* * 傍に
一人でいると不安になる
とてつもなく悲しくなる
私はとても弱いから
涙が流れそうになるの
傍に貴方がいないから
その日、蝉玉は愛しい人の姿を探していた。回廊の端にナタクがいた。
「あ、ナタク、ハニー知らない?」
「‥‥」
「ねえ、聞いてるの?」
「‥‥お前は‥」
「え、なに?」
ぼそっと呟いたナタクの言葉を聞き取ることは出来なかった。
聞き返したが、ナタクは応えず、飛んでいってしまった。
「なによ‥‥あいつ‥‥まあいいわ。ハニーを探しましょ!」
そう言って回廊を駆けて行った。
――夕刻
「ハニー、どこにもいないわ。どうしたのかしら‥‥」
一日かけて探しまわったが、土行孫の姿はどこにも無かった。
蝉玉は、トボトボと自室へと帰ろうとした。
「おい」
「え?」
横を見ると、夕日をバックにナタクがいた。
「?なによ」
「‥‥なんであいつを探すんだ?」
「はあ?」
「もぐら‥‥」
「ああ、ハニーのことね。なんでって一緒にいたいからよ」
「なんで一緒にいたいんだ?」
「好きだからに決まってるじゃない」
「‥好き‥?」
「そうよ。私はハニーのことが大好きだから一緒にいたいのよ。
あんたもそういう人がいるでしょう?
一緒にいると優しくなれる。ずっとこの人といたいと思う人が」
「‥‥」
「私はそれがハニーなのよ。分かった?」
「‥‥フン」
「あんただって、天祥や武吉といるのは好きでしょう?」
「あいつらが勝手に来るだけだ」
「でも拒もうと思えば出来るのにあんたはそれをしないじゃない」
「‥‥あいつ等は強くない」
「強かったら殺すの?違うでしょ?」
「‥‥」
「ねえナタク、あんたはあの二人に好かれているのよ。
そうさせたのはあんたなんだからね」
「‥‥俺は何もしてない」
「そう思ってるだけよ」
「‥‥」
「それにねナタク、あんたは今私を殺そうと思ったら殺せるのよ?
私だって結構強いのにあんたは何もしないじゃない。どうして?」
「女には優しくしろって母上が言ったんだ」
「じゃあなんで女でもないあの二人に優しくしているの?」
「優しくなんかしてない」
「なに言ってるのよ。充分優しくしてるわよ。あんたが気付かないだけよ」
「そんなことない!」
「あれ〜、蝉玉お姉ちゃんとナタクお兄ちゃん二人で何してるの〜?」
なんとも言えないタイミングで、曲がり角から天祥が出てきた。
パタパタとこっちにやってくる。
「もうすぐ御飯だよ〜」
「そうか‥‥」
応えたのはナタクだった。その声は優しく、その表情は優しかった。
「ナタクお兄ちゃん、また遊んでね〜」
「ああ」
ナタクはそう言って天祥の頭を撫でてやった。
「僕これからお兄様に稽古つけてもらうんだ〜。
御飯の時に会おうね〜。じゃあね」
「がんばりなさいよ」
「‥‥」
蝉玉とナタクは、天祥が見えなくなるまで手を振った。
暫く続いた沈黙を破ったのは蝉玉だった。
「嘘つき‥‥」
「嘘なんかついてない!」
少し怒った声でいって蝉玉に振りかえって止まった。笑っているのだ。
「‥‥おい」
「あ、ごめん。でもなんだか可笑しくて」
「‥‥もういい」
「あ、まって!」
「なんだ」
「ナタク、これだけは忘れないで。あんたは一人じゃない。
必要としてくれる人がいることをね」
「‥‥フン」
そういうと、どこかへ飛んで行ってしまった。
「あんたは一人じゃないのよ」
一人でそう呟いて、暫くそこでボーっとしていた。
「げ!!」
どこからか、声がした。聞きたかった声。愛しい声。
「ハニー!!」
蝉玉は、土行孫の方へ飛んでいった。
「ぎゃああああああああ!!」
そう言いながらも土行孫は避けようとはしなかった。
「ハニー、大好きよ」
土行孫を抱きしめながら言葉も紡ぐ。
「ぐえ」
「私を置いていかないでね」
「‥‥?おい?」
「え?」
「なに泣いてるんだ?どうかしたのか?」
見れば確かに涙が出ていた。
おろおろとする土行孫を見て、嬉しくなった。
「心配してくれるの?ハニー」
「ばっ違えよ!!」
土行孫は真っ赤になった。
「嘘つくの下手ね〜。ま、そこが良いんだけど」
そう言うと、ギュッと土行孫を抱きしめた。
「大丈夫だ。俺はどこにも行かない」
「ハニー‥‥」
「だからもう泣くな」
「うん!!」
欲しかった言葉
それがたとえ嘘になっても
今貴方の傍にいる
一人じゃない
涙はもう流れない
止めてくれたんだ
愛しい人が
作者の遠吠え
草子様、ごめんなさい(滝汗)
蝉玉さんのお話しのはずがなんだかナタクさんのお話しのようですね。
ごめんなさい。せっかくリクエストして頂きましたのにこんなので(汗汗)
ああ、こんなの読んで下さいました皆様、有難うございました。
最後にもう一度謝らせてくださいごめんなさい。
草子の感想
蝉ちゃん・・・・(涙)
あなたはやっぱりかわいくてやさしくて芯のある、素敵な人・・・
「蝉ちゃん読みたい!」というリクエストに答えて書いて頂きました!
蝉ちゃんの、ぎゅっと抱きしめたくなるような良さが
すごく表れてます。
モグラもなにげにいい男だし。
しかも、ナタク! 私は実はナタクも大好き!
この二人・・・かなりイイね(笑)
カップリングとかそういうのじゃなくって、すごくツボでした。
二人の会話がせつなくなります。人を好きになることの大切さが
とてもよくわかります・・・
ぼそっと「モグラ・・・」と呟くナタクがかなり好きです。
蝉ちゃんがかわいくてかわいくて、もうもうもうっ!!
彌羅さん、本当にどうもありがとうございました!
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