蝶ヶ岳、常念岳。 2002.10.03〜2002.10.05

*最初のアップからちょっと書き足したり引いたり。

 

 ライフジャケッツ、2002年の山行は初秋のアルプス、蝶ヶ岳〜常念岳の縦走テント泊である。縦走というのは、下から上に登る普通の登山に対して、てっぺん(頂上)からてっぺんへ移動していく山登りである。テント泊というのは、自分たちが寝るためのテントを自分たちで担いで登っていくという事である。

 目的地は出発の2週間ほど前まで定まりきらなかったのだが(ほかに燕岳なども候補に上がっていた)、決まってしまえばあっさりしたものだった。燕岳というのは、変わった形の岩がたくさんあって風景が面白いらしいのだが、常念・蝶ヶ岳は今紅葉の真っ盛りだということでこちらにしてみた。

 一番ベーシックな本沢・三股からの三角形を描くルートは、各辺に当たるそれぞれの行程が5〜6時間と比較的短い。健脚の人間や忙しくて2連休が精一杯の職業人などならば、一泊二日でこなすこともある。
 われわれは、ガイドや地図を眺めてこの数字に勝手に「余裕、余裕」という先入観を抱いていた。これだけ軽い行程なのだから、今回は山小屋泊ではなく、久々にテントを担いでいこう、という話になったのもある意味仕方のないことであった。

 それぞれ、重装備に備えて一月ほど前からこまめに運動をするようにしてはいた。
もっとも、心がけは良かったのだが、途中から少々「目的と手段」が入れ替わってしまったきらいがあり、”体を壊してでも運動をする”というおかしな状況になっていたことは「語り草」でも述べていたところである。
 結局、無理な運動がたたって出発の数日前まで体調不良に悩まされることになったのだが、まあ仕方ない。山中でも何度か辛い状況に陥ったのだが、これはまた本文中で述べることにしよう。
 なんにしろ、体調不良をごまかしながらどうにかするのも一つの「体力」の形といえなくもあるまい。

 さて、わかりにくい能書きはこれくらいにして。

 #ここまで読む間に、ナローバンドの読者でも以下の画像が表示されただろうか?

 

 

まずは地図を。

 今回登った蝶ヶ岳と常念岳は、長野県中西部、岐阜県との県境にほど近い辺りに位置している。この地図で言うと、上高地の右上、穂高岳のすぐ右側である。

 もう少し詳細な地域図を見てみよう。
 ちなみに、いずれの地図も元絵は Alps Mapping Corp.の「プロアトラス2000」からいただいている。文字のつぶれ等は私の編集によるものであることをあらかじめお断りしておこう。

 左側に以前登った穂高連峰が南北に連なり、ちょうど並行するようにその右側に、蝶ヶ岳(2677m)と常念岳(2857m)がある。今回は、地図の右の方角にある中央道豊科インターから本沢ぞい、三股から入山した。ここには数十台分の舗装済み駐車場(しかもトイレ付き!)が整備されている。
 木曜の入山時にはがらがらであったが、土曜に戻ってきたときには数百メートル先まで周辺の道路にも路駐車両があふれていた。

 自家用車でのアプローチは自由度が高く、また鉄道でのアプローチが楽な登山道に比べ人が少なく静かな登山が楽しめるというメリットがある。
 いくつかの有名な登山ルートでは、たとえば新宿から直行バスが出ていたりする。こういうルートでは、大量輸送によって運び込まれたくたびれた人の群れにまぎれて歩き出すことになるので、ちょっとテンションが下がり気味になる。(選択の余地のない人から見れば贅沢な話ではあるが。) なお、自家用車を利用しないものの懐に余裕のある登山者の場合、最寄駅から数十キロをタクシーで飛ばしてくることになる。
 ま、夜行列車に揺られて山に向かうのも、それはそれで雰囲気があってよいのだが。

 さて、本題に戻ろう。

 今回もメンバーは私とヨゴ隊員である。ライフジャケッツとしての登山はほぼ一年ぶりである。低山にはちょこちょこ登っているのだが、絵にもネタにもならない山行をわざわざコンテンツ化する気力はないので、読者的には存在しないも同じである。
 出発の寸前になってようやく情報を集め、細かい点を打ち合わせていたところ、「どうやらかなり寒そうだ」とやっと思いつく。そういえば、8月下旬に登った塩見岳で、上の方では大きな霜柱ができていたなかったか? 9月始めに登った穂高では、雪渓の上を歩いていたではないか。
 改めて防寒具を一回り強化し、パッキングしなおす。結局、水や食料を全部含めると、20kg近い荷物になっていた。重い… こんなんで歩き回れるのか?という不安が募る。ま、そこはそれ。毎回そんな感じだし、と。

…ちっとも本題に戻っていないか。

 改めて。この常念岳、蝶ヶ岳は二つセットでかの「百名山」にエントリーされている。その理由は、両山をつなぐ尾根の縦走こそがこのルートで最も素晴らしいからである。しっとりとした緑の残る麓から紅葉の中腹、秋空の天空が広がる山頂、そして遠く近くに穂高連峰の巨大な山塊を望むという最高のシチュエーションである。
 ライフジャケッツの活動の自慢すべきことの一つに、天候で悩まされたことがない、という点が挙げられる。今回も、関東甲信越を直撃する台風がまさにやってきていたのだが、出発日の前日には足を速めて北方へ抜けていき、後には台風一過の澄み渡った空が残されたのである。


 駐車場からの眺め。
 いい天気である。

 日差しは強いが風は涼しく、爽やかそのものである。
 なお、当初の計画では名古屋を4時に出発、8時に登り始めるという手はずだったが、実際に登山口に入ったのは陽もすっかり昇りきった10時近くであった…

#私が財布の中にお金を入れ忘れたり、高速道路の出口を間違えたり、というハプニングが立て続けにライフジャケッツを襲ったのである。やはり山をなめてはいけないということか。

 


 なにしろ日差しが強いので、ちょっと水辺に入り込んでみたり。

 

 登り始めは体の代謝が運動量とかみ合わないので、非常にゆっくりのペースをとる。久しぶりの山の雰囲気を味わいながら、最近の世間話を延々としゃべくっている。ファミレスでしゃべっているときとあまり変わらないテンションでボケ&突っ込みなどやっているので、まあ登山といってもわれわれの場合ストイックとは縁遠いものである。

 しばらく急なペースで高度を稼いでいくと、辺りの木々の葉が色彩に富み始める。
 かつて穂高で見たような真っ赤な色合いではなく、軽やかな黄色系の色彩が多い。紅葉一つでも、迫力があって濃厚な穂高の風景と華やかな蝶ヶ岳の山景では大きく異なるものである。「山の個性」というものを、あらためて感じた今回であった。

 


レモンイエローに近い淡く輝く黄色から、山吹色まで。
シャンパンを想わせる繊細な紅葉の木々である。

 

 

 空も高く、しっとりとして透明感のある青色である。

 

 

途中、湧き水が沢を作っている脇で昼食を取る。沢の両岸にはレモンイエローの並木が連なり、涼しい風が山上から谷間へ向かってゆっくりと吹いていた。

#登り始めてからまだ2時間もたってないのにもう飯かよ! という突っ込みもあり得る。

 


澄んだ水、柔らかな苔の緑、淡く緑味を帯びた透き通る黄色の回廊…
を撮りたかったんだけど露出が上手くあってないね。(^^;
ハイライト飛んじゃってら。


どうせハイライト飛ばすなら、こっちの方が”黄金の回廊”っぽいかな?

 


休憩場所からの眺め。
中央の白っぽい山が常念岳。蝶ヶ岳は左手の木の向こう。

 

蝶ヶ岳山頂へ向かう急登が続く。さらに高度を稼いで行くと、展望が開けた。


正面が常念岳。

急登でかなりへばっていたが、こういう風景に出会えればまた充実感がある。
登山って、ほんとにいいもんですね〜、ってやつである。

 ヨゴ氏も入れてもう一枚。ん〜、思えば遠くに来たもんだ。


正面左から常念〜前常念。
今回のルートは、左手からぐるっと尾根沿いに向こう側へ渡り、さらに右手に回り込んではるか足元の三股へ降りていく、というものである。
 んー、スケール感。

 


わたしも写ってみる。日焼け対策をしていなかったので、翌週はえらいことになった。

 

 

森林限界を超えた辺りから、素晴らしき眺望の中を歩けるようになった。しばらくするとかすかに谷底からガスが上がって来たが、視界さえ遮られなければそれはそれで雰囲気があるものである。

かつては岩隗だったのだろうか、砕けて地に散らばる瓦礫のような石、石、石。
足を乗せるたびにシャリ、チャリと硬質な音を立てる。

シルエットにかすむ山なみといい、悠久のときを感じてしまう。

 

そして、ほどなく蝶ヶ岳ヒュッテに至った。荷を下ろし、すぐそばの山頂へ向かう。

 


山頂にて。

 

稜線上ではとんでもなく強い風が間断なく吹き荒れ、あっという間に傾いてしまった日差しとともに、まだ4時台だというのにすっかり夕方の気分である。
防寒具を身に付けていても、風表には長くはいられない。

寒さに耐えかねて、さっさとテントにこもる。
夕食の調理も半分テントに入ったままである。半調理済みのご飯とレトルトで丼モノを作り、かきこむ。
 うまい。

山小屋を冷やかしに行き、食堂で缶ビールで乾杯。軽く夕日を眺めたら再びテントの中へ。6時前だが、シュラフにもぐりこむ。光もなく、寒くて、油断していると吹き倒されそうな風の中で外をうろつくというのはナンセンスである。だらだらと世間話や恋の話などしているうちに、うつらうつらしてくる。

風の音がゴウゴウと一晩中鳴っていた。シュラフから露出している部分が結構寒い。水平な場所がなかったので、地面が傾いていて寝返りを打つたびに大きく移動してしまう。姿勢が窮屈である。

いろいろなことをぼんやりと考えている夜は、とても長かった。

夜中、トイレのために何度か起きる。軽い高山病か、頭痛が続いていた。頭痛薬を飲んだら三十分ほどで収まった。普段クスリや酒を飲まないので、効きやすいのだろう。酔いやすいというのは困るときもあるが、こういうときにクスリでどうにかなるのはありがたい。

星が結構見えたが、なにしろすごい風である。数十秒上を向いているだけで涙と鼻水が止まらなくなる。星見どころではなくて、さっさとテントにもぐりこむ。
秋山でこんな有様なのだから、いったい冬山というのはどういう世界なんだろうか、と思ってしまう。

 

明け方には、写真好きな人たちが騒がしくて目がさめた。
「ご来光」とか、あまり興味はないのだけれどせっかく目が覚めたのだからと写真をとってみた。
こういうものは、写真で見ても何も感じないだろうけれど。

 

 

普通、登山行では、5時から6時ごろに行動を開始することが多い。
要は、太陽が出ると同時に、ということである。

山中では光や熱の確保が大変なので、太陽の存在は非常に大きい。そのエネルギーを最大に利用するのは、理にかなった行動である。

翻って、われらライフジャケッツはといえば。

朝っぱらから優雅にティータイム状態である。

日もすっかり高く昇り、あったかくなった頃にようやくテントを撤収し、例によって10時も近くなった頃に出立である。(^^;


まあ、こういう写真はやっぱりヨゴちゃんの方が絵になるということで。

 

しかしまあ、風表に出れば昼間といえども台風並みの風が吹き上げているわけで。
崖のそばに近寄ると、ほんとに立っているだけでかなり力を使って体を支えていないと倒されそうなのである。

おまけに、ごろごろした不安定な岩場で道幅も狭いときている。

風に煽られてよろけたら、二歩でホントにあの世に逝ける、というタイトな状況である。

よって、写真どころではなかったので(たとえば、うっかりレンズキャップやストックを落としたとしても絶対に拾いに行けない)、真剣にやばい場所の記録はない。


飛ばされそうになって「どひ〜」とか叫んでいるYossie。
防寒具のボトムが背後からの風であおられて、パラシューターパンツ状態である。

 

蝶ヶ岳から常念岳へは尾根沿いの縦走になるのだが、途中で結構高度を下げることになる。再び紅葉の樹林帯に入るわけである。

樹林帯では風も遮られて穏やかになっているので、まさに『北風と太陽』状態である。

ほっと一息つける。

山中で何度か、自生の植物群でありながら、非常に洗練された日本庭園のような風景を目にした。

清らかな池や沢があり、そのほとりに下草が柔らかく生い茂った日向のスペース、木陰には緑に苔むした石、周囲をぐるっと取り囲むように輝かしい色彩の紅葉の木々。

いつまでも休んでいたいような気分に浸るとともに、日本庭園で感じる安らぎというのは、山中で出会うこういった「安全で快適な空間」の記憶なんではなかろうか、と。

豊富で澄んだ水、暖かな日差し、柔らかな寝床、風除けとなる木々。

どれも山中や野原では得がたいものである。日本庭園には、そういった要素が凝縮されている気がするのである。

 

 


樹林の間から見えた常念岳。岩が露出してごつごつとした山肌。
「おいおい、ほんとに今からこれ登るの?」って。

 

樹林帯を抜け、再び高度を稼ぎ始めると、森林限界をあっさりと超えた。

 

猛烈な風の吹き付ける荒涼とした岩場を、一歩一歩登っていく。

 

 

常念岳の頂上を越えて。


ここもまたやたらに風が強かった。

 

 


ちっちゃくYossie。

 

穂高連峰の山なみは、二日目の行程の間ずっと眼前にあった。
巨大な岩隗。
圧倒的な質量と密度を示して、そこにある。

大きすぎて、とても写真には収まらないのである。
あえて少し離れてからの一枚。


これだけはっきり槍が見えるのは週に一日あるかどうか、と通りがかりの人が言っていた。

 

二日目の夜も、さっさとテントの中へ。
今度は稜線から少し下ったところで風は弱かったのだが、それでも寒いことには変わりはなかったのである。

丸二日も山中で過ごすと人間野生に戻ると言うか、なんだか下ネタばかりしゃべっていた気がしなくもない。

この日は、夢を見るほど眠っていた。

 

 

三日目。

朝から飲茶気分のゆったりとした食事。

普通、登山の朝飯で3回も何かを煮炊きするなんてありえない。(笑)

山小屋にも客の姿が見えなくなった頃に、ようやくテントを撤収。出発の準備をする。

 


高度差のないルートなので楽勝かと思いきや、数m単位の上り下りが…
足元も悪くて結構こわかった。

 

前常念岳へのルートの途中で、雷鳥に遭遇。

結構かわいい声でなくのだなあ、と。しかも、あまり逃げるそぶりもなく、2mくらいまで近づいても慌てた様子もなかった。

ストックで殴りつけたら獲れそうな距離だったけれど、そんなことはしてません。(笑)


ぽろっぽー、みたいな感じで鳴いていた。
  


足元はもう冬支度。もこもこで暖かそうである。

 

 

下りは、森林限界に入ってからはひたすら木立の中の急坂。

ルートを逆に回ってきている人々は、初日の出だしにおそろしく苦痛に満ちた行程を体験したことだろう。。。

ストックをフルに使い、四足獣の気分でスッタカスッタカ降りてきた。ダブルストックで軽い下りの山道を早歩きしていると、カモシカと言うほど優雅ではないが、多足歩行機械くらいの気分が味わえる。
トレイルランニング、というジャンルのアウトドアアクティビティがあるのだけれど、なるほど楽しそうだ。
自分の足で移動しているのに、普段では味わえないスピードと自由度でステップを踏めるのである。

 

道中のお遊び。


中央やや右に顔が浮かんでいる!
巨大な倒木の根があったのである。

 

 

そして、ある意味今回のベストショットかな、とひそかに思っている一枚。

(として載せてみたら、本人からは「なんかおっさん臭い写真だなあ」と言われてしまった)

 

ライフジャケッツのトップに使おうかな、って。

 

いやあ、今回もまた、「最高の天気と友人に感謝」である。

ライフジャケッツでした。

 

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