私の可愛い子。大切な子。愛しい子。優しい子。強く、強く生きなさい。











《傷》












 

「母上」

呼ばれて振りかえれば、テコテコと自分のあとをついてくる子供が一人。
ナタクというその子供は、殷氏の産んだ子供だ。
屈んで自分のところまでナタクが来ると、優しく抱きしめる。

「なあに、ナタク」

「母上、どこ行くの?」

寂しそうな顔で言うナタクに、ちょっと嬉しくなった。

「あら、寂しいの?ナタクは甘えん坊さんね」

「違うよ―」

顔を赤くして言うナタクに優しく口付ける。

「大丈夫よ、どこにも行かないわ。ちょっと外に行くだけよ。ナタクも行く?」

殷氏の言葉に、パアッと顔を輝かせて頷いた。

「うん!!」

「そう、なら行きましょう」

殷氏は、ナタクの手をとり、裏庭へと出て行った。





裏庭には、蝶々や、スズメ、リスや蜻蛉がいた。
普通、野生の動物は、人間が来ると逃げるのだが、ここの動物達は、二人の元へ来る。
懐いているのだ。
ナタクの肩にリスが、頭にスズメが、指先に蜻蛉が止まった。
殷氏には、たくさんの蝶々が寄っていった。

「はは、くすぐったいよ」

リスが頬に擦り寄ってきて、毛が頬にくすぐったい。
しかし、嫌ではなかった。自分意外の体温を感じると気持ち良いから。

「わ!!」

突然頭上のスズメが飛び立ったのでビックリした。
危うくこけてしまいそうなところで何とかもちなおした。

「ビックリした」

「ふふ」

殷氏は、そんなナタクを愛しそうに眺めていた。
周りには、蝶々がたくさんいて、どこかの妖精のようにも思える。

「母上、見て見て」

ナタクは、もう次の遊びをしていた。木に登り、こっちに呼びかけている。

「まあ、ナタク、危ないわよ」

「平気だよ」

そう言うと、スルスルと木から降りてきた。

「ね」

自慢気に微笑むナタクを見て、また可笑しくなった。
どうして笑われているのか解らないナタクは、首を傾げるばかりだ。

「ナタク、貴方顔に木の屑がついているわよ」

「え!!」

慌てて顔を触ってみると、確かについていた。

「あっちに行って顔を洗いましょう」

「うん」

手を繋いで、噴水の方へと向かった。

バシャバシャ

「ふう。綺麗になった?」

「ええ、顔を拭かないとね」

そう言うと殷氏は、自分のハンカチでナタクの顔を拭いた。

「む・・」

ちょっと顔をしかめたナタクを見て、どうしたのかと思えば、頬に傷がついていた。

「まあ、ナタク、これどうしたの?」

「え?いっ!!」

殷氏が頬の傷を触ると、また痛そうに顔をしかめた。

「あ、ごめん。大丈夫?」

「大丈夫だよ、母上」

にっこり微笑んだが、凄く痛そうだ。

「そうだわ、ちょっと来て」

殷氏は、ナタクをずるずると引っ張って行った。

「は、母上?」

着いた先は、殷氏の部屋だった。
そして殷氏は、ナタクを適当に座らせると、何やら箱を取り出した。
その中から、貝の入れ物を出した。

「これを塗るといいわ」

「何?これ」

「これはね、お母さんの家に伝わる薬よ、たくさんの薬草を混ぜて作ったものだから、
すぐに良くなるわ」

そう言うと、殷氏は、ナタクの頬の傷にそって薬を塗り始めた。
痛そうだが、腫れてはないので心配いらないだろう。

「さあ、これで大丈夫よ」

「母上」

「なあに?」

「ありがとうございました」

「あら、どう致しまして」

二人でくすっと笑った。

 






―数ヶ月後

ナタクは見る間に大きくなっていた。

「ナタク、こっちに来て」

「?母上?」

どうしたのかと思いながらも、素直に殷氏のところへ行った。
ナタクの頬に触れながら、ホッとしたように言った。

「ああ、もうだいぶ良いみたいね」

「もう随分経つから・・・・」

「そうね。ナタクも大きくなったわねぇ」

「・・・」

「それにあまり喋らなくなったみたいだし」

「そんなこと」

「あら、口数少なくなったわよ。何かあったの?」

「何もない・・・」

「そう?なら良いんだけど」

「母上・・・」

「なあに?」

「・・・・なんでもない」

「変な子ね。ナタク、もっとこっちに来て」

招かれるままに殷氏のところまで行った。

「大丈夫よ、お父さんはあなたが嫌いなわけじゃないから」

「!!」

頭を撫でながらそう言った。ナタクはビックリして殷氏を見た。

「どうして・・・・」

「どうして?だって私は貴方の母親ですもの」

当たり前のようにそう言った。

「母上、ありがとうございます」

「どう致しまして」

変わらない、礼儀正しくお礼を述べるナタクに、殷氏も答えた。

「貴方は、貴方の思ったように生きなさい。何にも流されない、そんな強い子になりなさい」

「解った」

殷氏はナタクを抱きしめた。
殷氏の良い香りがした。自分はこの人を守りたいと思った。
そして、必ず守ってみせるとも思った。








優しく自分を包んでくれる母上を守りたい。強く、なりたい。大事なものが守れるくらい。














作者の遠吠え

短いですね。ごめんなさい。
最近長いのが書けなくて(汗)草子様、こんなので宜しいのでしょうか?
何だかリクエストに添えてなっていないような気がしないでもないのですが。
うけっとって下さり、ありがとうございます。これからも何卒宜しくお願いします。
これを読んで下さいました皆様、ありがとうございました。
短いうえに何が何やら分からないこんなのを読んで下り、本当に、ありがとうございました。



草子の感想

殷氏――――好き好き!
ナタクになりたい(涙)
いや、このナタクも、素直でとってもかわいいけどさ。
ありがとうございます、どういたしまして、と二人で言いあってにっこりと笑う二人が
いいよう! 仲良しでとってもとってもすごくカワイイ親子!
そして何より、母親な殷氏が好き。
何も言わなくても、ナタクの考えてることを当たり前のように知ってて
「大丈夫よ」と微笑む殷氏が。
大げさな愛情表現じゃなくって、ふわっと包み込んで安心させるような愛情ですよね。
出だしの殷氏からナタクへの言葉、そしてそれに答えるかのような終りのナタクの言葉の
対照が胸に残ります。特に出だしが好きいいい! なんの迷いもなくナタクのことを
優しい子、という殷氏ちゃんが好き。自分の子供のこと誰よりも知ってて愛してるのですね。
彌羅さん、いつもいつもどうもありがとうございます!
はあ・・・・親子ネタも・・・・ツボかもしれない・・・・
この親子いいよ!!
いいなあ・・・本当に。






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