自信がないの

 






教えてください 私のするべきことを

教えてください 私がいても良い場所を

教えてください 私は必要ですか

教えてください 私に何ができますか





書類を抱えて回廊を歩いていると、後ろから声がした。

「たいこうぼう」

振り返ってみると、天祥がテケテケとこちらへ駆けて来ていた。

「なんだ?天祥」

太公望を見つけたのが嬉しかったのは、微笑みながら言った。

「えへへ、あのね、一緒に遊ぼう」
「う〜ん、もうちょっと待ってくれるか?これを片付けねばならんのだ」
「分かった。僕も手伝おうか?」
「いや、大丈夫だよ。天祥は何をして遊ぶか考えておいてくれるか?」
「うん!!分かった」

そう言うと、どこかへ行ってしまった。元気だな。と思いながら、自室へと脚をむけた。

「太公望」

数歩歩くと、暗い声が聞こえてきた。
何処からするのかとキョロキョロと周りを見まわしていると、柱の隅に蝉玉が居た。

「どうした?蝉玉」

「・・・・」

蝉玉には、いつもの元気が無かった。
何があったのか見当もつかない太公望は、とりあえず自室へ来て貰うことにした。
天祥との約束もあるので、この書類を片付けながら話を聞こうというのだ。

「蝉玉、とりあえずわしの部屋へ来い。話はそれからだ」

蝉玉は、コクリと頷いて、太公望の後に続いた。






自室へ着くと、蝉玉を椅子に座らせて、自分は仕事をするために机に向かった。

「話したくなったら話せ。それまでここに居ても構わぬ」

「・・・・・」

蝉玉は、コクリと頷いて黙った。
それを見た太公望は、今はまだ話せないのだなと思い、仕事に取り掛かった。
蝉玉はそんな太公望をチラッと見て、無理に聞き出さないのだと分かって少しホッとしていた。
自分が太公望のところへ来たのは、少し自信がなくなってきていたからだ。
自分は、何も出来ないのに、ここに居ても良いのかという気持ちが、最近強くなっている。
太公望なら、何か答えを出してくれるかもしれないという期待があったのだ。
しかし、いざ本人を目の前にすると、言いにくいものである。
太公望が、待っててくれると言ってくれたのは、嬉しかった。

「・・・ねえ・・・・」

「なんだ?」

仕事をする手を止めて、蝉玉を見る。話す気になったのかと思ったのだ。

「・・・・なんでもない」

「そうか・・・・・」

どうやら、まだ決心がつかないようだと見て、また仕事を始めた。
蝉玉は、少し困った。
あの意志の強い瞳で見られると、何だか自分がとても弱い気がする。
そんな彼の瞳から逃れる為に蝉玉はまた口を閉じてしまった。




あれから何分が過ぎただろう。
太公望の仕事は、ほとんど終わっていて、今最後の一枚をしているところだった。
早く言わないとそう思う心はあるものの、自分がここに居なくても良いと指摘されるのが
たまらなく怖い。

「あ・・・・」

「うん?」

太公望は、仕事の手を止め、蝉玉を見た。蝉玉は、顔を上げず、瞳を見ないようにして、
話そうとしたが、視線を感じて、どうも上手く舌がまわらない。

「な、なんでも・・・・ない」

「・・・そう・・・か」

そして、太公望は、最後の書類を書き終えた。

「これで、今日は終わりじゃ」

筆を置き、書類を周公旦のところへ運ぼうとして、天祥との約束を思い出し、
蝉玉に頼むことにした。

「蝉玉、悪いが、後で天祥が来ると思うから、暫く待っていてくれと伝えといてくれるか?」

「え、あ、うん。分かった」

「頼んだぞ」

そう言うと、太公望は書類を抱えて出ていった。
何だか、凄く疲れた気がする。
まだ何も話してないのに、たまらなく疲れたような気がしてならない。
太公望のあの瞳が怖い。少し泣きそうだ。
その時突然扉が開かれた。

「太公望―。考えたよー」

天祥だ。

「あ・・・天祥、太公望今ちょっと居ないから待っててくれる?すぐ帰ってくるから」

「あ、蝉玉お姉ちゃん。なんだ、太公望居ないんだ」

「うん、でもすぐ戻るからここで待っててくれって言ってたわよ」

精一杯の笑顔で言ったつもりだった。天祥に心配をかけるわけにはいかないから。

「そっか。あ、蝉玉お姉ちゃんも一緒に遊ぼ!!」

「あ、わ、私はいいわ。今日は・・・止めとく」

「そう?どうしたの?いつもの蝉玉お姉ちゃんらしくないよ。大丈夫?」

「大丈夫よ。心配してくれてありがと。天祥」

そう言って天祥を抱きしめた。小さな体は自分の腕にすっぽりと入った。
温かい天祥の体。

「おお、天祥」

天祥が開けたままの扉から太公望が入ってきた。蝉玉の体がビクッと震えた。

「あ、太公望」

「待ったか?」

見た筈なのに、太公望は知らないフリをしてくれた。天祥は、気付かなかったらしい。

「して、何をして遊ぶのじゃ?」

「えっとねえ、遊ぶのやめて、稽古つけて」

「へ?」

「太公望って強いんでしょ?僕太公望に何か教わりたいんだ」

「う〜ん」

「だめ?」

「・・・ま、良いだろう。では天祥、裏庭で待っててくれ。少し片付けてすぐに行く」

「わかった!!」

そう言うと天祥は、蝉玉の腕を優しく退けて部屋を後にした。
残ったのは太公望と自分。

「・・・蝉玉」

「」

「無理には聞きたくないのだが、どうしても言う気はないのか?」

太公望の思いのほか優しい声に少し顔を上げる。
自分を優しく見つめている瞳があった。今なら言えるかもしれない。

「あ・・・あのね・・・っ」

涙が零れた。話そうとしたのに。

「蝉玉・・・」

太公望はそっと蝉玉を包んだ

「ふっ・・・ふえ・・・う・・・っく」

太公望は背中をトントンと叩き、頭を優しく撫でた。

「あ、あの・・・ね」

「うん」

「こ・・怖かったの」

「どうして?」

「・・・だ・・・だって私・・・何も出来ない」

「・・・」

「強くないし・・・政も出来ない」

「どうしてそう思う?」

太公望の言葉にバッと顔を上げた。

「だ、だってそうじゃない・・・わ、私・・・いらないんじゃ・・・ないかなって」

「・・・・・」

「私・・・自信がないの」

「なんの?」

太公望は蝉玉の涙をそっと拭きながら言った。

「皆についていく自信が・・・・」

「・・・」

「皆何かしてるのに・・・私は何もしてないの・・・」

「そうか?」

「そうよ。ねえ太公望、教えて。私は必要?私はここにいても良いの?」

縋るような気持ちだった。もし太公望に否定されたら、自分はきっと壊れてしまう。

「蝉玉、お主は必要だし、お主はここにいても良いのだ」

「どうして?私何も出来ないのに」

「何ができるとか、そういうのじゃなくて、お主は周りに元気を与えているのだよ。
お主と会うと、もう少し頑張ってみようという気になるのだ」

「そんなこと・・・」

「蝉玉。わしはお主に何かしてもらいたいのではないのだよ」

「でも」

「お主が元気でいてくれれば良いのだ」

「元気で・・」

「そうだ。お主の笑顔を見ると、何だかホッとするから、お主には笑っていてもらいたいのだよ。
時に悩んで、時に泣いても、また立ち直る強さがお主にはあるのだから。
蝉玉、お主はここにいれば良い。いや、いてくれ」

「・・・分かったわ」

「そうか」

「ありがとう、太公望」

笑顔で言った。太公望も笑顔で応えてくれた。

「そうだ、お主は笑っていたほうが良い」





私はここにいる 微笑んで

私は必要とされている 笑って

私にもできることがある 元気な顔

笑顔 それが私のするべきこと








 




作者の遠吠え

ごめんなさい。書けませんでした。
草子様、せっかくリクエスト頂いたのにごめんなさい。
こんなのしかできませんでした。本当に申し訳ありません。お許し下さい。(汗汗)
こんな駄作を読んで下さいました皆様、ありがとうございました。
もっと上手く書けるように日々精進します。本当にごめんなさい。




草子の感想

いっつもノリノリでイケイケ(ふっる!)な蝉ちゃんが、見事にかわいらしく
乙女です(笑)
彌羅さんの書く人物は、いつもいつも誰かのことを思って心を痛めたり迷ったり。
でも最後には誰かに救われて、自分の居場所を見つけてがんばれる。
空気がやさしいです。とっても大切なことや柔らかさを思いだせる感じがします。
太公望がまたまたかっこいい! そして大人!
蝉ちゃんがとっても可憐でかわいいです。
題名も好きです。
彌羅さん、どうもありがとうございました!





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