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◇ ◇ ◇ 愛のしるし

 

 

 

 

 

 

 

わたしの言葉はウソばかり

だから言わないわ

本当の事ほど言わない

けどね―――――

 

 

 

 

 

 

「あらん、貴人」

「!!」

貴人とよばれた人物は驚いたように降り返った。 
実は楊ぜんだったりする。
現在、王貴人に変化中。
太公望の命令で、殷の宮中に忍び込んでいる。
が、いきなり大物と対面してしまった。

「あ、妲己姉さま……」

妲己である。
妲己の部屋に潜り込んでいた最中だったのだから、当然といえば、当然かもしれない。
「どうしたのん?」
「い、いいえ、なんでもないわ、姉さま」
焦りをなんとか隠し、貴人の演技をする楊ぜん。
「ヘンな子ねん」
一瞬妙な顔をしたものの、すぐに笑顔になる妲己。
そして楊ぜん近づいてくる。

「ふふ、貴人……」

すぐ間近かに寄ってきた妲己。
手を貴人の顔をしている楊ぜんに当てる。

「あ……」

とても優しく。

楊ぜんが、こんなに近くに妲己を感じたのは初めてだ。

漂う色香。
妖艶な容姿。
そして、そこに浮かんだ―――――笑顔。

きれいだ。

楊ぜんは、素直にそう思った。

「ふふ、どうしたのん?」
「あ……ううん、なんでも……」
と言いつつも、妲己から目が離せない楊ぜん。

―――――こんな顔をする女だっただろうか。

楊ぜんは遠い記憶にある妲己を思い出す。
彼女はもっと人を見下すように笑った。

「今日のあなたは口数が少ないわねん」

けれど、今、楊ぜんの目の前にいる女は、全く違う。

「いつもはあなたのほうがもっと喋るのに……」
今度は貴人の髪に手をやる妲己。
同じようにやさしく撫でる。
「そ、そうかしら……」
「ええ、なんだかヘンな感じ……でも―――――」

そして妲己は軽く口付ける。

柔らかい。
そして、甘い。
唇だけでなく、態度や、かもし出す空気があまりにも甘くて優しい。

「たまには、こういうのもいいわねん」
「姉さま……?」
「かわいい子……あなた以上に大事なものなんてこの世にはないわん」
柔らかい口調ながらも、真実味にこもった妲己の声。
「ふふ、今日はあなたの変わりにわらわが言ったわよん」
なにやらこっちまで暖かい気持ちになってきた。

が―――――

「妲己姉さま―――――」

「!!」

その雰囲気にいきなり響く女の声。

「居るの? 入るわよ」

声の主は――――本物の貴人。
バタン、と音がして扉が開かれた。

「……!!」

楊ぜんと貴人。
同じ顔同士、目が合う。
「…………」
妙な間が流れる。

「あら、貴人」

いきなり響いたのは、妲己の明るい声。
「ね、姉さま……? 何なの、これって……」
本物が尋ねる。
「あはん、今、喜媚と遊んでたのよん」

「へ?」

思わず口に出したのはニセモノの方。
「やだ、喜媚姉さまなの? 私に化けなくたって……」
「ふふふふ」
妲己と貴人の笑い声が響く。
「でも喜媚もまだまだねん、わらわは一発でニセモノって分かったわん」

「ね、姉さまにはバレバレっ」

ヴィン……

楊ぜんは喜媚に姿を変える。

なんだかよく分からないが、この流れに乗れば、この場は乗り切れそうだ。
「面白かったっ、んじゃあ、喜媚はもう行くっ」
楊ぜんは、そそくさと退場しようとする。

「あ、喜媚、ちょっと……」

妲己が、その楊ぜんの腕を掴み引き寄せる。

そして、耳元で―――――

「わらわも楽しかったわ、―――――楊ぜん―――――」
と呟いた。

バタンっ……

と音を立てて、喜媚のまま楊ぜんは出ていった。

 

 

「ずるいわ、喜媚姉さまとだけ遊んで」
部屋に残された妲己と本物の貴人。
「あら、いやだ、喜媚にも妬くのん?」
「そうよ、姉さまが大好きでこんなことでも嫉妬しちゃうの」
そう言ってにっこり笑う貴人。
「あなたはすぐに言葉にするのね……」
「姉さまは言わないのね」

「……そうねん。不安?」

「ちっとも。そんなことで不安になるような弱い繋がりじゃないでしょう? それに――――」

貴人はそっと妲己に近づく。

「それに、その分、私が言葉にするもの」

互いの額が触れ合うほど、顔を近づける。

「姉さまが大事、世界の誰よりも」

そして妲己は満足そうに目をつぶる。

 

 

 

 

 

わたしの言葉はウソばかり

だから言わないわ、本当のことほど言わない

けどね―――――

たまには言ってみないとね

気持ちのままに言葉にしてみるの

すっきりするでしょ、そのほうが―――――

 

 

 

 

 

「はあ―――……」
宮廷から抜け出した楊ぜん。
緊張の糸が切れたのか、壁を背に、ズルズルと座りこんだ。

「結局……妲己の手の上だったわけだ……」

妲己の発散のはけ口にされた楊ぜんだった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 砂糖大根さんのあとがき

意外に率直な貴人ちゃんと、意外にひねくれた妲己ちゃん(笑)
はあ……メルヘン……
はっきりゆって、ワタシはこういうのが大好きです(おい)
ドリームです。
おとぎばなしです。
男同士は笑いしか書けませんが、女同士はラブラブしか書けないようで(笑)
んで、ウツクシイ文章に挑戦。
が、細切れ(爆)

 

 

 草子の感動の言葉

はぁ・・・う・・・うつくしぃぃぃぃ――――
はっきりいって、私もこういうのが小躍りしたくなるほど大好き――――
文章がさらりとしてキレイ、すごくキレイ・・・こういう文章かなり好き――――
ああ・・・・でも何よりこの話は、妲己ちゃんと貴人ちゃんにつきますわな・・・
こ、この二人ってば・・・!!! ああ、なんてっなんてっ!
うぎゃっ、ふぎゃっ、もごもごっ・・・・(感激中)
すげーーーーーいいっす(感涙)死にそうっす。こんなツボにはまっていいのでしょうか?(大泣)

ラ、ラブラブ――――――!!!!

ところで楊ゼン君・・・妲己ちゃんの部屋でいったい何を?
下着ドロかっ?(笑)
そして太公望は一体何を楊ゼンに頼んだんだ?
楊ゼンへの嫌がらせかっ?(笑)
ああ・・・でもこの楊ゼン君、かなりうらやましかったりして・・・
妲己ちゃんの美しさにクラクラする楊ゼン君と、焦りまくる楊ゼン君がとても好き。
「ね、姉様にはバレバレっ」とか言ってる楊ゼン君想像すると・・・・(笑)

「ウソばかり」な妲己ちゃん・・・いいなああああああ。出だしとかかなり好き・・・。

大根さん、またまたこんな美しいーーーーーーモノをありがとう!
なんだかもうあなたにはやられっぱなし!

 

 

 

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