偽りの姿達

 


 

 

 

 

「どうしても・・・逢いたくて」

「私はかまわぬ・・・必要とするならばいつ如何なる時でも・・・」

部屋の入り口に立った太公望に公主は驚いた様子もなく、優しく招き入れた。
太公望が部屋に訪れたのは今晩が初めてではないようだ。
静かに戸を閉めて・・・太公望はゆっくり公主に歩み寄った。
部屋には優しい香りが漂っていた。
肩に重くのしかかっていた何かを軽くすっと和らげてくれる。

窓ぎわの椅子に腰をおろしていた公主は明かりもつけずただ月を眺めていた。
その美しく整った公主の顔は月明かりに照らされていつもよりも美麗で神秘的に見えた。
その姿に太公望は思わず立ちすくんだ。

普段の何倍も・・・綺麗で・・・魅了される・・・

これ以上踏み行ってはいけないような気がした・・・

これ以上近づけば・・・
これ以上知ってしまったら・・・

 

         離れなくなりそう―――――――

 

「んっ?どうしたのだ。そんなところに立ってないでこちらに座ったらどうだ?」

顔を少し傾けて公主は太公望の顔を覗き見る。

「あぁ、」
太公望は公主に静かに近づき寄る。

「月が・・・綺麗だ・・・。」

公主が静かに口を開いた。
月を眺める公主の目はとても儚げで今にも壊れてしまいそうだった。
少し悲しそうにも見えて太公望は自分の手に力が入るのがわかった。

「私は・・・月が嫌いだ・・。」

「えっ?」

太公望は神秘的な雰囲気を持つ月はどこか公主を
思い出させていたから公主の言葉に驚いた。

「どうして月は形を変えるのだろう?見る度に変わってゆく姿・・・
 かわりやすくて、不安定な・・・人の心をうつしたみたいだ。」

公主はすっと白い手で月を隠す。
そしてゆっくり続けた。

「綺麗で・・・ただ綺麗なだけで・・・寂しい。
 まるで容姿だけを気にした・・・人の心みたいで・・・。
 私はどうしても月が好きになれない」

太公望は月を眺める公主の顔が今までとは違う風に見えた。
今見ている公主の姿が本当の姿・・・
もろい人の心をうつしだした月に胸を傷め、今にも割れてしまいそうな硝子細工の心。
月を眺め自分と照らし合わせて何を思っているのだろうか。
何を感じているのだろうか。

太公望は心を痛めた繊細な公主の顔をそっと撫でた。
白くて綺麗な頬は少し爪を立てただけで傷つきそうなくらい柔らかくて弱かった。

 

自分と公主の違い、それは

男と女の違い――――

 

手一つにしてもそうだ。
女性の手はなんて小さくて細いのだろう
白くて柔らかい雲のように
そっと包みたくなる

太公望は胸を締め付けられた

 

【自分との違いを確かめたい】

 

そう思ったとたん、身体がおかしくなった。
確かめてみたい衝動に必死に抵抗するがいとも簡単に崩れ落ちて気がつけば
自分と公主の距離を縮めていた。
自分の顔が公主に近づく。

ゆっくり瞼を閉じてその柔らかな唇を

 

    【確かめたい】

 

「んっ・・・」

公主は抵抗する様子もなく太公望を受けとめた。
真紅の唇が太公望の唇と重なる
離れられないくらい、隙間がないくらい、

強く自分に引き寄せた。

後ろにまわされた太公望の手から力がぬけ、唇が離れた。

 

「・・・・・太公望・・」

公主が名前を呼ぶ。

「なんだ・・・?」

返事をすると応対はなく沈黙が流れた。
沈黙の中、二人は顔を見合わせるとふっと笑いがこぼれて沈黙を壊した。

「・・・このことは・・誰にも言わないで欲しいのだが・・・」

「もっもちろん、二人だけの・・・秘密だ」

「ありがとう、太公望」

 

   『二人だけの秘密』

 

わしは誰にも言わない

いや、誰にも言えない・・・。

 

一言でも口にしたらお主はわしの手の中からすり落ちていきそう

 

だから決して言わない

言うことなど恐くてできない

 

この幻のようなこの時―――――まるで夢

 

一生さめることのない夢でありたい

 

 

 

でも、わしは知らなかった。

わかるはずがなかった。

 

この夢が夢で終わってしまうことを――――――

 



 







*あとがき*

まず、読んでいただき有り難うございます。
そしてごめんなさい。(--;)絡みが少ないことに対して(笑)
そして勝手に続くことを。
一つにまとめる予定でしたが、間があいた方が急転回をごまかせるかなっと思いまして(^^;)
前編はダークじゃないですが、後編はダーク・・・だと思って書きました。
だからダーク、のハズ(汗)
うーん、とにかく勉強の成果がでなかった!
まだ勉強が足りないようです!もっと頑張ります。
(だから見逃して下さい・爆)



もどる