むき出しの岩肌、崩れやすい足下。険しい尾根沿いの路を進む。
さすがにこの辺りはカメラを扱うのもちょっと気が引ける。
というわけで、次の記録はいきなり山頂である。
塩見岳山頂より。遠くに行くほど青みを帯びた稜線が、幾重にも重なっている。
この写真を建築家(の卵)の友人に見せていたら、「最初ツクリモノ(CG)かと思った」って。
確かに、レイヤーを幾層も並べたらこんな感じだ。
現実には、1レイヤーの「厚み」が10kmくらいあるわけだが(笑)。
岩の上で休むヨゴちゃん。すぐ向こうに見えるピークまで、数kmあるのだが、スケール感が伝わるだろうか?
岩場を下りきったあと。なだらかな稜線に戻ってきて、ちょっと一息。
この後の下りは、それなりに快調にあるいていった。二泊目を予定していた三伏峠に昼頃に着いた。
最初に予定していたコースタイム通りである。
突然話は変わるが、南アルプスは雨がよく降る地域ではある。南アルプス天然水って売っているほどだ。
しかし、この塩見岳、水は非常に乏しい。山頂付近はもちろん、三伏峠の山小屋でも、水場まで30分の山道を往復しなければならない。当然、山小屋の料理のレパートリーも限られてくるし、洗い物も困難であるため、建物の中でもやたらにサバイバルな環境におかれる。顔を洗う水もない。
まあとにかく、一言で言えば、塩見岳の小屋は滞在して「楽しい」種類の拠点ではないのである。ここで、我々お気楽野外活動部隊は予定を変更した。
現在午後1時。初日の三伏峠までのコースタイムは上りで約4時間。今回は下りだから、30分から1時間は短縮できるだろう。多少遅れたとしても、十分日没までに林道の駐車スペースまでたどり着ける。
だったら、することもないのに物資の乏しい三伏小屋に泊まるのではなく、いっそ下山して麓の温泉宿にでも泊まろうではないか、という判断を下したのである。
この時点では、それほどタイトな判断をしたつもりはなかった。
ただ、タイトな状況にあったのは、我々自身の肉体だったのである。
3時間半と見ていた行程の、最初の1時間を過ぎたあたりで状況が変わってきた。
ヒザの腱が疲労で痛み始めたのである。最初はヨゴちゃん、そしてしばらくしてジブンも。
下山のときは、ゆっくり降りようとするとかえってヒザに負担が大きい。わかってはいるのだが、足場が悪くてペースを上げられない。足の着地の方向をわざと変えて負担が集中しないようにするのだが、そんな不自然な歩き方では当然別な場所に負荷がかかる。バランスも崩しやすい。
そして、2人とも、急速に疲労していったのである。
1時間と見ていた行程で1時間半、そこから30分と見ていた場所までさらに1時間半。想定していたコースタイムからの遅れはどんどん大きくなっていく。
麓に近づくにつれ樹林も濃くなり、光が遮られて薄暗い。痛む膝をかばいつつ、疲労困憊して森を抜けたときには、すでに西の山際に残照がなごりを示すだけであった。
美しい夕焼けだった。 しかし、我々はまだ歩き続けなければならなかった。
一番星がきらめき、二番目の星が目に入り、やがて無数の星が天に瞬く頃、ようやく駐車スペースにたどりついた。
そして、痛む膝に最後の試練、マニュアルミッション車の運転が待っていたのであった……
おしまい。