−望ちゃん、望ちゃん。

−うーん。ん?普賢か・・・・普賢!
 どうしたんだ!大丈夫か。

−ははは、驚きましたね。
 大丈夫ですよ。逃げなくても。
 ほら、足もちゃんとついているし。
 望ちゃんこそ大丈夫ですか。青い顔して。

−足・・・確かに。しかも裸足で。
 はー、あ、いたたた・・・頭が割れそう。

−そんなに急に立ったりするからです。気分が悪いのでしょう。もう少し横になっていたほうが。

−あ、そうだな。
 ん?ここはどこだ。まっ白で・・・
 おぬしどうやってここに、いや、わしはどうやってここに。
 う、その服、前から地味だとは思っていたが、修道僧のような・・・
 まっ白、修道服の普賢・・・まさか・・・

−そーです。ここはね・・・

−ま、まて、わしはまだ死にたくない。いたた・・

−うそです。

−ん?

−ほら、羽なんかついていないでしょう。
 それに、望ちゃんなら、別方面ですよ。ぜったい。

−何を言う。わしくらい世のため人のためにつくした者がだな・・・いたた。
 頭が割れて死にそうだ。

−痛いですか。ずばり、宿酔でしょう。
 頭が痛いくらいなら死にはしませんよ。

−う・・・。それもそうだな。
 しかし、だな。すると、宗旨替えしたのか、普賢真人が。

−それを言わないでください。悩んだのですから。

−ま、いいか。会えたのだからな。わけは聞かんことにしよう。
 あー気分わるい。

−ゆうべはずい分いったのでしょう。

−腹の中に蛙が2・3匹いて、口から出ようと飛び跳ねているような気分だ。うっぷ。

−最低ですね。
 あたりかまわずというか、妙なにおいだし。その頭も。
 寝ている姿は、まるで討死にでしたよ。
 それに、その、×××している×××××は、しまった方が。

−え、う、はは、ナイナイと。
 見ていたのか。趣味が悪いな。
 ふー、水はないか。喉が渇いて死にそうだ。

−すぐ死にそうになるのですね。こんな所に泉なんかありませんよ。もう一度死んだ方がいいかも。
 そうだ、特製の聖水なら、少しでよかったらありますが。でも、器もないし。ちょっとこっちに。

−何を言い出すんだ。わしはおぬしの聖水など死んでも飲まんぞ。

−そうですか。この際、望ちゃんにも生きる糧をと思ったのだけど・・・って、全然違うことを考えていませんか!

−そんなことはない、ないぞ・・・。公主がいればな、話は早いのだが。

−なんてことを言うのですか。公主にそんなことをさせるのですか。

−おぬしこそ何を考えている。公主なら水の壁があるし、きっと分けてくれるだろうと言っているのだ。

−そ、そうですね。私もそう考えていたところでした。




・・・・・・・・




−ところで、普賢、大事にしていた宝貝はどうしたのだ、見えないようだが。

−天尊さまに返しました。私にはもう不要なので。

−宗旨替えしたからか。でも、あの宝貝は武器というより、使いようによっては、人の役に立つものだろうに。

−そう、あの日までは。
 あの日から、世界は変わってしまったのです。人間は、私の宝貝に秘められた力、
 世界を何度でも破滅することのできる火を盗み出し、武器につめて、自分たちに向かって放ったのです。
 人間は、歴史の簡潔な最後の頁を書き上げ、それをただ、めくるばかりになったのです。
 世界は絶望で埋めつくされたのです。

−しかし、絶望と希望とは隣り合わせではないか、希望を持っている人間もいるのではないか。

−そうです。けれど、一時の高揚した気分と、ささいな偶然とで、破滅の頁が開かれることには変わりありません。
 どんな努力も、その現実は変えられないのです。

−そうか、その現実に気がついてしまった者には、希望など、現実を前にして、目を閉じるに過ぎないというわけか。
 おぬしはいつもそうだな。たいていの者は、見たくない現実など、はなから見えはしないのに。
 しかし、それでも、死ぬまでは生きなくてはならんだろう。
 といっても、もうおぬしは、そうでもないか。

−とんでもない。これでけっこう今は忙しいのですよ。どんな世の中でも悩みはつきないのです。
 自分でほぅっておいて、フラれたとか、もう会えないかも、とか飲んだくれるのもいるし。

−ドキ

−気を持たせるようなことを書いてよこしておいて、あとはさっぱり。

−グサ

−突き刺すような言葉があるかと思うと、バカ丸出し。

−グサグサ

−しらんぷりすれば、だだをこねる。

−ググググ

−何をしているのですか。

−「容赦ない言葉の刃に身を切り刻まれる人」

−「背中がかゆいのに胸をかきむしる人」かと思いました。まぁこの辺にしましょう。
 私の話を聞いて下さい。これでも悩んだのです。

−よしよし、聞こう。こんどはわしの番だ。

−宝貝を天尊様に返して、河のほとりで考えていたとき、公主が来て、こんな話をしてくれたのです。
 「核時代を生きる三匹の蛙」です。

−ゲ、また気分が悪くなってきた。その辺で勝手にしゃべってくれ。わしはこっちで寝てるから。

−望ちゃんにはそうでもないと思いますよ。公主は、受け売りだと言ってましたが。

−ハイハイ




*********************




−普賢さん。
 天尊さまから聞きました。自分だけ生き残るなんてって、悩んでいるのでしょうね。
 でも、封神台に行かずに済んで、よかったと思えるような、そんな生き方をこれからしてほしいって、思われたのですよ。
 私も、普賢さんならきっとそうしてくれると思います。
 それで、よかったら私の話を聞いてほしいと思って、来たのです。


昔々、あるところに小さな蛙が3匹いました。2匹は男の子で、中でも小さな1匹は女の子でした。
3匹は幼なじみで、おたまじゃくしの頃からいつも一緒に遊んでいました。
3匹の蛙たちはとても元気で、大きくなるにつれ、少しづつあちこちに出かけ、帰ってくると自慢げに話をするようになりました。
3匹とも勇敢で好奇心も強く、それいていつも冷静に考えることのできる蛙でした。
ある日、昼寝から覚めた蛙たちは、連れ立って野原の方に探検に出かけました。
すると、道の脇に大きな容器が置いてあるのを見つけました。3匹は、その中身を知りたくてたまらなくなりました。
容器の背は高くて、飛び上がっても届きません。
それで、3匹は近くの木によじ登って、枝を伝って中を覗こうとしたのです。
ようやく容器の上にさしかかったときです。急に風が吹いて、3匹ともその中に落ちてしまったのでした。
中にはミルクが入っていました。
その容器は、牛から絞ったミルクをためておくミルクポットで、半分ほど入ったまま置いてあったのでした。
はじめのうちは、ミルク風呂だ、これで少しは色白つるつるになるだろう。
どういたしまして、生まれたときから、日に当たっても赤くなるだけで、日焼けしないで困っているんです、なんてミルクをかけあって遊んでいたのですが、次第に静かになりました。
ミルクの水面からは、容器の口がとても上にあったのです。
容器の内面は手がかりになるものはなく、おまけに口がすぼまっているので、上のほうはオーバーハングになっています。
3匹は真剣になって飛び上がったり、何とか壁にはりついて登ろうとしましたが、だめでした。
足場がないので高く飛べないのです。
1匹の上に1匹が乗りさらにその上に1匹がはいあがって飛ぼうとしたのですが、乗るたびに下の蛙はミルクの中に沈むばかりです。
小さな蛙では足場になりません。
やがて、もっと恐ろしいことに気がつきました。息が苦しいのです。
ミルクは搾ったばかりで、水と違って溶けている酸素が少ないのです。
皮膚呼吸のできない蛙たちは苦しくなるばかりでした。
それに、小さな蛙は静かに浮かんでいるだけでは、目玉しか水面より上に出ないので、時おり水をかいて息継ぎしなくてはなりません。
それも体力を消耗するだけのように思われました。

3匹は、自分たちの力ではどうすることもできない状況に陥ってしまったのです。
外ではようやく日がかげり、夕暮れが近づいているようでした。
考えれば考えるほど、ただ死を待つだけであることがわかってきます。
蛙たちは、小さなおたまじゃくしだった頃のこと、お母さんや兄弟たちのことを思い出しました。
あの頃が一番楽しかった。今ごろはどうしているのかな。

3匹の蛙たちは、自分のすることは自分で考えて、その結果を引き受けるという誇りを持っていました。
でも、それぞれ性格は違いました。

1匹の蛙は、悲観的な蛙でした。どんな努力も報われないことはわかった。
だからもう何もしない。そう言って、静かに浮かんで、絶望を抱きながら、確実に訪れる死の時を待ちました。

1匹の蛙は、楽観的な蛙でした。どんな努力も報われないことはわかった。
だからもう何もしない。そう言って、静かに浮かんで、希望を抱きながら、決して訪れない奇跡を待ちました。

小さな女の子の蛙は、どちらとも違いました。
悲観的でも楽観的でもありませんでした。どんな努力も報われないことはわかった。
でも、何もしないのもいや。絶望も希望も抱かない。今できることをする。できること・・・そう、
そこら中をジタバタし始めたのでした。

蛙って、死ぬときに、一瞬、目玉がひっくり返るんですって。知ってました?

女の子の蛙は、狭い容器の中で、跳びあがったりあっちこっちとジタバタするものですから、すぐ壁に鼻をぶつけて、
思わず目玉がひっくり返りそうになりました。
そこのところを、ぐっとがまんして、ターンするのでした。女の子なのにみっともないなんて、構ってられません。
他にすることを思いつかないのですから。

他の2匹は、波をかぶっても、迷惑そうな顔をせず、あきれたように見ていました。
子供だと思っていたけど、あれで結構かわいい足をしているなどと、思っていたかどうかは知りません。
ふと、1匹の蛙が女の子蛙に言いました。もうみんな死ぬのはわかっているんだ。
だから、最後に一回だけやらせてくれっ!!へるもんじゃないし。
もちろん女の子は、即座に答えました。やだ。絶対なんかへる。

最初に目玉がひっくり返ったのは、楽観的な蛙でした。
外はもうすっかり暗くなっていました。
やがて、悲観的な蛙も目玉がひっくり返りました。2匹は、ミルクの底にゆっくり沈んでいきました。

女の子は、とても息が苦しくなりました。
休もうと思ってもミルクに足を取られるような感じです。もうダメかな、と思いました。
でも、あの2匹は、じっとしていたのに、先にひっくり返ってしまった。
きっと息苦しくなったせいじゃない。いつもお気楽なコが先だった。
クラいコも、先にイクかと思ってたら、けっこうがんばったのに。後に続くようだった・・・。

2匹とも、嫌いじゃなかった。きっと、どっちかと一緒になったと思う。
で も、今度生まれ変わってこうなっても、やっぱりあの時は、しないと思う。
だって、ここでそんなことをするために、生まれてきたのじゃないのだから。


あんまり苦しくなったので、泳ぐのをやめると、足にねばねばしたものがひっついています。
脂のようです。手でぬぐうと、かたまりになって浮きました。よく見るとそこら中に浮いています。
集めてくっつけると、けっこう大きなかたまりになり、つかまると肩ほどまでミルクの上に出て、ゆっくり息ができました。
頭の中で、何かがきらめきました。

それから、休み休みでしたが、容器の中をバチャバチャを泳ぎまわり、できた脂をくっつけていきました。
その上に乗っても沈まないほど集めると、そこから容器の口を見上げました。
ここから飛び上がれば届くかもしれない。月の光が射し込み、白いミルクの中の小さな蛙を照らしていました。

やがて、容器の中から満月が見えるようになった頃、女の子は、そろそろだと思いました。
そして、頂上に登り、思い切って月に向かって飛んだのでした。



 教訓?
 冷静に考えたことは、役に立たない?
 いえ、そうではないと思うの。

 生きている限り、誰もが結局は現実を受け入れなくてはならないって、そう思う。
 でも、そのやり方は人それぞれよね。あの小さな女の子蛙も、やけで、むちゃくちゃしたのとは違うはず。
 でなければ、ずっと続けられはしないわ。
 救いようもない状況にいて、冷静に考えること、これは誰でもがそうすることはできないでしょ。
 だからあの3匹の蛙たちは、ただ者ではなかったと思う。
 でも、いろいろ考えても、どうしても受け入れたくない現実がだんだんはっきり見えてしまったら、
 どうしたらいいでしょうね。
 私も、あることないこと考えて、妄想したりするのよ、実は。
 絶望も、根拠のない希望も、それから妄想も、みんな現実の受け入れ方だって思うの。飛び切りの現実よね。
 悲観も楽観もしない。今できることをする。
 過去に縛られないように、未来にも縛られない。それも、考えることを止めないで。
 教訓は、そういうことだと思います。
 死ぬまでは生きなくちゃいけないのよね。

 そうでしょ。軍師サマ。




*********************




−うーん。なんか、きつく脚色されているような。
 まるで、公主がそこにいたような気がするぞ。 で、死ぬ前にアホたれたのは、どっちだったのかな。
 聞いたか、普賢。

−望ちゃん。

−分かってるって。まぁよかった。 で、それからどうした。公主とは。

−今は、一緒に旅をしているのですよ。巡業、ですかね。

−ナニ、一緒にか?

−公主も、遠くに出かけたいって言ってたし・・・
 何か考えているのでしょう。何もありませんよ。この季節、昔でいえば収穫際でしょうか。
 商店街のセールもかねて、町ごとに催しがあるのです。
 そこには教会の出し物もあって、みんなで手分けして、ちょっとした芝居をするのです。
 私と公主の組は、「処女の泉」というのを演っているのですよ。


とある深い森の中に小さな村があり、そのはずれに館がありました。その主は敬虔実直な信徒で、妻に先立たれた後も、忘れ形見の一人娘とともに暮らしていました。娘は、野に咲く可憐な花のように、清らかで美しく育ったのでした。
ある日、娘は捧げ物の花を摘もうと、森の中に分け入ったのでした。
汚れを知らぬ乙女がただ一人、月の光を頼りに探さなければならないという、不思議な泉のほとりに咲く奇跡の花を、どうしても見つけたかったのでした。
けれど、どんなに歩き回っても泉は見つかりません。娘はどんどんと森の奥深くに進んでいきました。あたりは見たこともない景色が続くばかりです。
ふと、木立の奥に人の気配がします。心細くなっていた娘は、後先考えずに飛び出してしまいます。
ところがどうでしょう。
その集団は、異教徒の反体制武装勢力で、拠点から拠点へと移動するのに、どうしたら村を回避して、衝突を避けられるかを相談しているところでした。


−んー分かりにくい筋だな。ま、このご時勢だから、政治的に正くある配慮は必要なんだろうな。
 悪人には住みにくくなったもんだ。
 しかしだ、その、清らかで美しく、汚れを知らぬ処女というのが、もしかすると公主なのか。

−何が言いたいのですか。ぴっったりじゃないですか。そう思いませんかっ。

−わ、わしも、今そう言おうと思ったところだ。何も怒ることはないだろう。

−嘘つきですね。

−わしが嘘つきなら、おぬしは大嘘つきだろうに。ボソボソ。 で、その先は。

−それでです、武装勢力グループは、娘のヒラヒラした服を見て、これは村の有力者の娘で、
 拉致監禁すれば交渉の担保になると考え、娘は娘で捧げ物を採ろうとした自分が捧げ物になりたくないと考え、
 次の行動は一致したのでした。
 娘は逃げ出し、男たちは追かけたのでした。
 娘は逃げながらも、カンフーやら、男から奪った山刀を振り回したりと、敢然と立ち向かったのでした。
 けれど、どうしようもありません。
 追いつめられた乙女は、もうこれまでと観念すると、草むらの上に静かに倒れたのでした。
 男たちが恐る恐る娘に近づき、その体に触れようとしたその時です。
 一条の光が射し、見上げると天使が現れ、ゆっくりと降りてくるではないですか。
 天使は跪いた男たちの頭の上で留まり、乙女に手を差し延べます。
 すると横たわった姿のまま、娘の体は浮きあがり、天使とともに昇天します。
 そして、純潔を守ったまま天に召された娘の、横たわっていた胸のあたりから、こんこんと水が湧き出し、泉となったのでした。
 この奇跡を目の当たりにした異教徒たちは、みな回心し、そこに祠を建て処女の泉として末永く守ったのでした。おしまい。



−いい話だなぁ。
 しかし、商店街の出し物としては、何とかマンショーのようでもあるし、わしには公主がドタバタ走り回る姿しか見えんが・・・。   
 だいたい天使が降りてくるにしても、水が湧き出すにしても、おぬしらの力を見せているだけだし・・・。
 考えようによっては、観ている人をバカにしているのかも知れんぞ。

−そんなことはありませんよっ!私が現れるときには、みな息を呑みますし、
 何もないところから水が湧き出すと、オオッて歓声が挙がりますよ。
 たしかに、公主が走り回っているとき、舞台に近づいて、ヒラヒラしたスカートの中を覗こうとしたガキもいましたよ。
 でも、終わりはいつも大拍手です。
 我々が一番当たっているんですよ。ガブも大喜びです。

−ガブって・・・もしかして大天使・・・ま、いいか。
 なんか、複雑な気持ちだな。やっぱり、いたいけな少年少女をダマしているのではないのか?
 心は痛まぬか。公主も公主だが。

−そんなことありませんて。
 この間なんか、楽屋にそっと人が来て、実は私の娘が、あなたがたのマジックショーを見て・・・

−やっぱりそうだろう。そうだろうな。

−いいんですっ。・・・それで次の日学校に行って友達に話したところ、誰も信じてくれないと、泣いて帰ってきたと・・・

−そうだろう。人をダマすようなことは、するもんじゃない。

−うるさいな、いちいち。
 で、娘の言うことがインチキかどうか確かめるということになって、今日友達を連れて見に来るということになったのです。
 だから、どうか失敗しないでください。
 それと、後で楽屋に呼んでやって、タネも仕掛けもない、本当の天使なんだと言ってやってほしいというのです。
 もちろん、おやすい御用です、安心して下さいと答えましたよ。

−悪いやつだな。それって、2重に人をダマしているぞ。
 確かに、仕掛けはないのだから、公主が自分でスカートを踏んづけてコケなければ、失敗はないだろうがな。

−私もそれだけが心配でした。

−で、ガキ共は目を丸くしていただろう。楽屋に呼んだのか。

−ええ、かわるがわる私の背中に触るんですよ。かわいいもんです。

−悪党だな。

−公主もちょっとしたことを見せるのです。
 あれです、コップの中に入れた水が、逆さにしても落ちないという・・・。
 それで、机の上にコップを置いて見ていると、そこから草の芽が出るように、水が立ち上がり、きらきらとした花
 が咲くのです。あれあれという間に、花が蝶々に変わって、ひらひらと飛んで、子供が手を出すと、そっととまるのです。
 もう、魂を奪われたようになりますよ。
 それで、これは誰にも言ってはいけないよ。私たちは本当に天使なのだから、と言って返すのです。

−来た子供たち、みんなにか。

−え、まあ、別け隔てしてはいけませんので、そうですけど。

−いつかバレるぞ。そのうち、ワイドショーに出るようになるな。きっと。
 公主のそれは、聞いたことがあるな。いつだったか飲み会で、わたし、手を使わないでも飲めるのって、
 ウーロンハイをちゅるちゅる飲みながら、一度でも見たことがあれば何でも形にできるのよって、自慢していたんだ。
 そしたら、何かあってバツゲームをすることになり、楊ゼンの形にして、キスするってことになったんだそうだ。
 すると楊ゼンが、俺のはコップじゃ足りんだろうと言って、ピッチャーを公主の前にドンと置いたんだ。
 公主が寄り目になると、氷がガチャガチャ音を立てて、何やらモコモコとせりあがってきた途端、赤雲が
 急に泣き出して、碧雲は怒り出し、はしたないことは止めて下さいって叫んで、
 それを楊ゼンにぶちまけたんだ。そのあと鳳凰山は大変だったらしい・・・。

−よくまあ、見てきたような。泣いて止めたのは碧雲だし、ぶちまけやしませんでしたよ。

−い、いたのか、そこに。

−ゴホゴホ、ずっと前です・・・いやいや、そういう話を聞いただけです。

−そーかー?
 隅に置けないやつだな。ちゃっかり公主を連れ出して旅行するしな。

−ほー、気になりますか。気になるでしょう。そうでしょうねっ。
 ・・・でも、公主にもよかったと思いますよ。子供たちと遊んだりして、楽しそうです。

−そうか、それならよかったのだな。
 子供たちは、本当の天使にあったことを、いつか思い出すだろう。

−望ちゃん、もし公主に会ったら、どうしますか?
 もう、いきなり押し倒したらどうですか。

−おぅ、一度やってみたいな。飛びかかって、服をベリベリと・・・って、なんて事を言うのだ。
 よくそんなことを口にできるな。その立場で。子供たちが聞いたらどうする。

−大丈夫、その時にはきっと天使が現れて救い出すのですよ。

−ごきげんよう、さようなら。

−そう、公主に伝えたいことはありますか。
 公主にしてほしいこととか。

−話を聞きたいと思う。

−何を?
 これまであったこと?今?それともこれからのこと?

−さぁ、何だろう。公主が話したいことがあれば、それが聞きたいことさ。

−もし、なければ。

−もしなければ、その時まで待つだろう。できれば、そばで。

−伝えましょう。
−うどんではなくて。

−やっぱりやめときます。


 普賢、退場。

 太公望、しばらくたたずむ。やがて退場。

 











三匹の蛙の話が好きです。たんなる封神パロディー小説(死語かしら・・・)ということをこえて
伝わってくるものがあります。一つの「物語」という感じです。
「死ぬまでは生きなきゃいけないのよね」って所私も同じ意見だなー、とか思いました。
「考えることを止めないで」とか・・・・。
こういうことを、こうやって表現できることが、すごいです。
全体にただようユーモアもいいです。
あと、終わりの所の二人のやりとりが、好き! かっこいいです。
なにげないのに印象的で。 (草子)



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