血の匂いの薄暗い部屋。
部屋を照らすのは、小さな灯かりだけ。
その下に。
横たわった、赤い水に濡れた子供。
それを覗き込む、煙草をくわえた若い男。
「──・・・さて、今回はどうだ?」
■ 無断複製 ■
「・・・ん・・・・・・」
台に横たえられた子供が、ゆっくりと瞳を開く。
何も纏ってはいない。
生まれたままの姿をさらしていた。
全身は、血を薄めたような赤い水に濡れている。「・・・・・・?」
開かれた瞳は、まだ虚ろ。
「・・・あ・・・俺・・・」
──ここは何処だろう。
自分の、知らない場所。
薄暗くて、血の匂いがして。
突然夢から起こされた気がする。
けれど、今までを思い出せない。「おはよう」
「──?」
不意に声をかけられ、振り向く。
声をかけた人物は、影になっていてよく見えない。
声から察すると男のようだった。「おはよう・・・ございます」
大きな影に、呂望は恐る恐る挨拶を返す。
「まずまず成功──ってとこか?」
「え・・・?」
『成功』
「とりあえずこれ、着とけ。呂望」ふわりと、男が白衣を被せた。
『呂望』
──誰?
「──・・・お前はね、俺様に創られたんだよ」
きちんとした服を呂望に着せてから、彼は言った。
「前にも、お前と同じ姿をした『もの』をたくさん創った・・・」
彼は白衣のポケットから煙草を取り出し、火を付ける。
「お前は38番目の『呂望』」
呂望には、何も分からなかった。
不安で仕方ないけれど、彼には、逆らってはいけない気がした。
「今までの37個は、失敗作だった・・・」
『失敗作』
どれも呂望の姿をしていた。
けれど、中身が違った。
彼は、こういった関係は苦手だ。
崑崙の仙人の中に、得意そうな奴がいた気がする。
けれど、連れてくるのに手間がかかる。
だから自分で。
昔、偶然手にいれた一本の髪の毛を使って。
最初に、人の形をしたものができた。
呂望の顔をしていた。
けれど、命が無かった。
何年か経って、命を入れることができた。
けれど、その肉の塊には、ココロが無かった。
まだ呂望ではない。
さらに何十年もかけて、人の形はココロも持つようになった。
それなのに、それは呂望ではなかった。
全て、贋物。
だから壊した。
彼は、『もの』だから破壊だ、と言った。
それには命があったのに。
それには心があったのに。
「──・・・お前は、成功だと良いな」そうでなければ、また、壊してしまう。
彼は、ゆっくりと紫煙を吐き出した。「・・・何故・・・俺を創ったんですか?」
もし自分が贋物なら、壊されてしまう。
自分は『もの』で、人ではないから、きっと躊躇いも無く。
過去に壊されたものたちも、この恐怖を味わったのだろうか。「・・・・・・」
まだ短くなっていない煙草を、灰皿で乱暴に押し潰す。
その行動に、呂望は少し怯えた。
不用意な発言をしてしまったのかもしれなかった。「お前を取られたんだ。頭の長いマゾジジィにな」
彼は、嫌悪を隠さずに吐き捨てる。
それを思い出すだけで、何十年も昔の事なのに、腹が立った。
それから、また煙草を取り出して、くわえる。「いや・・・お前じゃねえな。お前のオリジナルを、だ」
「オリジナル・・・?」
「今は『太公望』って名前だ」
僅かな時間でみるみる腕を上げた。
復讐を果たしたい筈なのに、その素振りを見せず。
ただ、耐えている。
その姿が本物の──呂望。「俺は・・・『本物』なんですか?」
『呂望』と同じ行動、考えでいなければ、壊される。
──殺される。
「それは、お前次第だ」
彼は呂望を見下ろして言った。
「お前は、お前が正しいと思う行動をとれ」
数年後
「俺は、お客様案内係の呂望と申します!」
呂望はオリジナルに出会った。
──果たして、彼は何番目の『呂望』だろう?
END
あとがき太上老君、ヤタラと若いなあ・・・(笑)
この人が元始天尊を上回る奴とは、とても思えないです(汗)
とりあえず今週が合併号で、良かったような良くなかったような・・・(苦笑)
呂望君の38番目というのは、ジャンプの号数を参考に。
忍でした。
草子の感想
かっこいいなあ・・・・。封神パロディー(何やらなつかしい言葉(笑))小説というよりも
これ一つだけ読んで、物語として独立しているような感じです。
キャラクターとか雰囲気とか生きてるし、だんだん明かされていく事実が
物語の中身をどんどんさらけだしていくようなそういう小説本来の楽しさとか面白さが
ありますよね(私なんかに言われても、って感じだろうけど(汗))
ああっ、なんて言うかさっ、たんたんとした冷静な投げやりななんかもうこの雰囲気が
たまらなくかっこよくって好き好き。いや、投げやり、は違うか。
セリフの感じもたまらないね。
はあ。忍さんは本当にいろんなモノが書けるのですねえ・・・・
こりゃあまいった(笑)
かっこよすぎ。
もどる