交差

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「普賢はきっとお前のことが好きなんだよ」
玉鼎の言葉に、太公望は怪訝な顔をして振り返る。
「わしも好きだぞ」
当たり前だ、という太公望の口調。
「そう言う意味以上に、だ」
「……?」
太公望は一層いぶかしげな顔をする。
玉鼎の言っている意味がわからない訳ではない。
玉鼎が、いきなりなぜこんな話をするのかが分からないのだ。
「だから、あいつを不用意に傷つけないようにな……」
「……ああ」
なるほど、玉鼎なりの同僚への心配だったらしい。
意外と繊細な気配りをする。
太公望はしばらく考えてから、ふっと軽く息を吐いた。
「……安心せい」
「太公望……」
「わしはあやつを手放すことはできんよ……」
言い捨てるように、すぐさま太公望はその場を去っていった。
「……そうか」
玉鼎はほっとしたように、ひとり呟いた。

玉鼎からずいぶんと離れた地点まできた太公望。
「…………」
いきなり立ち止まり頭を抱えて座りこんでしまった。



「太公望はね、きっと君が好きだよ」
笑いながら言う太乙を、普賢はこちらも笑顔で見返した。
「なにそれ?」
クスクスと笑いながら、普賢は聞き返す。
「だーから、きっとあの子は君に惚れてるんだよ、わかる? 友達としてじゃないよ」
「へえ」
「へえ……って、驚かないの?」
太乙はじっと普賢を見つめる。
さっきから全く普賢の表情の変化はない。
相変わらずの笑顔だ。
太乙には、普賢の心情はさっぱり推し量れない。
「普――……」
「いいじゃない、どうでも」
「え?」
普賢はさらにニッコリと太乙に微笑みかける。
「望ちゃんは望ちゃんなんだし、僕は僕。変わらないよ」
「あ、そ……」
なんだか呆気にとられてしまった太乙。
「な、なんだかのろけられた気分だなあ」
「やだなあ、何言ってんの」
再び、普賢がクスクスと笑う。
「ま、いいや。じゃ、太公望がツライ思いすることもないね、よかった」
どうやら太公望の心配をしていたらしい太乙。
「それだけ、じゃね」
満足気な表情をして、普賢に手をふりながら太乙は去った。

太乙に振っていた普賢の手が止まった。
「…………」
そして普賢の顔にはいやな汗が流れていた。



まずい。
まずい、まずい、まずい、まずい。

太公望は一人、さっきからずっと考えを反芻していた。

わしは――――
普賢が好きだ。
しかし、性的魅力なんぞ感じるわきゃあない。
玉鼎の言った意味がそーゆー意味なら、これ以上にまずいことなんぞありはしない。
もし、こういうことで、そーなって、あーなって、決別してしまったら……
だああ―――――!!
わしは友達がおらんのだぞ!
たった一人の友人すら無くしてしまったら一人ではないかっ!
いやだ それだけはイヤだ!
シャレにならん淋しい男になってしまう!
ああああああ……どうしよう、どうしよう、どうしよう……



――――ヤバイよねえ……これって。

太乙に振っていた手を下ろすこともぜず、同じように普賢も考えをめぐらしていた。

僕は――――
望ちゃんが好きだ。
けど意味合いが違う。
望ちゃんが僕をそーゆー風に思ってたなんて……
はあ……
僕、友達いないんだよねー。
望ちゃんが唯一の友達だったのに……
やっぱりそーゆーことでゴタゴタしたら元の友達には戻れないよねえ。
それ、やだなあ。
淋しいし、友達いないなんて格好つかないじゃない。
え――……どうしよっかなあ……本気でヤバイなあ。



「げ」
「うわっ……」
数分後、ばったりと対面してしまった太公望と普賢。
二人ともさっき言われたことが頭をよぎる。
「…………」
「…………」
周りには誰もいない。
妙な空気が流れる。

――――とりあえず、自然に振舞おう。

そう思ったのは二人同時。
またしても二人の頭は、できる限りの回転をはじめる。



大体だな――――
まだ、はっきりと普賢もわしも意思表示されたワケでも、したワケでもないのだから、
状況に変化はないはずだ。
お、そうだ。
このままうやむやなまま、関係を続けてゆけばいいではないか。
それなら一人っきりになることもないし、男の恋人ができるわけでもない。
よし、それでいこう!
いや? まてよ……しかし、やっぱりハッキリしてやらないと普賢は辛くて逃げだすか?
それでは結局わしのこの苦労は無駄ではないか。
…………
…………
……くそお!


――――やだなあ。
なんか意識しちゃってるじゃない、僕。
別にまだ望ちゃんに何を言われたわけでもないもん、普通にしてたらいいのに……
太乙のせいだ、全部。
ムカツク。
あー、やだなあ、望ちゃんとは離れるのはイヤだし、かといって望ちゃんと出来ちゃうのはもっとイヤだ。
そうだ、相手が何言ってきてもかわしていこう。
うん、そーゆーの得意だし、それでいこう。
あ、でも、もし思いっきり意志表示されちゃったらどうしよう。
逃げ切れなかった時とか……
断るのは……できないなあ。
傷つけたくないもんね。
…………
…………
……しょうがない、かあ。


「お、おお、普賢」
「や、やあ、望ちゃん」
気合を入れて向き合う二人。
「…………」
「…………」
さっき以上に妙な空気が流れる。
やっぱりこの雰囲気が苦手な太公望。
「ふ、普賢! 実はなおぬしに言いたいこといが……っ!」
耐え切れなくなって覚悟を決めて行動を起こす。
「な、何かなっ!?」
同時に普賢も覚悟を決める。
互いの気合がマックスに到達した。
「普賢好きだっ!! ちくしょ――――!」
「わ――――!! 僕もだよ! 望ちゃん!!!」
血の涙を流さんばかりの愛の語らいだった。


「よかったねえ、よかったねえ……普賢、太公望」
「うむ」
「いいもんだなあ、友情から愛情へ、か……」
「こーゆー愛もあるのだのお」
影から覗き見している十二仙たち。
太乙と玉鼎は特に感慨深いようだ。
半泣き状態な普賢と太公望をほっぽいて、なにやらシアワセな気分な十二仙たちだった。


そして、当の二人は息をきらしながらガックリとうな垂れていた。
自己犠牲とボランティア精神を見せた二人の末路だった。

 

 









 

「ペケ」でこういうネタがあるそうな……(パクリ先もくわしく知らんたあ……)
元ネタ好きな方ごめんなさい。
元ネタ見たことないんです。
っていうか、草子さんの4コマに触発されたかな――――って感じ。
うふふふふふふふふふ(こわい)





「出来ちゃうのはもっとイヤだ」・・・・うん。確かにイヤ(笑) 
あー。もう愛と友情にあふれてて泣けますね。こりゃあ。
爆笑しました。声出して笑いました。
これ、オチ最高ーーーーーー!! な、何かなっ?! とか、好きだ、ちくしょー!とか
わーー! 僕もだよ! とか。涙滲みそうなセリフの一つ一つが非常にツボですわ。
十二仙が揃いも揃って頭悪そうなところがまた良いですね。 
私、砂糖さんの書く普賢大好きだわ・・・・・ 性格悪そうっていうか・・・・(笑)
ほら、口調とかさ。なんかイイよなあ・・・・・
(草子)





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