偽りの姿達
「どうしても・・・逢いたくて」 「私はかまわぬ・・・必要とするならばいつ如何なる時でも・・・」 部屋の入り口に立った太公望に公主は驚いた様子もなく、優しく招き入れた。 窓ぎわの椅子に腰をおろしていた公主は明かりもつけずただ月を眺めていた。 普段の何倍も・・・綺麗で・・・魅了される・・・ これ以上踏み行ってはいけないような気がした・・・ これ以上近づけば・・・
離れなくなりそう―――――――
「んっ?どうしたのだ。そんなところに立ってないでこちらに座ったらどうだ?」 顔を少し傾けて公主は太公望の顔を覗き見る。 「あぁ、」 「月が・・・綺麗だ・・・。」 公主が静かに口を開いた。 「私は・・・月が嫌いだ・・。」 「えっ?」 太公望は神秘的な雰囲気を持つ月はどこか公主を 「どうして月は形を変えるのだろう?見る度に変わってゆく姿・・・ 公主はすっと白い手で月を隠す。 「綺麗で・・・ただ綺麗なだけで・・・寂しい。 太公望は月を眺める公主の顔が今までとは違う風に見えた。 太公望は心を痛めた繊細な公主の顔をそっと撫でた。
自分と公主の違い、それは 男と女の違い――――
手一つにしてもそうだ。 太公望は胸を締め付けられた
【自分との違いを確かめたい】
そう思ったとたん、身体がおかしくなった。 ゆっくり瞼を閉じてその柔らかな唇を
【確かめたい】
「んっ・・・」 公主は抵抗する様子もなく太公望を受けとめた。 強く自分に引き寄せた。 後ろにまわされた太公望の手から力がぬけ、唇が離れた。
「・・・・・太公望・・」 公主が名前を呼ぶ。 「なんだ・・・?」 返事をすると応対はなく沈黙が流れた。 「・・・このことは・・誰にも言わないで欲しいのだが・・・」 「もっもちろん、二人だけの・・・秘密だ」 「ありがとう、太公望」
『二人だけの秘密』
わしは誰にも言わない いや、誰にも言えない・・・。
一言でも口にしたらお主はわしの手の中からすり落ちていきそう
だから決して言わない 言うことなど恐くてできない
この幻のようなこの時―――――まるで夢
一生さめることのない夢でありたい
でも、わしは知らなかった。 わかるはずがなかった。
この夢が夢で終わってしまうことを――――――
まず、読んでいただき有り難うございます。 |
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