「いきもののはなし」も第6回となりました。ここから数回にわたり、進化論について連載していこうと思っています。
「進化論」といえば、ダーウィンを無視して論ずるわけにはいきません。少なくとも、一般的なの生物学の教科書ではそうでしょう。
ま、アメリカでは進化論を教えることが罪になったり、同じだけの時間をかけて神がすべての生物を作りたもうたのだ、と教えなければいけなかったりしたわけですが。
ところが、この「ダーウィニズム」、弟子、孫弟子と伝えられているうちに、一言で片づけられないほどに多様になってしまったのですね。
一体ダーウィン自身は何を言ったのか、ダーウィニズムはどう変化してきたのか。ちょっとのぞいてみることにしましょう。
ダーウィンのもっとも有名な著作である「種の起源」は、非常な大著で、しかもその内容の理解も難しい(文学的な意味においても)文書です。おそらく、生物学者として名をなしている偉大な研究者の間でも、これを原書できっちりと購読している方は少数派ではないでしょうか。
もちろん、わたしも後世に出版された、ごく薄っぺらな関連書物を眺めたにすぎません。よって、このあたりの議論については、専門家の方から見れば非常に幼稚なものとなっていることでしょう。
が、そんなことをおそれていては「いきもののはなし」は進みません。なにしろ「非学術的読み物」ですから、シンプルに行きましょう。
ダーウィニズムの基本は、学者によって解釈が異なるのですが、大まかに言えば以下のような理論です。
▼同じ親からの子の間にも変異があり、その個体間で食物などをめぐって生存競争が起こる。環境に適した個体が生き残り、これが代々積み重なって進化が起こる。
もう少し段階をわけて検討してみましょう。
1)生物個体は変化する(突然変異)
2)生物は、その環境が許容する個体数以上に子を産むので、その中で生き残るために、ライバルを打ち負かして、食糧を確保し、天敵から逃げなければならない
3)個体の変化がたまたま環境に適応し、生存の役に立つものであれば、その個体は生き残りやすいだろう(自然淘汰)
4)その個体の変化が、遺伝するものであれば、その子孫も生き残りやすいであろう
5)生き残りやすい子孫は徐々に増えていって、やがてその種の多数を占めるかもしれない
6)結果として、種はより環境に適応した形質を目指して変化していくように見える(種の変化)
つまり、突然変異 → 自然淘汰(適者の選択) → 種の変化、という流れですね。
この古典的なダーウィニズムは非常にシンプルな説明と言えます。突然変異によって優れたものと劣ったものが生まれる。優れたものは、競争に勝って生き残る。その子孫も優れている。だからだんだん、子孫の割合が増える。その結果、種全体が優れた、高等なものへ変わっていく。
ところが、この古典的なダーウィニズムではどうも説明のしにくい現象がいくつかあります。有名な例として、巨大すぎるアイルランドエルクの角の話を紹介しましょう。
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| 上野の国立科学博物館のもの。あまり大きくはない。 |
アイルランドエルクは巨大な角を持ったシカの仲間で、角の端から端までの長さは、大きなものでは3m半、重さにして50kg以上になったといいます。ヨーロッパやアメリカの主要な博物館は、大抵この巨大な角の標本を持っており、中世の城などでも貴族のコレクションとして残っていることがよくあります。
このような巨大な角は、木々の茂る森の中を移動するときには非常にやっかいなしろものだったでしょうし、池や小川の水を飲むことさえ、常におぼれる危険を伴う作業となったでしょう。武器としても、あまりに大きなその慣性モーメントは重大な欠陥であったはずです。
サーベルタイガーは、犬歯が下あごのさらに下方にまで伸びた種であり、このように長く伸びてしまった犬歯は、明らかに武器としての機能を失ってしまっています。
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| アイルランドエルクの全身骨格。 |
これらの生物は、このように重大な欠陥をもって生まれてきたために、やがて絶滅してしまったのだと考えられています。とすると、先ほどのダーウィニズム、適者生存ではうまく説明できないわけです。不適者は、個体として出現することはあっても、淘汰され、一個の種を形成することができないはずだからです。
そこで、アイルランドエルクの例を説明するために出されたいくつかの仮説を紹介してみましょう。
1.性淘汰による説明
…アイルランドエルクのメスは、より大きな角を持つオスを選ぶ性質があったため、「自然」ではなく「メス」による淘汰により、このように角が大きくなり続けた。
2.環境に不適合ではなかったという説明
…アイルランドエルクが繁栄した環境は、草原であり、大きな角を持っていたとしても移動や生活の障害にはならなかった。その後環境が急激に森林へと変わったので絶滅した。
3.相対成長による説明
…アイルランドエルクは、角だけでなく体も巨大であった。角の大きさと体の大きさは、相対的にある定数の下で増大しており、角が巨大になったのは体が巨大になったことの結果にすぎない。体が大きくなることには、大型草食獣に共通する一般的なメリットがある。
4.定向進化による説明
…アイルランドエルクには、角の巨大化という定向的進化がその祖先の段階から生じていた。このような定向進化は、環境によって抑止されないので、重大な障害となるまで巨大化し、その結果絶滅した。
仮説として4つを並べてはいますが、厳密には同じレベルではありません。
1.と3.は「角が巨大化した積極的な理由」、4.は「角が巨大化してしまった消極的な理由」、2.は、1.と3.について、巨大化した角を持ちつつアイルランドエルクが種として成立できた理由、にあたります。
定向進化、という考えはまたそのうち説明しますが、最初にこれはダーウィニズムを攻撃する道具として使われたので、一般的にはダーウィニズム的でない説、と考えられています。
それぞれの仮定の細かな議論は、以下の議論では重要ではないので省略します。重要なのは、ここで、学者たちは岐路に立たされた、という点なのです。
選択肢としては、こんな感じでしょうか。
ここで、3.に挙げた、いわゆる「ネオ・ダーウィニズム」が登場します。
ネオ・ダーウィニズムも非常に定義の難しい学説です。なぜかというと、「ダーウィニズム」を名乗るネオダーウィニストと、「ネオ・ダーウィニズム」を名乗るダーウィニストが現れ、しかもネオ・ダーウィニストとダーウィニストの間でどちらがダーウィンの真の継承者であるのか、という争いがあったためです。
そのようないきさつがあるのですが、話を進めるために、ここでは適当な一つの説を採ってしまいます。それは、
▼ある個体が残し得た子孫の数をもってその個体の適応度を示す
という考えです。
「よりよく適応した個体は、より多く子孫を残す」というダーウィニズムを、「より多く自分の子孫を残し得た個体は、よりよく適応していた」と読み替えるわけです。
すると、ここで言う「適応度」には、その個体がどれだけ機能的であったか、ということは関係がなく、まさに生き残ったものが適応していた、という説明になります。
そして、進化とは何か。各個体が、自分自身の適応度を高めようと努力した結果、より多く子孫を残した個体の遺伝子が残っていき、それによって種が少しずつ変わる、という説明になるわけです。
「強い者が勝つ」のか「勝った者が強い」のか、そしてこの二つは本当に等しいと言えるのか?
ちょっと長くなりすぎたので、ここでいったん文を閉じます。
次回の配信予定を少し変えて、「ダーウィニズム小考(2)」とします。
→ 第7回 「ダーウィニズム小考(2)」
……無方向な変異、純粋な競争。