塩見岳への道のりは、予想していたよりもなかなかハードだった。
最初から直登に近い急な上りがつづく。倒木や浮き石が多く、かなり野性的な雰囲気である。あちこちに土石流や枯れ沢の痕跡があり、大雨が降ったときのケイオスを想像させる。
倒木もなにやらワイルド。屋久島を思い出す。
休憩していて、丸太の上に寝転がっていたら、なんだかおもしろい構図に見えた。
針葉樹の枝が、雪の結晶かフラクタルか、と。
三伏峠には昼をしばらく過ぎた頃に着いた。計画にはなかったが、軽装であたりを散策することにした。とはいえ日も大分傾き、急速に気温が下がっている。風を避けられる上着が必要になっている。
散策の途中、稜線沿いを歩いていたら一瞬だけガスが途切れた。
切り立った崖のそばでは、ガスも雲も、本当にダイナミックに変動する。
ガスがものすごい勢いでこちらに向かってきたり、見る見るうちにもやが風で吹き散らされていったり。
視界数十mの数分後には、真っ青な空と緑の山並みが眼下に広がっていたりするのだ。

自分の足下に丸い虹ができる「ブロッケン現象」。自分自身の影も大きく映りこんで、光輪を背負った人が霧の中に浮かび上がっているようにも見える。
晴れ間は一瞬の間にすぎず、再びあたりは薄いグレイに閉ざされた。
小屋に戻ると、入り口の柱に掛けられた温度計が2.2℃を示していた。夕方と言うにはまだ少し早い、4時ごろのことである。すでに息は白くなっていた。