たくさんの人を失った

たくさんの人を犠牲にした

たくさんの人が離れていった

たくさんの人がもうここにはいない

 

 

 

 

 

 

 

《守るもの》

 

 

 

 

 

 

 

 

「御師匠様、どうしたんですか?」
「あ?ああ、武吉か、なんでも無いよ」
「そうですか?御疲れなのでは?」
「いや、大丈夫だ。これをしたら休憩にしよう」

手に持っている書類を指差して言う太公望に、武吉は頷いた。

「はい、分かりました。御茶の用意をしてきますね」
「ああ、すまぬな」
「失礼します」

そう言うと武吉は部屋を出て行った。その背中を見て、太公望はのんきに昼寝をしている相棒を見やった。

「ったく、武吉はあんなに働いているのにお前もちょっとは働け!!」

言葉と共に、書類の一つが四不象にヒット。(150のダメージ)

「何するッスかー、御主人」
「おお、すまんのぅ、手元が狂ったわい」
「ひどいっスよー」
「だからすまんと言っておるだろうが!!」
「おこんなくてもイイじゃないっスか!」

ああ言えばこう言う、いつもの喧嘩だったが、今日は一味違っていた。太公望が反論しないのだ。

「‥‥御主人?」
「すまなかった」
「‥‥もういいっすよ。それよりどうしたんスか?」
「どうもせぬよ。それより四不象、武吉を手伝って来てくれ」
「わかったっス」

まだ少し不満そうな顔をしながらも、四不象は部屋を出た。

 

 

 

 

 

「いかんな‥‥」
「何がいけないさ?」

いつのまにか部屋の前に、天化がいた。

「天化‥‥何か用か?」
「うんにゃ、別に」
「それなら出ていってくれ、わしは忙しいのだ」
「師叔?」
「いいから、出ていってくれ!」
「‥‥いやさ」
「な!?」
「いやさよ」

そう言うと天化は、ズンズンと太公望の方へ近付いてきた。

「なんだ?やはり用があるのか?」
「いいや、ないさよ」
「だったら‥‥」

言葉を遮って天化が強く言った。

「ないさ!!ないけど‥‥」

訴えるように太公望を見た天化に、思わず言葉を飲み込んでしまう太公望だった。

「‥‥もういいさ!!」

そう言うと、クルッと踵を返して出て行こうとする天化の腕を握った。

「待て」
「放すさ!!」

天化はそう言いながらも自分では振りほどこうとはしなかった。

「‥‥何があった」
「‥‥何もないさ」
「嘘だ」
「ほ、本当さ」
「ならば目を見て言え」
「うぐ‥‥」

こっちを向かずに返答に詰まった天化を見て、溜息が漏れた。

「‥‥天化‥‥言ってくれねば分からぬよ」
「‥‥‥だって」
「だって?」

太公望は、天化を連れて椅子へと向かった。太公望は腰を下ろし、開いている方の手も天化の腕に回した。

「て〜んか。どうした?」
「ん?」

さっきとはうってかわって優しい声の太公望に天化は戸惑いながらも口を開いた。

「だって師叔‥‥」
「なんだ?」
「師叔‥‥俺っちが声かけないと話してくれないさ。師叔の方からは絶対声かけてくれないさ‥‥さっきもなんだか冷たかったし‥‥俺っちに何か悪いところがあるなら言って欲しいさ。俺っち馬鹿だから、分からないから‥‥」
「天化‥‥」

天化は顔をあげ、辛そうに太公望に言った。

「なんでさ?なんでさ、師叔。俺っち何か悪いことしたさ?」

太公望は、そっと手を放し、頬に手を当て言った。

「違うよ、天化‥‥お主は何も悪くないんだ」
「でも‥‥」

天化の言葉を太公望が遮った。

「わしは!お主を‥‥失いたくない‥‥」

太公望はギュッと目を瞑り、強く言った。

「でもお主はいつかわしから離れていく!いつもそうだ。結局誰も傍には居てくれない!もしかしたらわしはおぬしを犠牲にするかもしれん!それが‥‥それが怖くて‥‥お主にあまり関らぬよう‥‥大事だと気付く前に離れようと‥‥」
「師叔‥‥」
「わしの行く道は犠牲が伴う。そんな道をお主には歩かせたくない‥‥」

いつのまにか太公望は天化の頬から手を放し、拳を作っていた。

「わしは今までたくさんの人を見て、わしと共にいたが為に死んだ人をたくさん見てきた。会ったことはないが武吉の父親はわしが馬鹿なことをした為に死んだのだ‥‥」

天化はそっと太公望の手を解いた。そこには、あまりにも強く握っていた為に爪跡が出来ていた。そっと自分の手を重ね、自分の胸に押し当てる。

―トクン トクン トクン トクン―

天化の鼓動が手に伝わる。心臓が動いてる。生きている証

「師叔、俺っちは今生きているさ。未来のことなんてわかんないけど、今は師叔の傍に居るから‥‥」
「天化‥‥」
「師叔の行く道は笑顔があるさ。そんな道を俺っちも一緒に歩きたいさ」
「笑顔なんてないぞ?」
「そうかな?ならどうして武吉っちゃんやカバっちや、王サマや天祥や、楊ゼンさんや親父は笑っているさ?」
「しかし、犠牲になったものもたくさんいる」
「師叔、もういない人は心にいるさ。それより、今いる人達を守ろうさ」
「心に‥‥いる?」
「ああ、師叔は武吉っちゃんの親父さんのことちゃんと覚えてるだろ?会ったこともないのに」
「犠牲になったもののことは忘れてはならん」
「そうだろ?ちょんと師叔の心の中にいるさ」
「あ‥‥」
「だろ?だから、今は今いる人達を守ることを考えるさ」
「そうだの‥‥そう、するかの」
「そうさ。そうするさよ、師叔」
「わかった。そうする、天化、ちゃんとお主のことも守ってやるぞ」
「俺っちは師叔に守られるほど柔じゃないさよ。師叔のことは俺っちが守るさ」
「ああ、しっかり頼んだぞ」
「任せるさ♪」

そう言うと天化は太公望に飛びついた。

「のわ!!は、放せ!」
「いやさよ―♪」
「天化!!放さぬか!」
「ダメさー♪」
「こうなったら」

―ポチ

ロケットパンチ発射!!天化にヒット!!(200のダメージ)

「ぐえっ!何するさ師叔!!」
「お主が放さぬからだろうが!!」
「いいじゃないさ!ちょっとくらい!!」
「よくないわい!」
「あの〜」
「「あ?」」

そこには武吉が立っていた。

「御茶、入りましたよ?遅いから見にきたんです」
「ああ、すまん。今行く」

そう言う太公望を見て、武吉はぱっと顔を輝かせた。飲んでもらえるのが嬉しいらしい。

「温め直しますね。今度は遅くならないでくださいよ」
「ああ、わかったよ」
「失礼します」

そう言うと武吉はパタパタと回廊を駆けて行った。

「さて、ちょっと片付けておくかのぅ」
「俺っち手伝うさ」
「そうか、ならばこの書類をあの棚に入れてきてくれ」
「わかったさ」

そう言うと天化はいそいそと片付け始めた。片付けは早く終わり、最後の書類を引き出しに戻してから、天化に声をかけた。

「天化、お主も一緒に休憩するか?」
「いいのさ?」
「ああ、構わんよ」
「じゃあそうするさ」

肩を並べて回廊を歩いていると、ふと太公望が呟いた。しかしそれは天化には聞き取れなかった。

「?師叔なんか言ったさ?」
「いや、なんでもない。ホレ、急ごう」
「あ、待つさ師叔」

追いかけようとした天化に、太公望はすっと手を差し伸べた。

「ほら」

「ああ」

二人は一度しっかり握ると、手を放した。存在を確かめるかのように。

 

――こうして二人で歩こうな、天化――

 

 

 

                     

 

 

 

 ――了――

 

 

 

作者の遠吠え

なんでしょうか?これは‥‥?まあ、それは気にしないで下さい(汗)
草子様、こんなので宜しいのでしょうか?返品可です。
こんなのを読んでくださいました皆様、有難うございました(感涙)
そして草子様、こんなの送って申し訳ありません。(滝汗)

 

 

 

喜びまくる草子

彌羅さんに、実に遠回しにしかしわかりやすく(笑)私がおねだりして
頂いちゃいました〜〜〜
はあ、もうのっけからいいです!!
私、スープーと師叔のかけあいがすごく好き!!
そして「天化、言ってくれねばわからぬよ‥‥」と言う師叔がなんか大人っぽくって
すごくかっこいいです!
出だしの所が、「たくさんの人がここにはいない」
そして天化の言葉「もういない人は心にいる」。この二つの言葉の対象がすごく印象的。
一度しっかりと手をつないでそして放す二人がなんだかとってもいいです。最後のところ。
そうやって二人は歩いていくのだなあ・・・って。
淋しくて哀しい話もしているのに、それだけじゃないんだって信じられる
前向きでやさしい雰囲気が、全体的に流れてて、心に残りました。
私、武吉も好きなの。だからうれしい〜〜〜〜〜!!!!
彌羅さん、本当にどうもありがとうございました!!
すっごくいいお話です!
天化も武吉もスープーも、そして太公望も、みんなええ人やああああ(感動)

 

 

 

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