キミとアナタと風舞いし空に
「わしは・・・ッ、わしは今までおぬしを殺す事だけを考えて生きてきたッ」
吹き荒れる風の中、太公望は宿敵を睨み据えて叫ぶ。
いや、睨んではなかったのかもしれない。握り締めた打神鞭のひんやりとした感触だけが唯一自分を保っているように思える。
「あらん。じゃあ、あなたは今までの人生でわらわだけを愛し続けていてくれたのん?」
「ほざけ!!何処をどうしたらそう解釈できる!!!おぬしはワシから大切なもの全てを奪った!!絶対に殺してやる!!!!」
握り締めた打神鞭から吹き荒れる風はだんだんと威力を増していき、仲間さえ近寄らせない。意識してか無意識なのか仲間を遠ざけ、ほぼ密室のような風の壁で四方を取り囲む。
「・・・そんな震えた手じゃわらわは殺せなくってよん?太公望ちゃん・・・」
すぐ隣で声がして振り向くと正面で笑っていた筈の彼女はすぐ隣で優しく微笑んでいた。
そしてそっと触れられた自分の両手がガタガタと震えていた事に気付いた。
「・・・・・・いつもいつもわらわの事だけを考えて焦がれるようにわらわだけを追い求めてそしてその『終わり』を共に死で終わらせたいんでしょん?あなたはそれを『憎悪』と呼んでいるけれど、それをね『人間』は『愛』って呼ぶのよん?」
涙が溢れてきた。流れる涙は己の風に吹き飛ばされて頬を流れる前に粒となって吹き飛ばされていく。目の前でフラッシュバックするのは幼いあの日の自分と守れなかった者達。
しかし、涙がどんなに溢れてきても猛り狂う風は止まずただ吹き荒れる。
「何故・・・。何故おぬしはあのジョカとかいう『モノ』に従っておるのだ?」
「あらん、それって嫉妬?嬉しいわん。でもねぇ、従ってるんじゃないわん。あの方とわらわは『共犯者』なのん」
いつもの人を嘲り笑うような笑みで彼女は太公望の細い首に自分の白く細い腕を絡ませる。
その仕草に呆けたように太公望は掠れた声で呟いた。
「おぬしとあやつは『対等』という事か・・・?」
「そう思ってくれても構わないわん」
いつも通りの否定も肯定もしない曖昧な答え。
その答えにクスリ、と笑って太公望は弱々しく呟いた。
命令でもなく質問でもなく独り言でもなく意味もなく言葉を繋げる。
「ワシと共に死んではくれぬか」
「いいわよん」
即答にも近いその答えにパッと太公望は顔を上げて彼女を見据えた。
「・・・でも、いいのん?あなたの事を待ってる人はたくさんいるんでしょん?
わらわなんかと心中してその人達を悲しませたりなんかしてもいいんのん?」
わざと惑わせるように彼が守ろうとした者達を引き合いに出す。
しかし、彼はだまって首を横に振った。
「構わぬよ。ワシはおぬしの為だけに生きてきておったのだから。みんな分かってくれるであろうよ」
「そう?ならいいわん。一緒に死にましょう。わらわも疲れちゃったわん。それに太公望ちゃんと一緒なら絶対退屈しなそうだしん」
これが今まで死ぬ程憎んで恨んできた相手との会話なのかと考える事を止めてしまった頭の隅で少しだけ思ってから太公望は宿敵の頬にそっと触れてみる。
「ダメ。触らないで。その風でわらわはあなたに殺されたいの。だから風を止めないで。お願い」
「分かった・・・」
宿敵は「あはん」と少しだけ寂しそうに笑って妹達の名を呼んだ。
すると、哮える風の向こうから彼女の名が叫ばれていたような気がしたのは気のせいだったのだろうか。
「妲己よ。永遠に我と共に」
「ええ。この命は永遠にあなたと共に、太公望」
その次の瞬間、二つの魂魄が凄まじい閃光を放ちながら天を突き抜けていった。
それを『彼』が愛した者達も、『彼女』が愛した者達もその瞳に映してただ呆然とそれを見守った。
終わりを告げた『神話』の時代を呆けたように見つめながら周囲をただただ彼らが巻き起こした風の名残がすり抜けていく。
終わりを告げた『封神計画』。それは全てを『始める』計画だと誰もが信じて疑わなかった。
誰もこんなに『終わった』という事が寂しいモノだなんて思ってもなかった。
だって誰も『計画』が終わる日なんて来ないと思ってたから。
「・・・・・・これがあなたの追い求めていた世界なんですか・・・・・・・・・?」
誰かがポツリと呟いた。
終幕
《蛟の果たし状(む、無謀な・・・)》
あああああ!!何かヘボくてスミマセン〜。妲己ファンの人、ゴメンなさい〜〜。
もういい訳も何も致しません!!私がヘボいだけなんですから!!
最後の呟きは楊ゼンさんです。ホントは天化に言わせたかったんですケド、その天化はもういないから〜・・・(滝涙)。ちなみに果たし状はウソです。言い訳文です。
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