《自分にできること》


 

 

 






その日、崇黒虎は少し沈んでいた。準備が整い、西岐城に連絡に来ていた。

「太公望、準備が整ったよ、いつでも出陣できるよ」

「そうか、ありがとう。お主も少し休んでおれ」

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

「ああ、そうしろ、疲れただろう」

「う〜ん、まあね」

「では、部屋を用意させよう、そこの者」

呼ばれた侍女は、パタパタと太公望のもとへやって来た。

「はい、何でしょう」

「こやつを部屋に案内してやってくれ」

「わかりました。こちらへどうぞ」

「あ、ありがとう」

そして、崇黒虎と侍女は、客室へと向かった。

 



客室は、広過ぎず、狭過ぎず、ちょうど良いくらいの広さの部屋だった。

「では、何かありましたらお呼び下さい」

「あ、どうも・・・」

侍女は一礼して、部屋を後にした。崇黒虎は、ベッドにゴロンと横になった。

「はあ、疲れた」

ずっと空気が張り詰めていた気がしていた。太公望もどこかピリピリしていたようだった。
一人になってやっと気を抜くことが出来た。仕方ないのかもしれない。
立ち向かう敵はあまりにも強大すぎるから。
太公望は、立ち向かうものの中心だ。
余計に気苦労があるだろうし、彼は犠牲というのが大嫌いだから、どうにか少ない犠牲ですむよう、
考えるだろう。
敵の強さに比例するように犠牲が伴うことは分かっているが、考えずにはいられないのだろう。

「あんまり無理しないで欲しいなあ」

彼のことを考えると胸が痛むのは何故だろう。
封神計画という膨大な計画に携わっている彼は、何人にも心を開かない。
例外をあえて述べるなら、彼と同期の、普賢真人だろう。
彼といる時太公望はきっと楽なんだと思う。
自分は太公望とあまり話したことがないので、彼の全てを知っているわけではないが、彼の強さは知っているつもりだ。

「僕に何が出来るかなぁ?」

彼の力になりたい。彼を守りたい。
しかし自分はあまりにも弱すぎる。
妲己という強大な敵のまえでは、赤子に等しいだろう。
力が欲しい。
守りたいものが守れる力が。
望んだところ力がつく訳ではないのに、望んでしまう。
色々考えているうちに瞼が重くなってきた。

「ねむ・・・」

そういえば、最近寝てなかったような気がする。
ベッドにさえ入ってなかったので眠気が襲ってきたようだ。

そして崇黒虎は眠りについた。

 





―夕刻

―コンコンー

ノックの音で目が覚めた。

「あ、は、はい」

「失礼します」

入ってきたのはこの部屋に案内してくれた侍女だった。

「夕食の準備が整いましたので、食堂へお連れします」

「え、良いの?」

「はい、太公望様が仰っていました」

「そう、太公望が・・・」

忙しいだろうに自分のことなんかを気遣ってくれたことに嬉しくなった。

「じゃ、頂きます」

「はい、ではこちらへ」

崇黒虎は侍女についていった。
ついた食堂には二人分の食器しかなかった。

「あれ?他の人達のは?」

「他の方々はもうお食べになりました」

「あ、そうなんだ。これは?」

崇黒虎が指したのは自分以外のもう一つの食器。

「それは太公望様のです。太公望様はいつもこの時間に御召し上がりになられるのです」

「そうなんだ。遅いんだね」

「そうなんです。では、お食事を運んできますので暫く御待ち下さい」

「ありがとう」

侍女は一礼して厨房の方へと向かった。それと入れ替わるようにして太公望が来た。

「おお、崇黒虎、良く休めたか?」

「ええ、おかげさまで」

「それは良かった」

そして太公望は向かい側の席に座った。
食事はすぐ運ばれてきた。

「いただきます」

そう言って一口食べてみる。

「おいしい」

「そうだろう、ここのシェフの腕はかなり良いからな」

「へえ」

二人は、盛られた量全て食べた。

「ごちそうさま、美味しかったよ」

食器を取りに来た侍女にそう言うと、嬉しそうに微笑んだ。

「お主、いつ帰るつもりだ?」

「明日には帰ると思うよ」

「そうかもっとゆっくりしていけば良いのにのぅ」

「はは、ありがとう。・・・太公望、君は妲己に勝てるのかい?」

言った後ですぐ後悔した。
太公望が少し寂しそうな顔をしたから。しかしそれは一瞬で、またいつもの彼に戻った。

「さあ、それは分からぬのぅ。まだ何もやってないから。ただ・・・」

「ただ?」

「やるからには全力を尽くす」

強い眼差し。真っ直ぐ現実を見据える瞳。
悲しみを乗り越えた心。重すぎる運命(さだめ)に立ち向かう意志。
自分にはないものをこの人は持っている。
自分では、この人の力にはなれない。そう思わせられる。
そしてありきたりの言葉で言う。

「そうだね、やるだけやってみよう」

遠すぎる。
近くにいるのに手の届かないところにいる。
見えない壁が立ちはだかる。

「そのためには、お主の力が必要だ」

「え?」

本当に驚いた。だって僕には強い力も、強い宝貝もない。

「お主の頭脳が必要だ。よろしく頼むぞ」

「う、うん!!」

そうだ、何も力が全てではない。僕にできることはある。彼の言ったことを忠実に遂行すること。

「改めて、宜しく」

すっと出された手を、しっかりと握る。

「こちらこそ」

二人一緒に微笑む。

 

 

 

 





―了―

 

作者の遠吠え

こんなので良いでしょうか(否駄目だろう)ごめんなさい。こんなのしか書けませんでした。(汗)
草子様、せっかくリクエストしてくださったのに申し訳ありません。
(滝汗)そして、受け取ってくださいましてありがとうございます。
これを読んで下さいました皆様、ありがとうございました。こんなのですみません(汗)    
逃亡



草子の感想

や――ん、黒虎だ―――(感動)
なんかね、セリフの端々から黒虎っぽさが感じられて、むぎゅって抱きしめたいです。
はあ・・・かわいい・・・泣けてくるほどかわいいよう・・・かわいいよう!
力の抜けたしゃべりかたとか、しょんぼりする描写とか、ひたむきな言葉とか
私の黒虎好きのツボをもろ刺激です(笑) ホントかわいい! 好き! やっぱ好きだ! 
この師叔もなんだかオトナっぽくってまた新鮮な魅力。
終りかたがあっさりしてるのに印象的でまたまたすっごく良いですなっ。
こちらこそ、と言って二人で微笑む・・・爽やかでかわいくて胸に残ります。
ああ・・・私さ、女好きだけれども、男の子も良いね。良いね!
ほとんど出てないキャラなのに、こんなに魅力的に書いて下さって本当に本当にうれしいです。感動です。
彌羅さん、どうもありがとうございましたあ!





もどる