにね。
悲愴で塗り潰された瞳は、時間を遠くへ運んでいく膨大な滴の群を向く。
硝子の向こう側。雨の降る景色、そのさらに外にいるのだろう。戻らないものたちは。
「だから?」
あなたは僕を視界から追い出したまま、追求する。
空中でふらふらしている、思いつめた僕の脳裡に居着いてしまった灰色の顔した住人の名前ならあなたにはすぐに解っただろう。(そうでしょう?)そう考えると、焦げる静かが僕の内で眉間に皺を寄せる。
「死にたい」
解っていた。
「じゃあ、死ね」
解っていた。
解って言った。あなたは。
首筋を掠める小さな囁き。唇にさよならを言って、もう「おかえり」もタブーに変える。
届くべき相手を目指して、振り返らずに飛んでいく。
羽が、きれい。
だけど、その腕にはぎらぎら光る殺しの道具を抱いていること・・・・
記憶を下る。既視感がある。
この酷さを自分はよく知っていた。忘れたことがなかった。
「・・・ひどいひとですね」
そして、こわいひと。
どうして今まで気付かなかった?
(まっすぐ見たこともなかったから)
泣き出しそうな声、部屋を涙の色に染める。
怜悧な空間を生んでるあなたがいる。
僕は静かに項垂れる。声が今ちょっと休息が欲しいって・・・言ってるから。僕は何も言わない。(あなたは水槽でも覗き込んでいて。ほら、窓の外に拡がってる・・・・・)
(僕は)
その気ならば。
ひとり、勝手に誰も知らない処で息絶えてしまうのはとても簡単なことだから。
――――こんな風に。誰かに伝えたりなんかしてしまうのは、間違ってる。
「死んじゃだめ」って言葉が欲しいの、「生きたい」って言っているの・・・バレてる。
時々壊れそうになってしまうから、揺らいでしまうから。記号化された「たすけて」を送ってしまう。
「わるいやつめ」
あなたは言った。僕に言った。真実を言った。
・・・・言いました。
ひどいひととわるいやつはお互いの顔を仔細に見つめて、屈折率を計算した。
ひどいひとは計算は速いし要領もいい、わるいやつは計算は速いけど要領を得ない。
だから手を差し出すのが同時だったのは、きっとひどいひとの謀の結果なのだろう。
テーブルの上でそれらは交渉を持った。
孤独な心と、罪への憧れ。何より支配欲の化身としてのそれらが交わる瞬間になにかが失われる。そうと知りながら、孤児(みなしご)たちは硝子の城を築く。その頭上には黒い冠を戴いて。
棺の中の手と同じ、冷たい手。・・・・こんなところまで?
「・・・だったら裁いて下さいよ」
「救って下さい、の間違いであろう。それは」
「いいえ」
「ならば神にでも頼め」
―――――そんなもの、いない。
いないから。
一回りは小さいあなたの手を覆うことで満足しているわけじゃない。楽園の端から端までを貪り尽くさねば満たされるはずもないのがひとつの真理になってる。
それがイキモノの本能。
「・・・それは救いなら与える、ということですか?」
「まさか」
「・・・・じゃあ、結局何なんですか?」
「それはこっちの科白だ、ばかもの」
無意識に空の歌声を遥かに聴きながら、僕は深い意識の森に迷い込んだのだろう。その場所でめぐり逢ったそのひとは、とてもひどいひとだった。
掴み難き不可解さの暴君で、そんな彼の世界にはただひとりしか住めない。―――――彼の分身だけだ。昔の彼を壊して、今の彼をつくりあげたひと。それが誰かなんて僕の知ったことではないし、知りたくもない。
ただ本当にどうでもよかったのだ。誰でもよかったのだ。
「・・・寂しいですか?」
あなたに問う。だけどあなたは自身に覆い被さってきたそれを、迷惑そうに払い除けるだけだった。
鬱陶しいと言わんがばかりの視線で無知(ぼく)を射抜いた。
この手をも振り払って、
「言いたいことはそれだけか」
勢いよく立ち上がる。椅子が倒れたのにもお構い無しであなたはそのまま背を向ける。途方に暮れるというよりは、連続性のないあなたの行為に違和感が僕を突き抜けた。苛立ちを隠さない後ろ姿、僕の2/3の一歩一歩を刻む。
張り詰めた、弾けた、それって僕の何・・・・?
「僕は、寂しいです」
それって僕の本音じゃないか。
「・・・・・最初からそう言え」
呆れたと、大人びて聴こえたあなたの声調。
○○○
間違いなく僕らは罪を犯す。
確かにあなたも僕も誰でもよかったのだ。あなたがどうかなんて解るはずもないけれど、取り敢えず僕は癒しより気休めを待っていたのだと感じていた。ほんの一時だけでも、待っていた。
それでも仕組まずにはいられないひとがいるらしい。
「・・・・あなたは、似てる」
「誰に?」
「・・・さてね」
地下を廻れば、僕らを生かしているモノが実は同じだったからだ。
「ひととひとが似たりするのは・・・簡単なことだ、魂が向き合っている、ただそれだけのこと」
「おそろしいひとですね、あなたは」
「こわいか?」
「・・・・ええ」
「もっとこわいやつもおる」
「考えたくありませんね」
「わしはいつも考えておる」
「・・・・・あなたの場合、そういうところが一番こわいんですよ」
愛とか・・・そういうキレイなモノは望まない。ひたすら我が侭なだけの貪欲さでもって築き上げるのは感情すべてを締め出した王国だから。
あなたはそれを「皆殺し時限結界」と呼んだ。笑えなかった。
だから僕は死体になる。
深淵にて――――あなたがその腕で抱くのは、亡骸、
泣きながら
死ねるなら
・・・・手当たり次第、求めて求めて求めて、それで死ねるのならいいな、とか考えたり、
そんな死体。それは僕。
ぎこちないキスのあと、形だけ魂をサルベージ。
肌と肌で奏でる、嵐より囂々しくて、絶える寸での吐息より儚い――――千年より永くの夢の続き。
変な喩えだけど、熱を持たない炎、だった。或いは指で描いた水脈とか。
(つまり、それは)
欠落感。
廃虚と手を取り合って、ラスト・シーンを白々しく演じたり、架空のバリアの誕生に拍手喝采したり・・・
こんなので始まりと終わりを仰々しく語ったりなど出来るだろうか?
「嘘」
「そう、嘘だよ」
「嘘だから・・・?」
偽りが走る。虚無感が螺旋を描いて落ちてくる。
視界を占領るは鳥の群れ。前奏を終えて飛び立っていく。
葬儀の列も通り過ぎた。見知った顔がたくさんあった。誰かが泣いた。
あなたの知ってる誰か、僕の知ってる誰か。
立ち止まれずに泣いた。知らない道を走りながら、出口だけを求めて・・・陽は落ちる。
空は鳴咽し続けた。一度も止まなかった。
・・・・・・涯もない無。
確かに近付きたかっただけ、こびり付いてしまった色を変えてみたかっただけ。・・・せいぜいその程度だったから。
赦される事と赦されない事の境界線がどうしても引けなかった。――――子供みたいでしょう?
いっそ後ろ指を差されたら、どんなにか楽だったろう。
●●●
「・・・・どうした?」
隣で身を起こした女に目線を合わせて、怪訝な表情で男は尋ねる。
青白い月の檻の中の澱が密の甘さで積み上げられている。夜の間隙を愛撫した後の痕が淡い華の色合いで咲いて。
絡まる時を裂いた男の声。荒ぶる風を起こす女の声。
「夢を、見ましたのん」
「・・・夢?」
眠っていた気配はなかったと、肯定をすんなりと通過させることが出来ずに、それでも「どんな?」と興味を示す男の質疑に、女はほんの刹那、雨音に耳を澄まして
「とてもかわいそうなひとたちの夢を」
もうひとつの檻を瞼に焼き付けて囁く。
そのまま夜の闇に溶け入る馨りがあった。とても気まぐれな瞬きを挟む。白い息に混ぜて消去される。
最大最低の憐憫を込めて。
「・・・何だ?それは」
男は始終、首を捻っていた。幻の粉に遮られて一歩を踏み込めないのだから、当然。
世界Aと世界B、例えばこんな感じに、ひょっとしなくても棲んでる処が最初から違った為に生まれたズレ、それ以外の何でもなかった。
ふたり。
(かわいそう)
女はずっと彼と、もうひとり、彼のことを考えていた。現在進行形。
夢であり現であり幻であり、そのどれでもない。彼らのことを考えてみた。そんなことは女にとって、夢も訪れない眠りに落ちるより、数段と容易いことだ。
ふたり、は、複数。
独りで出来ない事の幾つかを満たしてくれる。けれども不十分で・・・そういう単位だった。
それから最後に目の前の男について、
「・・・・かわいそう」
その、いつ狂うともわからない身体を憐れんだ。それらすべてはたったひとりの所為。
(・・・わらわの所為だけど)
「何か言ったか?」
「いいえ」
罪も知らぬ微笑みで女は答え、男の不信を拭い去る為、再び寝台に肢体を沈めた。だけど本当はどうだったかなんて、きっと誰にも分からない。
だって、ほら。
結局身体は二つのまま。
●●●
見慣れない世界に僕は少し泣いた。あなたの為ではなく、自分の為に。
「・・・むなしい」
城跡。結界は歪んで消えた。(またびしょ濡れになって震えるしか・・・こんなこと・・・・・)
「あたりまえ」
ムッとした声。「おぬしアホか」と同義語だった。隣から思い切り僕の頬を抓った。
イタイ。でも、“甘くないんだから、虚しい”なにも間違いじゃない・・・・。
解かれた後でも、指の感触は、暫く頬にくっついたままになっていた。そっと触れてみた。
癒されきらない傷口をなぞっている錯覚が電流みたいに一瞬で通り過ぎて・・・あっという間に、気化。
(悪)夢の延長線上といった心地で目を細めると、なぜかそこで視線がぶつかった。
永い永い意味ありげな0.07秒。
やがてあなたは白い羽根枕に顔を埋めた。「逃げる」というのとは違っていた。確かめる術など求められたものではないが間違いはない。自分の感覚だけが手繰り寄せる糸を渡って、耳元で紡ぎ上げた。
「“最後に縋るのは自分”、
おぬし、以前こう言ったであろう?」
くぐもった声が左耳に届く。
「そこがわしらの決定的な違いだ。そしてこれからも変わらない」
「・・・そんなこと、あなたに決められる筋合いなんて・・・・・ありませんよ」
「別に決めてるわけではないよ。だけどこの点、悪いがひどく自信があってな」
・・・・・事実だった。見透かされていることが悔しかった。醜い言葉を列挙されても、何一つ否めない惨めな気持ちが溢れ返っている。指一本動かせずに敗者の似姿で僕はゆっくりと息を吐いた。
これ以上繋がれて何になるっていうの?そんな自問の中で、ギリギリと歯軋り。
あなたは聞こえないフリで続けた。
「予言しようか?」
不意に顔を上げる。非情なまでの勝利感を口許に浮かべて、僕を鏡の中のものからそれそのものに変えてしまう。
「・・・何ですか、それは」
―――――赦し難い。
邪悪な妄想にとり憑かれているのかもしれない。血と肉が未踏の地へと僕を誘(いざな)う。
あらゆる過去を詮索し、免疫性のある何かを煽動しようとしていた。
それは誰の所為か。
「あなたがいなければよかった」
駆逐されたのは良性。
やっと口を衝いて出たのは、最低な科白だった。けれど快楽も共にあった。青く見せかけた黒い鳥の羽根を毟り取るのもきっとこんな感じだ。いい気味だ、と本気で考えていた。お前が悪いんだ、と。
それでもあなたが僕のキョウキに動じることはない。
「・・・・やめろ」
イヤに冷めた声で吐き出す。あっという間に僕のキョウキは色褪せる。ちっとも役に立たない玩具に成り下がる。・・・・こんなのは不平等だ。
なのにあなたを見て、「ああこのひとはなんて欲深くて強かで臆病だったのだろう」、脳裡を巡ったのはこんなことだったのだ。
欲しくない言葉はきっと僕と何ら変わらないのだろう。
「あなたがいなければ、僕があの女に辿り着けた」
報復のつもりだったのかもしれない。・・・・・因果が巡る。
「・・・いや、たとえ辿り着けなくても目指していくことは出来た。
・・・・・僕に必要なのはそれだったんですよ」
自分の居場所を取られてしまった気がして、憎んでしまうことに頭を抱えていた。
だから今、奔流するのはいやによく喋る僕だった。
何が欲しかった?
(ただ鮮烈なだけの矛先を向けるべき相手が)
望んでいました・・・・・
僕はさいごには自分を択る。なぜなら、多分僕が択ることになっていたモノが別の「誰か」に盗られてしまったから。
なぜなら、僕は最初からあなたの「影」だったから。
決して変えることのできない歴史という名の城壁が聳え、その向こうには決して越えられないあなたというひとがいた。
きっと、そのせいだ。
「・・・・あやつだけは奪うな」
殆ど殺意に近い感情を昂ぶらせて、僕を睨みつけた。そうするのと、僕の髪を掴むのが同時だった。“手加減なんて忘れてしまった”と理不尽な言い訳を振り翳しても何ら不思議はない。
髪を伝って警告が皮膚にちくちく刺さる。
「奪うなよ?」
今度は完璧なソレで。言うだけ言って手を放した。
「あ・・・」
雨音の中、突然のヒラメキ。
―――――あなたは自分を「与える」ことで僕を彼女から遠ざけようとした?
カタチになって、繋がった。それはある種の終止符だった。
悩むのは止めにしよう。“今、無性にあなたが憎くてしょうがない”、これでいい。
測り得ない、霧消、すべて。
(ずるい)
あなたが怯えたのは多分、彼女を見つめようとする僕。
その感情が何であれ、僕を彼女に近づけたくはなかったのだろう。彼女への独占欲と僕への支配欲があなたを突き動かして、あっけない結末を決めた。
僕が壊れないように、あなたがあなたであり続ける為に、保たねばならないのは・・・この脆い関係だけ。あなたはあなたで僕は僕、変わることなど出来ないこと、どんな手段を執っても知らしめねばならなかった。
そのあなたの策略の半分は成功といえるでしょうね。
「・・・冗談ですよ」
だってこの言葉の半分は、本当。
・・・・半分は嘘だけど。
「と言うより、おぬしでは役者不足」
そして僕の嘘があなたに通用しないことなんて百も承知してる。あなたがこんな風に容赦なく振り切るのはきっとその為。(それ以外の理由なんてあるのだろうか?否)
「わしでないとダメ」
(しかも自信過剰)
神をも畏れないってきっとこういうことなんだ、と僕に思わせるには十分の澄ました表情があった。そもそもこのひとは本当に「ヒト」なんだろうか?・・・そんな馬鹿げたイメージが暴れる。
頭を振る。
離れない。
「・・・そういうことは本人の目の前で言ったらどうです?」
「ダアホめ。
・・・・・殺される」
消えない染みを拭い去ろうと僕が発した科白に、あなたは苦笑する。昨日を振り返ってしまっている笑みだった。それはまるで、どこかそうなる現実を待ち侘びているかのような・・・・。
―――――今、このひとは彼女の為だけに笑っているんだ。
上か下かに向かいながら、どれくらい近づけただろかと・・・考える余裕すらなく、風が別つ。
僕ら、何世紀遠退いている?
僕はゆっくりゆっくり地を這う。――――天を睨んで爪を噛んだ。
あなたは指でその黒髪を弄んでいる。
「もうバレてるんじゃないですか?・・・・ゼンブ」
だから最後にアクセント。どうしても悔しさを紛らわすことが出来なくて、灰を被った僕の悪巧み。生まれては死んでもう疲れたから、少し意地悪してやろう・・・不貞腐れて言った。
「・・・多分な。証拠をつくりすぎた」
だけど返されたのは悟りきった微笑みだった。歪(ひず)んだ空間で昨日を振り返って、もうひとりの自分と交わされる。
“宿る闇を道連れに、檻を出よう”
(なぜなんでしょうね)
あなたは僕を階段にして(或いは僕はその中のひとつ)、確実に、向かっていた。誰かの最期に。
すべての終りを抱いた彼女、その腕に抱かれることも、あなたから触れることも・・・・
結局は何一つ叶えられないのに。
不意にあなたの手を取る。けれどもそれが当たり前だった。あなたも解っていた。
―――――見えない禍の手が僕らを繋いだだけ。
「お供してよろしいですか?」
「手出しは無用」
「・・・わかりましたよ、それはもう・・・・・」
「なら赦す」
本当に欲しいのは禍そのもので。なのにまだ笑っていられる。彼女の存在、それだけで大丈夫、と。
(そんなはずがないのに)悪びれもせず言ってのけたあなたの眼は、まだ正気を覚えていた。
“まだ”――――永遠かもしれない。刹那かもしれない。解らない、けれど見届けよう。
繋いだ手を伝う熱だけが素直にあなたへの梯子を上っていた。
その瞳にはただひとりしか映さなくて。
限りなく研ぎ澄まされた、悪。罪と罰を結んだ線を尽く切っていく。ひどくてこわくて、どうあっても僕を束縛する、
「・・・・やっぱり似てますよ」
憎むべき対象。ただ、それだけでもなく。その事実はどれだけ僕を苛んだことだろう。
嬉しいような、哀しいような・・・そんな表情であなたはただ訊ねた。
知ってるくせに。お互いがお互いだけを必要としていること。そして、必ず見える時が来ること。
「―――――誰と誰が?」
それでも、さいごには殺さなければならないと・・・・知ってるくせにね。
・・・・苦いよ。。。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
● 砂糖7杯でもシュガーレス。
●
はい、この小説は表。表、表、表。表なんです。表ですよ皆さん!(…誰?)
男×男の愛を描いたわけじゃないもん!!(キッパリ)ベイビー、どうか逃げないで。お願いよ・・・・
プラトニック&ストイック!!!ご安心を!(・・・あ、これは嘘だ。・・・・うわ)
いや、ほら、表の方が読んでくれる人多いじゃないですか。・・・・ってやっぱダメ?
この作品、かなり読みにくいですね。スミマセン。
取り敢えず、「child」読んでないとわけわかんないです。「MAC」も読んどいた方がいいです、はい。
時期的には「child」、「MAC」、そしてコレ、の順。
書きたいことに直接関係なかったので全面カットしましたが、元はエロエロでした(笑)。
(そしてそれが原因で、一部―――言わずもがな───非常に繋ぎが悪い、ちぐはぐしてる。情けなー)
てゆーか、草子さんがオーソドックスな篠宮作品を読んでみたいとおっしゃってたのを思い出して、
「オーソドックスなら楊太だろ、やっぱ!」と思い書き出したはいいが、
もとより自分の世界観を変える気のなかった私、結果、こんなことになっちゃった、というわけでした。
草子さん、ゴメンナサイ・・・・(T_T)
わかってたことだけど、篠宮にオーソドックスは無理なようです(苦笑)。
寧ろこれだって曲解しまくったところで楊太っていうより太楊・・・・ゲフンゲフン★
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