森
舞台は、とある森の中。登場するのは、師叔と白鶴童子です。
白−なんで森の中なんかトボトボ歩いているのですか。公主に会いたければ飛んでいけばいいのに。
師−トボトボではない、颯爽と、だ。
白−さぁ、そうですかね。でも、さっき私が来たとき、幹にもたれて、とほほ、と言っていたでしょう。見たんですから。
師−徒歩徒歩と言っていたのだ。その時、その場所までは歩いていかねばならぬのだ。
白−月までですか。やれやれ。で、会いたいんでしょ。
師−会いたい。いや、会いたくない。
白−どっちなんですか。
師−会いたいのだ。でも、会いたくないのだ。
白−だから、どっち。まぁ、それだけ言うなら、会いたいと言ったのと同じですが。
師−いや、今はまだ会いたくない。月が満ち、月が欠け、夜が一番長くなるその時が来るまではな。
わしは公主を信じている。固く固くな。だから、離れていても全然、完璧に平気なのだ。
が、時としてわしにも不安がよぎることもある。
狂おしく、いてもたってもいられず、どうしようもなく会いたくなる、こともある。
満月になるたびに、そこに公主がいるかと思うと、こう、手を差しのべて言わずにはいられないのだ。
師、白−お豆腐やさーーーん、待ってーーー!
* * * * * * * * * * * * *
(夜。舞台に師叔。木の根本に腰をおろしている)。
白鶴童子が登場
白−パサ。スース、やはりここでしたか。パサ。森の中に、たくさんの生き物がいてわかりにくかったですが、
私にはすぐ見分けがつきましたよ。パサ。スースは特別ですから。パサ。
恋の白鶴便です。ちゃんと渡してきましたよ。返事は今度もありませんでしたが。
師−いつもありがとう、小白。今日はこれ。
白−もうすぐ満月です。公主様が姿を見せますよ。なんで森の中にいるんですか。
こんなに離れては、公主様には見分けがつかないでしょう。
知ってますか。私のアパートからは富士山が見えます。
それでこの間、富士山に登ったときに頂上からアパートを捜してみたのです。見えたと思いますか。
師−そう、わしも小さい頃登ったときに、かなり探したのだが、親にもういいかげんにしろと言われて諦めたのだ。
あと少しのところだったのに、残念だったことをよく覚えている。
白−私は、まるでスースが逃げ回っているみたいだと言っているのです。
師−逃げているのではない。向かっているのだ。
白−やれやれ、スースのなんというか、まだるっこしい想いは誰にも言えませんね。他を圧倒しています。
最初は苦労しましたよ。公主様は水の壁を厚くして、誰とも会おうとしませんでした。
スースの言ったとおり、碧雲さんに、スースが最後の戦いをするために、公主様の力が必要で、
そのための秘密の指令あるので、どうしても渡してほしいとたのんだのです。
公主様はその手紙を読んで、思いっきり怒ったそうですが。
でも、今は私が行くと碧雲さんはすぐ通してくれます。公主様の顔はよく見えませんが、待っているようですよ。
ところで、月が地上に現れる秘密の場所ってどこなんですか。
師−ゲッなんでそれを。
白−いえ、知りません。スースの手紙を読んだりはしませんよ。決して。
いつも大事に羽毛の下にはさんで飛んでいるのです。
この間もひどい嵐にあって、もう少しで吹き飛ばされて岩にたたきつけられそうになったのですから。
師−それはそれは大変だったな。なにもそこまでして急がなくても。それで。
白−スースの力になれればと思えばです。それで、そのときたまたま手紙が濡れて封印がずれてしまい、
文字が滲んでは大変だと急いで乾かしたのです。
それはもう興味深くじゃなくて注意深く広げたのでした。
火にかざしている間中ずっと目をつぶっていましたから、じっくり読んだり決してしてません。
師−なんか、そうじゃないかと思ってはいたのだ。白白に力になってもらって、うれしくて涙が出そうだ。
師−近ごろ公主の様子はどうだ。
白−そう、妙に明るかったり、暗く落ち込んだりのようです。
気分を変えようと、パーマをかけようかなんて言ったりしているそうです。
師−パ、いや、それはそれで、本人の意思を尊重せねば。でも髪を切るなら、わしはオカッパがおすすめだがな。
白−ロ、いや、スースはお子さんが好きなのですか。
確かに、公主様は、師叔は女の趣味が悪いらしい、とも言っているようですが、本当ですね。
白−だいじょうぶ、手紙のことは誰にも言っていません。
天尊様も楊ゼン様も、私が公主様の所に急いでいると、ニヤニヤして寄ってきますが、
こう脇を締めてスースの手紙を持っていることを、決して悟られないようにしているし、帰りは帰りで、
一杯やっていけよとしつこくて、公主様の様子はどうだったと聞くのですが、手紙のことは一言も言いません。
そりゃ、皆さん公主様の御加減は心配でしょうし、たまには手紙を渡したときのご様子をお知らせしてますが、
なんだかそれで皆さん安心しているようです。
師−バレバレってことか。
白−なんです。
師−いや、白白がしっかり秘密を守ってくれて、晴々とした気持ちってことさ。とほほ。
師−そうだ、白白には思い切ってわしの本当の心を打ちあけよう。
白−・・・・・
師−わしは公主を愛している。心の底から。できることなら飛んでいって、公主をしっかと抱きしめ、体中にブチュッと・・・
白−・・・・・
師−いや、体中の力をこめて、ほっぺたにブチュッと・・・、
いや、体をかがめて公主の手の甲にうやうやしく口付けしたいと思っているのだ。
白−安心しました。
師−わしは公主を信じている。固く信じているから離れていても全然、完璧に平気なのだが、
時としてやむにやまれぬ想いが体中の血管を駆け巡ることもある。
狂おしく、いてもたってもいられず、会いたくなることもある。
満月になるたびに、そこに公主がいるかと思うと、手を差し延べて叫ばずにはいられないのだ。
師、白−お豆腐やさーーーん、待ってーーーー!!
白−でも、何で公主にすぐ会いに行かないのですか。
師−いや、なに、その前にいろいろと片づけなければならぬことがあってな。
白−もしかしてそれは、コレですか。
師−そう、妲己を倒さなくてはいけないし、ビーナスとも話をつけなければならん。
白−やはりビーナスですか。妲己もですか。
師−蝉玉も心配だし。
白−蝉玉もですか!
師−わしは心が広い。博愛主義だからな。
白−博愛、誰でもってことですか。まさか、楊ゼン様との噂は・・・。
師−ああ、楊ゼンともな。話しておかなければ。
白−何を考えているのですか、スース。
師−何を考えているのだ、白白。わしは情深い、気遣いの人なのだ。
白−情けが深いのですか。書きとめなくては。公主様には、スースの様子をありのまま教えるよう言われています。
師−ま、待て、公主には言うな。
白−公主には言うな、ですね。
師−待てと言うに、だいたい公主だって、いろいろ秘め事とか、最後の最後まで片づけなくてはならんことだってあるだろう。
白−公主様に聞いてみます。
師−コラコラ。
白−で、どこなんですか。月が現れる場所というのは。
月は何十万キロも離れているのですよ。
だいたい地球上をいくら歩いてもグルグル回るだけだし、いつまでたっても着きませんよ。
師−満月に公主の部屋の窓が開くだろう。しかし、その逆に深く閉ざされた時にだけ開かれる道があるのだ。
夜が一番長い季節にただ一度だけ、月に通じる道が開くのだ。
白−どこですか。公主様は知っているんですね。感動ですね。
師−ヒ・ミ・ツ。公主にも言ってない。
白−なら、この手紙に書いてあるのですか。
師−いや。
白−なら来るわけないじゃないですか。
師−そうかな。心は通じていると思っておるが。
白−バカ。
師−そのために日々念じておるのだ。きっと通じる。
白−白−救いようがないですね。公主様が来なければどうするのですか。
師−もし、公主が現れなければ、か。その時は・・・、また旅を続けるさ。
師−もうすぐ満月。今日は十二夜か。
なら、恋のドタバタも、やがては大団円なのだが。
(暗溶)
草子の感想
やはり師叔には白ツル・・・・・
と私は再び確信いたしました。
このテンポ! そしてほどよく情けない(ここ重要)太公望!
はあ。うれしくなるくらいツボでございますわ。
セリフがどれもこれも、心にくいぐらい気がきいてて、もう素敵この上ない空気を作っております。
全体に楽しいんですが、「月」という言葉がたくさんでてきて、夜に空を見上げていやにくっきりとした月を
見て不思議になるような、そんな気分にもなりました。
楽しいんですけどね(笑) 一杯さそわれる白ツルとか、パーマとか。ロ・・とか(笑)
うーん。本当に、素敵で素敵でもう素敵です(語彙が少ない哀しさ・・・)
このミックス具合が胸にドキューンときました。何度でも読んでしまいたくなります。
黄石さん、どうもありがとうございました!
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